物事を突き詰め、磨き上げていく行為を表す語句はいくつかあるもの。
例えば自己啓発、自己改善、自己成長などですね。当記事で取り上げる「研鑽を重ねる」も当てはまるでしょう。
「研鑽を重ねる」とは、果たしてどのようなことをいうのか。漠然としたイメージは浮かぶものの、今ひとつはっきりしない部分があるかもしれません。
「研鑽を重ねる」の意味や類語、例文などを併せて紹介します。
自分自身を高めるコトバ?「研鑽を重ねる」の意味を詳しく解説
「研鑽を重ねる」とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。
例えば「研究」とはどのように違うのかなど、基本的な意味用法を押さえましょう。
研鑽とは学問などを深く究めること
元々「研鑽」とは学問や研究などに打ち込み、深く探求していくこと。現代では学問や研究に限らず、スポーツや美術・工芸といった様々な分野で使われる語句になっています。
研鑽のエッセンスは学問や研究を通して知識を得ることよりも、物事に打ち込み「探求していくこと」という動作部分に比重が置かれるのです。
「研」と「鑽」2つの漢字が持つそれぞれの意味
研鑽は「研」と「鑽」、2つの漢字によって構成されています。「研」の意味は「研ぐ・磨く」というもので、「研磨」のように研ぎ澄ましたり、「研究」のように深く追求したりというニュアンスです。
一方「鑽」には「穴をあける・うがつ」という意味と、「物事を深く究める」という意味があります。
穴をうがち、工芸品としてより美しく整った形に洗練させるという意味と、物事を探求していくという意味が共存しているのです。
「研」と「鑽」、よく似た意味の言葉を2つ組み合わせて「研ぎ澄まして洗練させ、深く探求する」というニュアンスをいっそう強調した語句が「研鑽」ということですね。
「研鑽」の言葉が使用されるようになった由来
「研鑽」の言葉が記録されている作品として知られるのが、故・徳富蘆花氏による『思出の記』(1900‐01)。本文中に「新郎は農科大学に猶獣医学の研鑽をつづけ」という一節があります。
当時の「研鑽」は、今よりも勉学・研究の意味合いが強かったのかもしれません。
『思出の記』が直接の由来と言い切れるかは不明ですが、「研鑽」のルーツを探る上で重要な手がかりであることは確かでしょう。
学問や研究に励む過程を積み重ねてゆくこと
『思出の記』の一節からも窺える通り、本来「研鑽」とは学問や研究に励むこと。「研鑽を重ねる」とは取りも直さず、学問や研究に励む過程を積み重ねてゆくことです。
「研鑽を積む」も同じ意味で広く使われている
「研鑽を重ねる」と同じ意味を持つ言い回しとして、「研鑽を積む」というフレーズがあります。
「積み重ねる」という言葉があるように、「積む」と「重ねる」は同義で扱われるのが一般的。「研鑽を重ねる」の代わりに「研鑽を積む」と表現しても、特に問題はありません。
「研鑽を重ねる」はビジネスシーンでも使われる表現
ビジネスシーンで「研鑽を重ねる」という言い方をする場合は、主として能力を高め、スキルアップやキャリアアップを図ることを指します。会社の中で業務内容に精通し、昇進や昇格を目指すのも自己研鑽の一つでしょう。
一方で会社の外に目的意識を持ち、例えば転職や独立開業を目論んで努力することも「研鑽を重ねる」に当てはまります。
ビジネスシーンにおいて「研鑽を重ねる」という場合、カギとなるのは社会人としての向上心。すなわちスキルアップやキャリアアップというのは二の次で、自身をどのように成長させ、社会に役立てていくかという点が大事なのです。
研鑽が必ずしも労働や勉強とイコールになるわけではない、ということですね。
「研鑽を重ねる」と一緒に覚えたい「研鑽」の付いた言い回し表現
「研鑽を重ねる」の他にも、「研鑽」の付いた言い回しは存在します。
代表的なものをチェックしましょう。
努力・力を尽くす「研鑽に努める」「研鑽に励む」
「研鑽に努める」や「研鑽に励む」とは、研鑽することに努力したり、力を尽くしたりということ。
言い回しが異なるだけで、いずれも「研鑽を重ねる」と同じベクトルを持った表現です。
理解度を高める「研鑽を深める」
「研鑽を深める」とは探求し、理解を深めるという意味。
知的でアカデミックなニュアンスが強調されており、仮にスポーツで使うとしても単に技術を磨くのではなく、理論や頭脳面でのアプローチを意味する表現といえるでしょう。
座右の銘や目標の言葉に用いる「日々研鑽」
「日々研鑽」は座右の銘や、目標に向かって取り組む姿勢を表明する際に使われる言葉です。
「日々研鑽」とは文字通り、毎日研鑽を重ねていくという意味。毎日研鑽を重ねる背景には、生きる指針や目標があると考えるべきですね。
自分を見つめる「自己研鑽」「自学研鑽」
「自己研鑽」「自学研鑽」とは誰かに教えを乞うたり人から成果をもらったりするのでなく、自らを磨き自主的に学習・探求していくこと。
厳しい自己評価の元、あくまで自分の力によって研鑽を重ねていくことを指します。
メールや履歴書の書き方で活躍?「研鑽」の正しい使い方を例文でチェック
「研鑽」の基本的な意味を踏まえ、文章形式で運用してみましょう。例文を5つ紹介します。
私は大学で勉学に励む一方、部活動でラグビーにも打ち込んできました。大学からラグビーを始めたこともありスタートが遅い分、同輩以上に研鑽を重ね、入部一年でレギュラーの座を獲得。試合ではアシストの要として活躍しておりました。
「この度当社開発のプログラムが採用されることになりました。日々の研鑽が実を結んだといえるでしょう。」
他人を動かそうとするよりも、まずは自己研鑽を積むべきだ。自分がお手本となれば周囲もついてくるし、発言に説得力も生まれるというものである。
研究の結果、一度失敗に終わった製品Aには改善の余地があることが判明。後に品質を向上させたリニューアル品を開発し、研究チームの面目躍如たる大ヒットを記録した。チームが日々研鑽を深めた結果といえるだろう。
ボクシングは自己研鑽の究極形というべきスポーツだ。日々の練習の他に食事制限、継続性、精神力などあらゆる面で自分の限界に挑戦することが要求される。研鑽に励むボクサーの姿は、性別・体型・階級を問わず美しい。
例文で示した通り、「研鑽」はメールや履歴書などの文字媒体とも親和性があります。特に履歴書の作成であれば、自己PRにうってつけの言葉でしょう。
注意点としてメールの文中で「研鑽」を使う場合は、敬意の表し方に注意が必要です。相手の研鑽を称える場合は「対象を評価する」という要素が介在するため、上から目線で偉そうだと捉えられる可能性もあります。
敬語表現を工夫するなどの配慮をし、尊大な印象を与えないように気を付けましょう。
「研鑽を重ねる」の類語や言い換え表現とは?研鑽とのニュアンスの違いも確認
今度は「研鑽を重ねる」の類語・言い換え表現を考えてみましょう。
研鑽とは少しニュアンスの違うものもありますので、それぞれ解説を加えます。
物事の意義・本質などをさぐって見極めようとする「探究」
「探求」とは物事の意義・本質などを探り、見極めようとする行為です。
「学習」や「探検」などと比べ、より知的に奥深くまで踏み込んでいくニュアンスがあります。
不確か・不明なことをどこまでも深く考え極める「追究」
「追究」とは、不確かで不明なことをどこまでも深く考え、極めることをいいます。
「追う」と「究める」という要素が組み合わさるため、ひたすら追いかけながら探求していくというニュアンスですね。
一つのことに集中して励む「精進」
「精進」とは一つのことに集中して励むこと。
ただ単に集中するのではなく雑念や煩悩を捨て、クリアになった状態で精神を集中させるという意味があります。
互いに励まし合いながら向上する「切磋琢磨」
互いに励まし合いながら向上することを、四字熟語で「切磋琢磨」といいます。
「切磋琢磨」は相手の存在が前提となるものであり、自分一人では完結できません。従って「自己研鑽」の類語としては不適切ですね。
物事を深く調べ意味や本質を説き明かす「講究」
「講究」とは学問をおさめ、研究すること。物事を深く調べて意味や本質を説き明かす行為です。
比較的古い言葉で、明治時代には既に使われていたことがわかっています。
深く考えて意味や本質を明らかにする「考究」
「考究」とはちょうど「考察」と「研究」を組み合わせたニュアンスで、深く考えて意味や本質を明らかにする行為のこと。
研究や論文など、学術的な分野では比較的よく使われる語句といえます。
学問や技術などを修め究める「攻究」
学問や技術などを修め究めることを「攻究」といいます。
「修め究める」という点からも学術的な意味合いが強く、単なる修練や訓練とは区別する必要があります。
「研鑽を重ねる」の反対語や対義語とは?
「研鑽を重ねる」には反対語や対義語もあります。現実問題として、研鑽を重ねるのは必ずしも容易ではありません。
時として研鑽と真逆の状態にあったり、あるいは真逆の行いをしていたりする場合もあるものです。
仕事や義務を怠るという意味「怠慢を重ねる」
「研鑽を重ねる」の真逆に当たる内容が「怠慢を重ねる」です。
「怠慢」とは仕事や義務を怠るという意味で、繰り返し行われると文字通り「怠慢を重ねる」の扱いになります。
研鑽を重ねるとは対極にある「無為徒食」
「無為徒食」とは何もせず、無目的のまま不毛な過ごし方をすることを指します。
「無為」とは自然のままに任せて作為を加えないという意味であり、「徒食」とは働くこともせずいたずらに無駄な時間を過ごすことです。
中国の思想家、老子が唱えた「無為自然」が示す通り「無為」自体は必ずしも悪い意味ではないのですが、「徒食」と組み合わせると非常に悪い相乗効果を生んでしまいます。
「無為徒食」とは、「研鑽を重ねる」の対極に位置づけられる言葉といえるでしょう。
まとめ
記事を通読して、「研鑽を重ねる」という言葉の重みをご理解いただけたのではないでしょうか。
「研鑽」に相当する行動をとるだけでも簡単ではないのに、さらに継続して積み重ねていく行程が必要なのです。
得てして人間は楽な方向に行こうとするもので、誰だって本当は苦労はしなくないはず。一方で怠慢を重ね、「無為徒食」のままでは成長できないことを誰もが悟っています。
例えば、誰もが知る元メジャーリーガー、イチロー選手の姿勢からは多くのヒントを得られるでしょう。
メジャーリーガーのセオリーは投打ともに、パワーで押し切るという豪快なもの。しかしイチロー選手は日本人選手の持ち味である技とスピード、そして生真面目さで、引退までにギネス記録を7つも樹立するほどの大活躍を果たしました。
イチロー選手がメジャーリーガーのパワープレイに負けないように日々研究、修練を続けていたのは想像に難くないでしょう。