先入観、偏見というと少しキツい印象を受ける言葉ですよね。実際に先入観や偏見があったとしても、口に出して指摘するのはなかなか難しいものです。
そこで受け皿になるのがバイアスというカタカナ語です。
先入観や偏見の代わりに使えるほか、文章上で組み合わせる際も活用しやすいのが特徴です。
バイアスについての理解を深め、いっそうの有効活用につなげましょう。
バイアスとはどんな意味?語源は「斜めであること」
バイオスの語源はフランス南部、オック語の“biais”だとされています。
“biais”とは傾斜があること、斜めであることという意味です。
語源を踏まえてバイアスの持つ性質に注目しつつ、意味についても確認していきましょう。
英語「bias」のカタカナ語
オック語の“biais”は、英語圏において“bias”というスペリングで定着しました。
やがて“bias”がカタカナ語化され、日本にも広まっていったのです。
バイアスは「先入観」「偏り」「偏見」
バイアスは一般的に、先入観・偏り・偏見という意味で使われます。
業界や分野によって多少変わってくるものの、基本的な意味用法は共通といえます。
バイアスがかかるとはどんな状態なの?
表現上でバイアスを使う際、特に多いのが「バイアスがかかる」という言い回しです。
バイアスがかかるとは先入観や意図などが介在し、客観性が損なわれる様を指します。
例えばプロパガンダが該当します。特定の物事について第三者が強い意見やメッセージを発信すると、恰も真実であるかのように錯覚してしまう場合がありますよね。
すると自分自身の目で真実を見極める前に、第三者が発した意見やメッセージの内容に同調してしまう可能性があるのです。
バイアスがかかる状態について尋ねられた場合は、プロパガンダの例を思い浮かべればよいでしょう。
バイアスの正しい使い方を例文でチェック
続いて、バイアスを文章の中で組み合わせて使う場面を想定してみましょう。
それぞれ例文付きで紹介します。
バイアスがかかる
バイアスがかかるとは、物事に対して誰かの意図が加えられているということです。
つまり偏りや先入観が入り込んでおり、客観的でない様を指します。
偏向報道をイメージするとよいでしょう。
例文
ネットニュースの一部には、記者が思ったことをそのまま文章化し、ノーチェックで公開していると思しきものがある。そのため内容に客観性や裏付けが乏しく、バイアスがかかった記事も散見される。
バイアスをかける
バイアスをかけるという場合、自身が主体となって物事の方向性をコントロールすることを指します。
すなわち、対象に触れた人物の印象を操作しようという点が特徴です。
ただ単に、自らの意図を反映させるというだけでは不十分ともいえます。
例文
当社商品の購買意欲をかきたてるため、巧妙にバイアスをかけることにした。ついては危機管理意識を喚起するためのCMを作る。競合商品を貶めるのではなく、消費者心理を刺激する作戦として常套手段だろう。
バイアスがはたらく
バイアスがはたらくとは、先入観が作用するということです。
つまり物事を認識したり判断したりする際に、先入観が影響を及ぼすという意味ですね。
もしもバイアスが悪い方向にはたらいた場合、判断を誤ってしまう可能性にもつながるということです。
例文
ネット上のレビューに好意的な意見が多いようだ。慌てて1クリック購入で即決したのだが、後日手元に届いた商品は期待を下回る内容だった。ネットの情報によって、バイアスがはたらいていたのに無自覚だったのが反省点だ。
ビジネスにおけるバイアスの意味や使われる背景とは?
ビジネスシーンにおけるバイアスは、一般的な用法と比べてやや特殊です。
中でも組み合わせによるフレーズを3つ紹介します。
メディアバイアスの意味
メディアバイアスとは、報道機関が情報を伝える際に生じる齟齬の問題です。
報道機関は限られた時間の中で情報を伝えようとします。よって状況によっては内容を端折ったり、十分な根拠を示せなかったりといった場合があります。
1973年のオイルショックに伴う社会現象は典型例です。ニュース上で、たまたまトイレットペーパーを大量購入する一般市民の映像が放送されました。
報道側は特別のメッセージを込めたつもりはないとされています。しかし断片的な映像のインパクトは強烈で、まるで日本中で紙資源の枯渇が起こるかのような恐怖感をもたらしたのです。
ジェンダーバイアスの意味
ジェンダーバイアスとは、職場や学校など社会的な集団の中で生じる性差を指します。
いわゆる男女間における待遇の差であり、男らしさや女らしさといった通念的な性別イメージも含まれるとされます。
今では死語になりつつありますが、男尊女卑という言葉が日本に存在していた事実は知っておくべきでしょう。
無意識(アンコンシャス)バイアスの意味
無意識バイアスとは、文字通り無意識下で引き起こすバイアスのことです。
物事に接した際、本格的に思考を始める前に起こる知的連想プロセスの一つとされています。
人によって価値観や思考様式は大きく異なります。というのも生い立ちや受けてきた教育、あるいは人生経験など様々な要因が作用しており、完全に均一なものはありません。
従って、誰もが大小の無意識バイアスを持っているといえます。
心理学におけるバイアスの種類とは?意味をカンタン解説
先述の無意識バイアスは、心理学のテーマとしても扱われる概念です。
心理学におけるバイアスは他にもいくつかあります。代表的なものを4つ紹介します。
認知バイアス
認知バイアスとは常識や周囲の環境など、種々の要因によって非合理的な判断を行ってしまうことを指します。
瞬間的に発生する無意識バイアスとは異なり、自身の正常な思考が介在する点が特徴です。
例えば自分としては適切に判断したつもりでも、実は誤りだという場合があります。
つまり客観的に事実関係を捉えた際、最適な判断がなされていないという結果も起こり得るということです。
テストで○✕問題が出される状況を考えてみましょう。
十分な根拠があり自信を持って回答したのに、蓋を開ければ間違いだったという経験はありませんか。
誰もが一度は経験しているはずです。すなわち、認知バイアスは至るところで起こっているということですね。
確証バイアス
確証バイアスとは仮説や信念を検証する際、自身に有利な情報ばかりを集める傾向のことです。
つまり反証や不利な情報を無視し、客観的な事実や科学的な真理から目を背けてしまうのです。
認知バイアスの一種であり、いわゆる反知性主義的な思想と親和性が高いのも特徴です。
後知恵バイアス
後知恵バイアスとは、物事が起きた後になってから本来予測できるものだったと考える傾向のことです。
いわゆる後づけの理屈であり、災害や政治事変などの大規模な変化に伴ってしばしば顕在化します。
現在志向バイアス
現在志向バイアスとは、行動経済学で定義された概念の1つです。
内容は将来得られる利益よりも、目先の利益を得ようとする傾向のことです。
人間は、将来の利益の方が勝っているという合理性が明白であったとしても、目先の利益を優先してしまう傾向があるといわれています。
つまり、人は必ずしも合理性に従って行動しているとは限らないということですね。
その他のバイアスが使われる背景をシーン別にチェック
これまで紹介してきた用途の他にも、バイアスが使われる場面は数多くあります。
シーン別に見ていきましょう。
統計学におけるバイアス「サンプリングバイアス」
統計学におけるバイアスとして、サンプリングバイアスというものが有名です。
統計を実施するに当たって対象の母集団(全データ)を検証するのではなく、対象の標本(一部)を抽出する手法をサンプリングといいます。
サンプリングを行うことで標本に共通する傾向を掴み、帰納的に母集団の特徴を推し測ることができると考えられます。
しかしサンプリングの標本として、母集団を代表しない特性を持つデータが混入する場合があります。これがサンプリングバイアスです。
つまり母集団とは異質なデータがピックアップされ、母集団の性質をミスリードしてしまうおそれがあるということです。
IT分野や電気工学におけるバイアス「バイアス電圧」
IT分野や電気工学におけるバイアスとして、バイアス電圧というものがあります。
トランジスタや真空管といったハードウェア機器には、いつでも動作できるよう予め電流を流しておくのが一般的です。
予め電流を送る際には、信号を直流にしておく必要があります。そこで、バイアス電圧を加えて直流電圧にするという仕組みです。
医療業界におけるバイアス「サンクコストバイアス」
行動経済学の用語にサンクコストというものがあります。既に費やし、もはや回収できなくなってしまったコストのことです。
サンクコストバイアスとは、サンクコストに引きずられて合理的な行動が妨げられることを指します。
医療業界においてもサンクコストバイアスは存在します。例えば、治療・投薬のアプローチを変更したり、中止しようとしたりといった判断が最適な場合がありますよね。
しかし、途中まで進行していた治療や投薬が無駄になってしまうことを嫌気し、継続を希望する意志が働く場合があります。
すなわち、サンクコストバイアスに陥ってしまうということです。
金融業界におけるバイアス
金融業界におけるバイアスとは、景気や市場動向における偏りや偏見という意味です。
一般的に、景気や市場動向はトレンドと呼ばれています。トレンドには客観的に概況を捉えるニュアンスが含まれます。
一方バイアスの場合、概況把握の仕方が主観的であったり、偏向的であったりするのが特徴です。
バイアスの付いたコトバの意味をまとめてみた!
今度は、業界専門用語よりも少しカジュアルなフレーズを紹介します。
バイアステープ
バイアステープとは、布をバイアス方向に線を引いて裁断し、布端を折ってテープ状にしたもののことです。
バイアス方向とは、布地に対して45度の角度を指します。
バイアスの語源に「傾き」という意味があることを思い出すとよいでしょう。
斜めの方向で裁断することにより、垂直方向と比べて高い伸縮性が生まれるといわれています。
バイアスタイヤ
バイアスタイヤとは、バイアス構造を採用したタイヤのことです。
タイヤの骨格をカーカスといい、カーカスをバイアス方向(斜め)に配置する様式がバイアス構造というわけです。
製造方法が容易であり、低速時と悪路での走行に適するといわれています。
バイアス男子
バイアス男子とは、極端に偏った性格・嗜好・ライフスタイルを持った男子のことです。
大雑把にまとめると草食系男子やネガティブ男子といった若年層男子のタイプに、新たなラインナップが加わったと考えればわかりやすいでしょう。
バイアスの同義語や言い換えをチェック
バイアスがカバーする意味や範囲は非常に幅広く、全てを網羅することは困難です。
そこで代表的なものをいくつかピックアップします。
傾き
バイアスの語源に最も近い和訳が、傾きです。
斜めや偏りといった派生のニュアンスも、元々は傾きに由来しています。
偏り
偏りとは一般的でない、もしくは客観的でないという意味合いです。
偏見、偏向なども偏りの一形態であるため、代表格として偏りをピックアップします。
先入観
先入観とは、いわゆる思い込みのことです。
例えば物事を見たり判断したりする際、先入観が作用する場合があります。
まとめ
バイアスはあらゆる場面に潜んでいることにお気づきいただけたでしょう。特に認知バイアス、現在志向バイアスなどは現代人にとっても解決が困難な問題です。
もしかすると人間である限り、逃れられない部分があるのかもしれません。しかしバイアスの種類や性質を知ることにより、対策を講じることは可能なはずです。
正しい知識を身につけ、バイアスとうまく付き合っていけるようにするのがベストでしょう。