ビジネスや学術における思考法として、ロジカルシンキングは有名ですよね。
実のところロジカルシンキングという呼び方は総称であり、内実はさらにいくつもの方法論に分かれるのです。
当記事で取り上げるのはロジカルシンキングの1つ、“mece”という思考方法。
meceの呼称こそあまり浸透していませんが、内容を知れば意外と馴染みのある方法論だとお気づきいただけるでしょう。
mece(ミーシ―)の意味とは?必要性についても解説
meceの要領はシンプルです。肩肘張らずに内容をチェックしていきましょう。
meceとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略
meceとは“Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive”の頭文字をとった略称で、「ミーシー」と読みます。
ミーシーの意味は相互に排他的で、なおかつ完全な集合体であること。互いに重複せず独立しており漏れなく集合しているという意味で、より簡単に要すれば「必要な対象が、漏れやダブリなく網羅されている」ということです。
具体的な例としては商品在庫の実地監査を行う際に、サンプリングによる監査方法を採用する場合をイメージすればよいでしょう。
膨大な商品の中から監査の条件に見合う商品を必要分だけ抽出できれば、漏れやダブリなく実地監査を行えるはずですね。
ロジカルシンキングの基礎となる考え方
meceはロジカルシンキングの中でも、基礎に当たる思考法。なぜなら思考や考察を行う際には、材料もしくは構成要素を全て用意する必要があるからです。
例えば科学的な実験を進めていく中で優れた結果が得られたとしても、前提条件に重大な不備があったり、実験の手法に疑問の余地が発覚したりした場合は成果が無効になってしまいますよね。
実験開始の前段階、すなわち準備の時点で漏れやダブリなどが生じた場合は、以降の実験全体に疑義が浮上してしまうのです。
裏を返せば、実験を開始する前に準備を完璧に済ませ、実験を妨げる要素を徹底的に排除する必要があるということ。
一見すると大がかりな科学実験も、大きな流れの中では仮説に対する検証行為と位置づけられます。すなわち科学実験にもmeceの方法論を適用できるということですね。
もちろんmeceの対象は科学実験に限りません。meceはあらゆる行動や思考法の前提・下準備として、有効なメソッドになり得ます。
ビジネスシーンでもmeceを積極的に取り入れる動きは進んでおり、特にIT企業のようにプログラム能力だけでなく、デザイン思考も要求される業界では必須の手法といえるでしょう。
近年では企業向けのmece教育カリキュラムも登場しています。中でも会場に多くの人が集まる講義形式ではなく、インターネットを利用した「eラーニング」というトレーニング方法は多忙なビジネスパーソンにとって効率性が高く、注目すべきシステムといえるでしょう。
問題をシンプルに理解するために必要
meceのポイントは無駄・漏れ・重複を排除するということ。ポイントを踏まえた上で、meceの意義をもう一度考えてみましょう。
neceの意義とは、必要な情報や構成要素を余すところなく網羅し、最短かつ効率的に結果を追求するというものです。
meceの意義と活用法を把握していれば、種々の問題をシンプルに理解できるようになります。問題解決のために必要な要素と不必要な要素を仕分けし、効果的かつ最短の道筋を描けるようになるのです。
繰り返しになりますが、meceは問題解決の下準備を行うメソッドとして欠かせません。meceによって問題にまつわる無駄が削ぎ落とされ、論点や道筋が明確になるはずです。
meceを活用できるか否かによって、問題解決に至るまでの時間やコストは大きく左右されるでしょう。
特に会社全体を動かすような大規模な事業戦略やマーケティング施策を立てる上では、いかに無駄や重複を排除できるかが決め手になります。meceは企業経営にも大いに役立つのです。
mece(ミーシ―)はどのように使う?4つの切り口を使い分けてトレーニング
meceの意義や効能をおわかりいただけたところで、今度は運用の仕方を解説します。
meceは4つの切り口に基づいて実施するのがセオリー。切り口を順番に見ていきましょう。
フレームワークを使用
meceを行う際のアプローチとしてよく知られているのが、フレームワークという手法です。
フレームワークとは枠組みを利用した論理的思考のこと。古くからある思考の方法論として洗練されており、汎用性が高く様々な場面に適用できるのが特徴といえます。
いくつかあるフレームワークの中でも代表的なのが、ロジックツリーという手法。ロジックツリーとはテーマを1本の木に見立て、枝葉の形で論考を積み重ねていく思考法です。
ロジックツリーでは最初に主題を設定し、1本の木に見立てます。続いて主題を形成する副題を、枝として木から分岐させるのです。
副題に付随する詳細な情報は葉に当たります。なぜ思考内容を木の形にするかといえば、テーマに対して結論を導く際に、幹や枝といった根幹の要素と、葉のように詳細な情報とを区別する必要があるから。言うまでもなく、問題を可視化するのにも有効ですね。
ロジックツリーのほかには、SWOT分析というフレームワークもよく知られています。SWOT分析とは市場におけるビジネスチャンスを発見するべく、自社を取り巻く環境と自社の状況を相対化して考える手法です。
SWOTはStrengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats (脅威) の頭文字をとったもの。
就職活動や転職を経験した方なら、もうお気づきでしょう。SWOT分析のアプローチは、面接対策として行う自己分析のアプローチとそっくりですよね。自己分析の他に「市場におけるポジション」という視点を加えるだけで、SWOT分析は誰でも容易に実施可能なのです。
ロジックツリーやSWOT分析に限らず、思考の内容を体系化し、論理の構造を図表の形で可視化できるのはフレームワークの大きな利点といえるでしょう。
時系列順に仕分けする
meceのアプローチとして、時系列の順番で仕分けするのも有効な切り口です。
代表的なものとして、メーカーにおける商品の製造工程をイメージすればよいでしょう。最初は部品や材料の段階からスタートし、加工や成形の工程を経て製品になります。
さらにいえば、製品もそのままでは商品として店頭には並べられません。厳密なチェックのルールに基づき、検品をクリアした個体だけが顧客に提供できる売り物、すなわち商品とみなされ出荷を許されるのです。
時系列の考え方は文章や音楽においても当てはまります。文章、音楽ともに起承転結の概念がありますよね。
例えば初めて触れる本を途中から読み始めたり、初めて聴く曲を途中から再生したりと、無作為に局所的なポイントを取り上げるだけでは全く内容を理解できない可能性が高いでしょう。
ところが前後関係や係り受けの関係に気づき、起承転結を系統立てて理解できれば作品の価値もわかってくるはずです。
対象を整理し、時系列順に仕分けすることは、物事の本質を掴む上で非常に大切な行為であるということですね。
因数分解する
meceの切り口として、因数分解してみるのも有効な手立てです。今度は数学を引き合いに出しましょう。数学上、因数分解を行う上で必要な条件とは何でしょうか。答えは簡単、同類項を見つけることですね。
対象を同類項ごとに分類することによって無駄・漏れ・重複を排除し、必要なものだけを残すので、結果として問題を最小限にスリム化できるというわけです。
要素分解する
因数分解と似たmeceのアプローチとして、要素分解が挙げられます。因数分解の特徴は共通の要素を見つけて、同類項で括っていくことですよね。
一方要素分解の場合は、共通の要素があるか否かを問わず、最小単位のメッシュで全ての要素を分解していきます。
要素分解はmeceの「漏れなく・ダブりなく」を実践するに当たって最も確実な手法であり、時間はかかっても全ての要素をチェック・分析できるという長所があるのです。
注意点は切り口を混在させないこと
お伝えした通り、meceには大別して4つの切り口があります。注意すべきこととして、4つの切り口は混在させてはいけません。
例えばロジックツリーによる論考を行う場合、同時並行で時系列による分析を行うことは避けるべきです。
アプローチの方向性が全く異なるため無駄が生じますし、むしろ作業を進める上で混乱を招くでしょう。
因数分解と要素分解も、分解という点ではよく似たアプローチであるものの両者を組み合わせて実施するべきではありません。
因数分解と要素分解とでそれぞれ目的の異なる分解作業を実施するため、無駄が生じてしまいます。無駄が生じるということは、meceの目的に反するといえるのです。
mece(ミーシ―)に考えるためのコツやアプローチ方法
meceに基づいて思考するには、発想や切り口だけでなくコツも必要です。
meceに役立つコツを、アプローチの仕方別に紹介します。
トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチとは全体像を把握した上で、特定部分に対してピンポイントでフォーカスしていく要領です。
論理学でいうところの演繹法を取り入れたもので、全体のバランスを考慮し最適で無駄のない対処の仕方をするのが特徴。
後述するボトムアップアプローチとは反対に、個別案件の特徴や特殊要素については基本的に考慮しません。
特に政治、経営の分野においては、主に豪腕タイプのリーダーが採用する手法として知られています。
ボトムアップアプローチ
ボトムアップアプローチとは、いわゆる草の根レベルからスタートする行動様式です。
最小単位、末端の要素を少し網羅していき、少しずつ課題や情報を集め、最終的に全体像にたどり着きます。
論理学でいうところの帰納法を取りいれたもので、個別の事象を少しずつ積み重ね、やがて全体に共通する問題や特徴などを看破するという要領が特徴です。
ボトムアップは、ロジックツリーでいえば幹よりも先に葉のレベルからスタートする要領です。
葉にまつわる全事象を網羅したものが枝であり、それぞれの枝から辿り着くものが幹。最終的には末端の葉から幹に向かってつながった、全ての枝葉の集合体が木であると考えるわけですね。
mece(ミーシ―)分析は頭で考えずロジックツリーを活用するといい!
meceによる分析を行う際には、最初から個別事象の詳細に切り込むことは避けるべきです。
mece分析において手始めに行うべきは、問題の全体像を掴むこと。というのも全体像を把握できれば、ロジックツリーを構築できるようになるからです。いきなり末端にある個別の葉について精査するのでなく、まずは1本の木というアウトラインを描くことが肝心ということですね。
ロジックツリーはシンプルで明快な上に高い効果を得られるため、mece分析には欠かせないメソッドといえるでしょう。
まとめ
meceとはどんなものか、おおよそ掴んでいただけたでしょう。meceの手法は多岐に渡り、どれか1つのアプローチに限定されるわけではありません。
お気づきの通りmeceとは1つの技術というよりも、体系化されたノウハウというべきものなのです。
meceを実施する場合は1つの手法にこだわるのでなく、場面や状況に応じて最適な切り口やアプローチを選択する必要があるといえるでしょう。