「お迎えにあがります」というと、ビジネスにはあまり馴染みのないフレーズだと思われがちですよね。特に若手の頃は「お迎えにあがります」という言葉を使う機会が少ないかもしれません。
一般的には漫画やアニメの作中で、執事が雇い主に対して使う言葉のようなイメージでしょう。
実のところ「お迎えにあがります」を使う機会は、ある程度地位が上がったり、責任が重くなったりしてからの方が増える可能性があります。
例えば自社のオーナーや取引先の重役といった、丁重なエスコートが必要な相手との折衝を任される役回りといえば、内外から一定の信頼を得た人物であるはずです。
使う機会が少ないからこそ、押さえておくべき言葉の1つが「お迎えにあがります」。意味や使い方、英語表現も交えて身につけておきましょう。
「お迎えにあがります」の意味と使い方
普段「お迎えにあがります」と発言する機会はそう多くないもの。まずは「お迎えにあがります」の意味と使い方から見ていきます。
「お迎えにあがります」の意味とは?
「お迎えにあがります」とは、「迎えにいく」を丁寧に表したもの。
敬語表現の詳細については後述しますが、簡単にいえば目上の相手をエスコートする時に使うフレーズということですね。
「お迎えにあがります」の使い方
先の項で述べた通り、フレーズ「お迎えにあがります」は目上の相手を迎えにいく際に使います。
待ち合わせなどのいわゆる現地集合ではなく、自宅や会社など、相手の待機しているところに迎えにいくのがポイント。
すなわち移動のアクションを行うのは自分だけであり、相手はアクションする必要がないという状態にしなければなりません。
「お迎えにあがります」には「目上の相手に負担をかけてはいけない」というニュアンスが内在しているということですね。
漢字で「お迎えに上がります」と書いてもいい?
時折、「お迎えにあがります」ではなく「お迎えに上がります」という漢字表記を見かけることがありますよね。
表記の方法としてはどちらがよいのでしょうか。
結論からお伝えすると、「お迎えにあがります」の表記が望ましいといえます。
「お迎えにあがります」の後半部に漢字を当てはめた「お迎えに上がります」も許容されているものの、一般的とはいえません。
敬語「お迎えにあがります」を分解してみよう
「お迎えにあがります」は敬語表現だと先述しました。一口に敬語といっても、3つの分類が存在するのは周知のとおり。
フレーズ「お迎えにあがります」を分解し、詳しく調べてみましょう。
「お迎え」と「あがる」とは
敬語表現における「お迎えにあがります」のポイントは、「お迎え」と「あがる」の2点。
「お迎えにあがります」の敬語表現を外すと、「迎えにいきます」という言い回しになりますよね。従って「お迎え」の原型は「迎え」、「あがる」の原型は「行く・訪ねる」ということです。
「お迎え」に使われている「お」は謙譲の接頭語。「宇受けします」「お借りします」などの接頭語と同じ要領ですね。
従って「迎え」をへりくだって表現した言葉が「お迎え」だといえます。
「あがる」は「行く・訪ねる」の謙譲語で、相手の居場所に赴き、訪ねる行為をへりくだって表現したもの。
以上を踏まえると「お迎えにあがります」とは、謙譲表現を2つつなげた連続敬語に、丁寧語の「~ます」を付け加えたフレーズであることが窺えますね。
「お迎えにあがります」は二重敬語?
「お迎えにあがります」は複数の敬語で構成されていることがわかりました。
もしかすると「お迎えにあがります」とは、二重敬語なのではないかとお考えの方もいるかもしれません。
「お迎えにあがります」の二重敬語ではなく連続敬語に当たるため、問題のない表現です。
二重敬語とは敬語の重複が不自然に行われること。
例としては「お迎えにあがらせていただきます」や「お迎えに参らせていただきます」などが挙げられるでしょう。
それぞれ「あがります」や「参ります」のフレーズで謙譲語として完成しているのに、さらに「~せていただく」という余分な謙譲の補助動詞が付いている点が不自然だというわけですね。
「お迎えにあがります」の類語・言い換え表現を紹介!
「お迎えにあがります」のニュアンスは、別のフレーズで言い換えることもできます。また意味の異なる類語も併せてつ紹介しましょう。
言い換え表現「お迎えに伺います」
目上の相手がいる場所に行く・訪ねるの意味で「あがる」という謙譲語がありますが、馴染みのない人もいるでしょう。
一方「伺う」という語句はビジネスの頻出ワードであり、多くの方が知っているはずです。
「お迎えにあがります」について、「あがる」の代わりに「伺う」と言い換えれば「お迎えに伺います」というフレーズになりますよね。
意味を変えずにいっそう親しみやすい言い回しにするのも、大事な表現テクニックの一つです。
言い換え表現「お迎えに参ります」
「お迎えにあがります」の言い換え表現として「お迎えに参ります」も有効。
「あがる」と同様に、「参る」も「行く」の謙譲表現です。
やや古めかしい言い回しに「参上」というものがありますが、「参る」とも「あがる(上がる)」とも関係していることが窺えるでしょう。
ちなみに「お迎えに参ります」の誤用例として、時折「お迎えに参らせていただきます」というものが見られます。
「お迎えに参らせていただきます」のどの部分がNGかといえば、謙譲の動詞「参る」に続けて謙譲の補助動詞「~せていただきます」をつなげるという点。
不要な謙譲表現を付け加えた、典型的な二重敬語ですね。
謙譲語に不慣れなうちは「させていただきます」「~せていただきます」を多用しがちなもの。むやみに使うと二重敬語を引き起こしやすいので、注意が必要です。
類語「お迎えする」「お迎えします」「お迎えいたします」
「お迎え」が謙譲表現であることは先述のとおり。
「お伝えする」などと同じ要領で、「お迎え」に一般動詞「する」と付け加えて「お迎えする」と表現するだけでも謙譲語として成立します。
「お迎えする」よりもさらに丁重な表現にしたい場合は、「する」の代わりに丁寧の補助動詞「します」「いたします」を配置すればよいでしょう。
「お迎えします」「お迎えいたします」という丁寧なフレーズができあがります。
注意すべき点として「お迎えする」「お迎えします」「お迎えいたします」の3つは、相手を迎え入れる際に使う言葉であることが挙げられます。
具体的には旅館などのようにお客さんを受け入れ、歓迎するシーンをイメージするとよいでしょう。つまり自分が体を動かし、相手先へと出向く「お迎えにあがります」とは性質が異なるということですね。
「お迎えする」「お迎えします」「お迎えいたします」は「お迎えにあがります」の類語ではあっても、言い換え表現ではないということを覚えておきましょう。
目上の人が迎えに行く場合は?
目上の人が主体となり、誰かを迎えにいくというケースも考えられますよね。
例えば上司が自社のオーナーを迎えにいく、という状況を第三者の立場で説明する場合は「お迎えにあがります」だと相応しくありません。
「お迎えにあがります」は謙譲表現のフレーズ。迎えに行く行動の主体が目上の相手だとすると、どのような言い方にすればよいでしょうか。
「お迎えになる」
迎えに行く対象を気にせず、単純に「目上の相手が誰かを迎えにいく」という行動を表現する場合は「お迎えになる」という言い回しで構いません。
「お迎えになる」は尊敬表現で、目上の相手が「迎えにいく」という行動に対して敬意を表します。
ちなみに「お迎えになられる」は二重敬語で、不適切な言い方です。しばしば誤用されがちなので注意しましょう。
「お迎えにいらっしゃる」
「お迎えにいらっしゃる」という場合は、「迎えにくる」という状況を尊敬表現したものです。
上司や先輩など、目上の相手が「迎えにくる」というアクションを起こす際に当てはまります。
「いらっしゃる」とは「行く」ではなく、「来る」「居る」の尊敬表現であるという点を押さえておきましょう。
迎えにいく相手が同格以下の場合は?
同輩や後輩など同格以下の相手を、自分が迎えにいく場合はどうでしょうか。
「お迎えにあがります」のように、謙譲表現する必要はありませんよね。かといってオフタイムのように、口語表現を使うわけにもいきません。
上記のような場合は、丁寧語への言い換えを考えてみるとよいでしょう。代表的なフレーズは次の2つです。
「迎えにいきます」
自分が迎えにいくことを伝える際には「迎えにいきます」というシンプルな言い回しでOKです。丁寧の補助動詞「~ます」を付け加えるだけの、ごく簡単な敬語表現ですね。
「迎えに参ります」
職場で外出の連絡をする際には、上司に用件を伝えるのがセオリーですよね。
例えば同輩や後輩を迎えにいくために、駅や空港へ出かける場合は「迎えに参ります」という言い方がスマートです。
「迎える」という行動は同輩・後輩に対するものなので、敬意を表す必要はありません。
一方「迎えにいく・外出する」という行動については、部門構成員として行うアクションなので上司に連絡・報告する必要があります。
「参ります」という謙譲表現における敬意の対象は、迎えにいく同輩・後輩ではなく、上司であるというわけです。
ビジネスシーンの敬語表現において重要なのは、敬意の対象がどの人物に向けられているかという点。特に複数の人物が関係する場面では、補助動詞レベルでニュアンスが変わってきます。
敬語を使う場合は、自分と相手との関係だけに捉われてはいけません。「迎えに参ります」は顕著な例といえるでしょう。
「お迎えにあがります」の英語表現
最後に「お迎えにあがります」を英語で表す言い方を考えてみましょう。簡単な表現2つを紹介します。
車で迎えに行く場合は“pick up”
車で迎えに行く場合は“pick up”と表現します。「車で迎えに行く」よりも、直訳して「拾い上げる」という方が語感に近いイメージが湧くかもしれません。
物をかいつまむことをカタカナ語で「ピックアップ」というように、車を利用して搭乗者を拾い上げる行為が“pick up”だということですね。
例文
“I will pick up John at 2:00P.M..”
(午後2時に、ジョンを車で迎えにいきます)
車以外の場合は“meet”
歌詞としても比較的よく使われる“meet”は「会う」「顔を合わせる」という意味。日本語の「迎えにいく」とは異なり、「どちらかが体を動かして会いにいく」というニュアンスは薄いといえます。
「お迎えにあがる」という敬語表現を通して上下関係に重きを置く日本語表現と、「会う」「顔を合わせる」という事実に重きを置く英語表現を比較することで、言葉遣いにおける文化の違いも窺えますね。
例文
“I am supposed to meet Suzuki at his office.”
(鈴木さんのオフィスで面会する予定です)