接客・サービスにおいて、「真摯な対応」という言い方をする場合があります。
接客・サービス以外でも、例えば営業員が得意先からのクレームに対応したり、あるいは著名人が会見の場で使ったりするケースが多いでしょう。
ポイントは単語「真摯」にあります。「真剣」とも「誠実」とも異なる、「真摯」のニュアンスを的確に掴むことが大事です。正確なニュアンスを把握し、発展形であるフレーズ「真摯な対応」を適切に運用できるようにしましょう。
「真摯な対応」の意味と使い方を紹介!
「真摯な対応」と聞くと、なんとなく改まった対応が期待されますよね。一方「真摯な対応」の正確な意味は、今ひとつ不明瞭でしょう。
以上を踏まえ、まず最初に「真摯な対応」の意味や使い方を紹介します。
単語「真摯」の成り立ち
「真摯」とは、「真面目でひたむきな様」を表します。内在する性質として、「真摯」は物事や事象に対する態度・姿勢を表す言葉であるのがポイントです。
例えばよく似た意味を持つ「誠実」と比較すると、「誠実な人」という言い方はあっても、「真摯な人」という言い方はありません。一方、「真摯に対応する」という表現はできても、「誠実に対応する」という表現は不適切です。
すなわち「真摯」を使う場合、人が対象になることはないということですね。非常に重要なポイントなので、しっかり押さえておきましょう。
「真摯な対応」の意味とは
「真摯」を踏まえて「真摯な対応」を簡単にまとめると、「真面目でひたむきな対応」をするということ。おざなりで大雑把に対応するのでなく、誠意を込めて精一杯の対応を図るという意味を表します。
先の項で述べた通り、しばしば聞かれる「誠実な対応」は本来誤った表現です。「誠意ある対応」という言い方はあっても、「誠実な対応」という言い回しはありません。言い換えの注意点として覚えておきましょう。
「真摯な対応」は正しい敬語?
「真摯な対応」のフレーズに敬語は含まれません。語感や使われる場面のイメージにより丁寧な響きがあるものの、単語レベルで分解していくと敬語表現に当たる部分は存在しないのです。
誤解の理由としては、「真摯なご対応に感謝します」「真摯に対応いただき」のように、敬語を含む会話文の形で運用されるケースが多いことが挙げられます。
以上を踏まえ、見出しの疑問に対する答えとしては「敬語と親和性の高い表現であるものの、正しい敬語ではない」という言い回しが妥当でしょう。
「真摯な対応」は目上の人に使える?
先述の通り、「真摯な対応」は敬語表現ではありません。一方で接客・サービスなど、目上の相手に対して使われることが多いのも事実です。上記を踏まえ、目上の相手に「真摯な対応」を使うケースを考えてみましょう。
正しい使い方をすればOK
「真摯な対応」のフレーズそのものに、失礼なニュアンスは含まれません。誤った使い方や不適切な場面で発言しなければ、トラブルを生むことはないでしょう。
裏を返すと「真摯な対応」を使ってトラブルになるとすれば、場面に相応しくない使い方をしているということです。次の項で例を挙げながら詳しく解説します。
目上の相手に対するNGの使用例
目上の相手に対して「真摯な対応」と発言し、NGマナーとなる用例は次のようなものが代表的です。
NG例1
真摯な対応をお願いします
文法・敬語表現ともに問題なさそうなフレーズですが、目上の相手に使う場合は反省や改善を促すニュアンスが含まれます。
一般的には目上の相手に対し、「真摯な対応をお願いします」と発言するべきではありません。
NG例2
真摯な対応ですね
目上の対手がとった行動を賞賛しようという意図があっても、「真摯な対応ですね」と発言するのはNGです。そもそも、目上の相手を直接評価・評論する行為は失礼に当たります。
相手から意見を求められるなど、どうしても所感を述べなければならない場合は「真摯な対応だと感じました」のように、評価や評論のニュアンスを和らげる言い回しをするとよいでしょう。
NG例3
真摯な対応をしてきました
目上の相手に対して「真摯な対応をしてきました」と発言する行為は、自己アピールに当たります。
評価は上司や顧客など、第三者が行うのが一般的。真摯な対応に終始していたつもりでも、第三者からの評価が同じであるとは限りません。
また自己アピールは、場面によっては自画自賛や自己弁護と同義に扱われます。「真摯な対応をしてきました」と積極的に発言することは避けるべきでしょう。
「真摯な対応」を組み合わせたフレーズ3選!
「真摯な対応」に関する基礎知識を踏まえ、組み合わせによるフレーズを考えてみましょう。よく使われる代表的なフレーズを3つ紹介します。
真摯な対応を心がけます
真摯に取り組む所信や意気込みを表す際に、「真摯な対応を心がけます」という言い方をする場合があります。
「頑張って対応します」「精一杯取り組みます」という言い方だと、今ひとつ改まった印象を受けないのも確か。
「真摯な対応を心がけます」と表現する方が、より丁寧でフォーマルな印象を与えられるでしょう。
真摯な対応をお願いします
目上の立場にある人物が、部下など目下の相手に「真摯な対応をお願いします」と発言する場合があります。主として接客・サービスのように、スタッフの対応に関する方針を指示する言い方です。
ちなみに先述の通り、目下の立場にある人物が目上の相手に「真摯な対応をお願いします」と発言することはNG。
なぜなら「お願い」という言い方ではあっても、実質的な内容としては指示・命令に当たるからです。
真摯な対応に感謝します
「真摯な対応に感謝します」とは、真摯な対応を受けた人からのお礼の言葉。具体的には顧客や取引先など、恩恵を享受した関係者が発する一言です。
ひとかたならぬ誠意や敬意が伝わってきて、厚意に対するお礼を述べたい時に使うとよいでしょう。
「真摯な対応」を使った例文を紹介
「真摯な対応」を使った例文を3つ紹介します。
例文
本日13時に、商品包装間違いの件で坂崎様が来店されます。当店サイドの誤りなので、包装ミスをしてしまった担当者はくれぐれも真摯な対応を心がけてください。
例文
「坂崎様、この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした」
「店長さんですか、ご丁寧に。先ほど本来の商品と、お詫びの品もいただきました。いい教育をされていますな。真摯な対応に感謝します」
例文
「誠実な対応だね」
「『誠実な』というのは、人に対する形容動詞だよ。人の行為を褒める場合は『真摯な』というのが正解だよ」
「真摯な対応」の類語・言い換え表現
「真摯な対応」だと堅苦しい場合は、類語・言い換え表現を用意しておくと便利です。
誠意ある対応
「真摯な対応」とほぼ同義で、もう少し平易な言い回しに「誠意ある対応」というフレーズがあります。日常会話のレベルであれば、「誠意ある対応」でも十分に丁寧な言い回しです。
心のこもった対応
「誠意ある対応」より、さらにくだけた表現をするなら「心のこもった対応」がおすすめ。
「真摯な対応」よりもストレートな言い回しであるため、相手の行為を褒める場合にはかえって喜ばれることもあります。
「真摯な対応」の英語表現
最後に、「真摯な対応」の英語表現を紹介します。
単語「真摯」の英語表現は“sincerity(誠意・真摯)”なので、“sincerity”を軸に考えてみましょう。
・“We will try to respond sincerely.”
(私たちは真摯な対応を心がけます)
・“Please dealing with the claim with honesty and sincerity..”
(当該クレームついては、真摯な対応をお願いします)
・“Thank you for your sincerity.”
(真摯な対応に感謝します)
まとめ
「真摯な対応」は響きの美しいフレーズです。だからこそ誤用には注意が必要で、改まった調子で並べた言葉の中に誤りが含まれると、かえってダメージが大きくなってしまいます。
もしも使い方に自信を持てない場合は、言い換え表現を使うのも有効。例えば素直に「心のこもった対応」と発言しても、何ら恥じる必要はありません。
言葉を通して本当に伝えたい意味を自覚し、適切にコミュニケーションするようにしましょう。