動機や刺激という代わりに、モチベーションと表現することが多くなっていますよね。心理や精神に関するカタカナ語の中でも、モチベーションは特に浸透している語句といえるでしょう。
モチベーションとは元々、プロのアスリートを中心に使われていた言葉。今ではビジネスや勉学においても常用されるようになっています。
慣用的に使われるがゆえに、モチベーションに関して整理された知識に触れる機会は少ないのではないでしょうか。
モチベーションの語源や日本に広まったきっかけのほか、例文なども併せて紹介します。
意欲の源?モチベーションの意味をわかりやすく解説
モチベーションのルーツとは、一体どのようなものでしょうか。
日本で広まったきっかけも意外なところにあります。まずは基礎知識から辿っていきましょう。
物事を行うための刺激や熱意のこと
モチベーションとは、物事を行うための刺激や熱意を指します。モチベーションは給料のように報酬や対価として支給されたり、あるいは努力して勝ち取ったりするものではありません。
モチベーションとは物理的なものではなく、自らの心の内側から湧き上がる衝動なのです。
一方で「モチベーションを保つ」という言い回しがあるように、モチベーションを維持・コントロールすることは可能です。
物事に取り組む姿勢や熱量といった要因が作用し、モチベーションの状態が変動することもあります。
語源となるモチベーションの英語「motivation」の意味
モチベーションの語源は英単語“motivation”で、「動機」や「刺激」を表します。
“motivation”の派生語である“motive”は、対象を駆り立てる・動かすという意味の動詞。
翻って注目すれば、名詞形の“motivation”に動機や刺激という意味があるのも納得ですね。
98年W杯の報道で多用されビジネスシーンでも!
1998年にフランスで開催されたサッカーワールドカップは、日本が男子プロサッカー史上初めて出場を果たした記念すべき大会。
大会本戦の期間中はもちろん、予選を通過し出場が決定した瞬間から日本中が大騒ぎに。
TVを中心としたマスコミも連日のように特集を組み、サッカー日本代表に関するニュースを取り上げました。
もちろん代表に選ばれた選手たちは意気揚々で、選手たちの高い士気を表現する際にマスコミがこぞって使いだしたのが「モチベーション」という、真新しいカタカナ語だったのです。
98年のワールドカップ以降、サッカー以外のあらゆるスポーツはもちろん、ビジネスや日常生活においてもモチベーションが使われるようになったというわけですね。
モチベーションはどんなシーンで使われている?
モチベーションは様々なシーンで使われていると述べました。具体的な場面を挙げてみましょう。
ビジネス
ビジネスにおけるモチベーションというと大掛かりに聞こえますよね。
例えば企業が総力を挙げて取り組む大きなプロジェクトや、予算達成に向けた意欲・熱意は最たるものでしょう。
一方、日々の勤労に対する従業員の意欲も立派なモチベーションです。
モチベーションとは、個々の心に内在する意欲の源。対象の大小は二の次でよいのです。
スポーツ
スポーツにおけるモチベーションとは、主に目標に向けた意欲や士気を指します。
例えば全国大会出場や県大会優勝といった、公式戦における戦績を目標としたモチベーションはわかりやすいでしょう。サッカー日本代表のW杯出場は典型例ですね。
一方、日々の小さな目標に対する意欲や熱意もモチベーションに変わりありません。
例えば縄跳びの三重跳びにチャレンジする意欲、これも立派なモチベーションです。
新しい技術や技法などを身に付けるという欲求、物事に対して前向きに取り組む姿勢にこそモチベーションの本質があるというわけです。
旅行
旅行にもモチベーションが関わってきます。旅行はレジャーの一環ではあるものの、普段の生活圏や人間関係を離れ、非日常の環境に身を置く行為。
少なからずストレスや緊張も伴うでしょう。
面倒や億劫という感情よりも「旅行に出かけたい」という意志が上回る精神状態は、正にモチベーションが働いている証拠といえるでしょう。
モチベーションの正しい使い方を例文でチェック
モチベーションの基礎知識を踏まえ、文章の中に組み込んで応用してみましょう。例文も併せて紹介します。
モチベーションが上がる
「モチベーションが上がる」とは個人の意欲や熱意が向上したり、組織全体の士気が高揚したりすることです。
例文
尊敬するOB社員が、スタッフ激励のために我社を訪れた。現場のモチベーションは大いに上がり、制作スピードに拍車がかかるという思わぬ好影響をもたらした。
モチベーションに繋がる
「モチベーションに繋がる」とは、1つの事象が間接的にモチベーションの向上に作用するという意味です。
例文
TV上で羽生結弦選手の演技を鑑賞し、優勝決定の瞬間も視聴した。羽生選手の活躍に触発され、翌日からの仕事のモチベーションに繋がり気がつけば月間セールスNo.1を達成する結果となった。直接面識がないにもかかわらず、羽生選手からは多大なエネルギーをもらったのでとても感謝している。
モチベーションが高い
「モチベーションが高い」とはやる気にあふれ、意欲・熱意の度合いが高いという意味。口語表現の「温度が高い・熱量がある・アツい」という言い回しと同義です。
例文
優れた成績を収めているチームは、往々にして指導者が優秀なだけでなく、選手や部下などといった人材の質が高い。個人の能力が優れているのはもちろん、日々の練習や業務に対するモチベーションが非常に高いのである。一度の行動や、限られた時間の中で最大の効果を上げる習慣が徹底されているのだろう。
モチベーションがない
物事に取り組む意欲や熱意が失われている様を「モチベーションがない」と表現します。
例文
人事制度が改正され、年功序列が一部復活するという。古株は喜ぶだろうが、若手とすればたまったものではない。新しい経営陣の施策は時代と逆行するものが多く、最前線の現場スタッフはモチベーションがないまま仕事している有様だ。
モチベーションを維持する
「モチベーションを維持する」とは、意欲や熱意を保ち続けることです。既に一定以上のモチベーションが存在しており、現状から減衰しないようにキープするということですね。
例文
2020年に開催予定だった東京オリンピックは延期となった。出場権を勝ち取った選手たちは調整のスケジュールも変更させられ、モチベーションを維持するのに腐心するだろう。
モチベーションとはどこからやってくる?上げる前に知っておきたい2つのコト
モチベーションは目に見えないもの。ゲームにおけるステータスのように、アイテムの消費によって機械的に上げ下げできるものではありません。
一方で、例えば一流のアスリートたちはモチベーションを上手にコントロールしていますよね。
モチベーションを上げるには、やはり何らかのコツがありそうです。一例を見てみましょう。
カラダの内側から自然にわいてくるもの
モチベーションは心理や精神の作用によるもの。言い換えれば、カラダの内側から自然に湧き上がってくる要素です。
優れたアスリートや経営者たちは、強靭な精神力を持っています。
スポーツの世界でいえば、メンタルがタフだということです。
多少のダメージではへこたれず、それどころかピンチをチャンスに変えることさえやってのけるでしょう。
ボクシングの例でいえば、満身創痍でありながらも起死回生のカウンターパンチを放ち、劇的な逆転KOを収めた選手の事例がいくつもありますよね。
ひとえに選手のモチベーションが、自分自身の心身を奮い立たせたのです。
外からの刺激や条件によって生じるもの
モチベーションとは、自らの内側から湧き上がるものばかりではありません。
外からの刺激や、何らかの条件・トリガーによって生じる場合もあります。
外からの刺激によるモチベーションの例としては、第三者に発破をかけられるパターンが多いのではないでしょうか。
特に若い男女の場合、好きな異性から声をかけられたり、応援されたりするだけで一日がハッピーになったという経験を誰もがお持ちのはずです。
条件によって生じるモチベーションといえば、やはり大会の賞金やタイトルが真っ先に挙がるでしょう。
例えばお笑いの世界でいえば、M-1グランプリやR-1グランプリのチャンピオンは喉から手が出るほどに魅力的なタイトルですよね。
大会チャンピオンというタイトルを得るために、年単位でネタを作り、芸を磨き続けるコメディアンが何千何百といるのです。
賞金やタイトルも、モチベーションにつながる代表的な条件といえるでしょう。
モチベーションの上手な上げ方を紹介
一流のアスリートや経営者はモチベーションのコントロールが上手だと述べました。
いかにコントロールが上手といえども、ゲームのパラメータのように可視化して数値管理できるわけではありません。
果たして上級者は実際のところ、どのようにモチベーションを上げているのでしょうか。
問いの答えに対するヒントは、トリノ五輪金メダリストである荒川静香氏のトレーニング法に見い出せます。
現役時代の荒川氏は「トレーニングの課題をクリアすれば、アイスクリームを1つ食べてよい」という、何ともユニークな動機付けを設定していました。
簡単にいえば大好物のアイスクリームをご褒美にする代わりに、日々難しい課題をこなして自己鍛錬を図っていたのです。
荒川氏の事例はユーモラスであるものの、その実冷静な自己分析とモチベーションのコントロールをうまく行った、合理的な手法といえます。
裏を返せば一流アスリート選手でも「食べ物をモチベーションの条件に設定する」といった、ごくシンプルなアプローチを行っているということです。
モチベーションの上げ方は、決して難しいものではないということがわかりますね。
自己効力感とモチベーションの関係とは?
カナダの心理学者、アルバート・バンデューラ氏が提唱した心理学の用語に「自己効力感」というものがあります。
自己効力感とは「自分には目標や課題を達成する能力がある」という自己肯定の感覚。自己効力感の概念は現代のモチベーション理論に大きな影響を与えました。
自己効力感を得るためのポイントは、社会的欲求と自己実現欲求の双方を満たすということです。
社会的欲求とは社会の中で必要とされ、評価されたいという欲求のこと。例えば会社の業績に貢献し高い人事評価を得ることや、職場の同僚よりも先に出世することなどが挙げられるでしょう。
自己実現欲求とは夢や目標などのように、自らの意志として物事を実現しようとする欲求のこと。社会的欲求よりもさらに個人的な欲求であり、より人生に直結する目標といえます。
自己効力感の大小は、偏にモチベーションの高さにも影響します。得てして自己効力感が乏しく、自信を持てずにいる人は本来の力を発揮できません。
反対に目標達成が目前であるなど、自己効力感にあふれている人はモチベーションも高いもの。あらゆる物事に対して前向きで、積極的に取り組む意欲に満ちているでしょう。モチベーションがあってこそ、高い満足度や達成感につながるのです。
自己効力感はモチベーションに作用し、結果として元々の能力以上の成果を上げる場合さえあるものです。
「病は気から」という諺がありますが、逆も然り。自己効力感とモチベーションは、正の相乗効果を生む関係にあるといえるでしょう。