他人の行動や発言に対して、自制を促す時に使うのが「ご遠慮ください」の一言です。明快で使いやすいフレーズである一方、注意点も少なくありません。
「ご遠慮ください」を正しく使うには、敬語分類や敬意の度合いも把握することが大事です。本記事では「ご遠慮ください」の意味や使い方のほか、敬語表現としての注意点を解説します。
また類語・言い換え表現のほか、使われる機会の多い場面に応じた例文、英語表現もカバー。必要な情報を網羅していますので、是非ご一読ください。
「ご遠慮ください」の意味を紹介!
「ご遠慮ください」とは、相手に自制を促す言葉です。敬語が含まれることからわかる通り、他者に対してお願いをする場合に使います。
多くの場合はマナーやエチケットに関するもので、例えば店舗内での通話や、飲食店への食料品持ち込みなどが代表的です。
トーンとしては、「お断り」や「厳禁」などと比べるとかなり優しい目。あくまでも、お願いする立場として発言することになります。
「ご遠慮ください」に強制力はある?
「ご遠慮ください」を考える上で大事なのが、強制力の有無です。
「禁止」もしくは「お断り」のような表現だと、強制力を行使するニュアンスがありますよね。はたして、「ご遠慮ください」に強制力はあるのでしょうか。
強制力はない
結論から述べると、「ご遠慮ください」には強制力がありません。「ご遠慮ください」と発言するケースの多くは、マナーやエチケット、もしくは店舗・公共スペースなどのルールに基づくもの。
いわば良心や良識を刺激する発言に留まるため、、違反者を取り締まったり、通報したりといった踏み込んだ対応はできません。
というのも、マナーやエチケットなどは公序良俗の一環であり、逸脱があったとしても違法行為や犯罪行為には該当しないことが多いからです。
「禁止」ではなく「抑止」
「ご遠慮ください」の本質は、「禁止」ではなく「抑止」。すなわち、問題となる他者の行動・言動を抑止することです。
「禁止」のように厳しい制限をかけたりペナルティを課したりすることはない分、当事者からの反発も少なく済むことが予想されます。
特に接客業のように、目上の相手とやり取りすることが前提の仕事において、トラブルを避けることは優先課題の1つ。
不要な摩擦を生むことなく自分の主張を伝えるには、「ご遠慮ください」のような抑止の言い回しを選ぶのがベストなのです。
「ご遠慮ください」の使い方と注意点
続いて、「ご遠慮ください」の使い方と注意点を紹介します。フレーズのトーンや、使うべき相手・場面などに注意するのがポイントです。
「ください」は命令のニュアンスを含む
補助動詞の「ください」は丁寧の敬語に当たるため、かしこまった言い回しだと思われるかもしれません。実のところ敬語としては、敬意の度合いが低い表現とみなされます。
というのも「ください」には、上の立場から下の立場に向けての指示・命令のニュアンスが含まれるからです。
丁寧語に分類されるといっても、語句そのものにネガティブな要素がある以上、使い方には注意が必要と考えられます。
「ご遠慮ください」を目上の相手に使う場合は?
先述の通り、目上の相手に向けて「ください」を使うのはリスクを伴う行為です。「ご遠慮ください」も例外ではありません。
対応策としては2つの方法があります。1つは「ください」以外の言い回しに変えること。もう1つは、いわゆるクッション言葉を挟むことです。
「ください」以外の言い方として望ましいのは、「お願いします」「お願いいたします」のようにお願いする要領です。下の立場から上の立場に向けて発言する形になるため、角が立ちません。
クッション言葉を使う場合は、「恐れ入りますが」「恐縮ですが」といった一言を前置きするのがおすすめ。いずれも下の立場から上の立場に向けて使う表現なので、自ずと本題部分のトーンも整います。
すなわち、クッション言葉によって予め敬意を伝えられるため、「ご遠慮ください」に含まれる指示・命令のニュアンスも和らぐのです。
「ご遠慮下さい」の表記はNG
「ご遠慮ください」の代わりとして、「ご遠慮下さい」と表記するのはNGです。「~(して)ください」という補助動詞の用法は、漢字ではなく平仮名表記する必要があります。
理由として、文部省発表の用字用語例(平成23年3月)において、「下さい」は動詞としての用法、「ください」は補助動詞としての用法が明記されているからです。
丁寧語を理解する上で必要なポイントなので、是非マスターしておきましょう。
「ご遠慮ください」の敬語分類を解説!
先述の通り、「ご遠慮ください」は敬語表現です。敬語としての構成を理解することで、必要に応じてトーンを変更することもできます。以上を踏まえ、「ご遠慮ください」の敬語分類にフォーカスして解説します。
「ご遠慮ください」の敬語分類は?
「ご遠慮ください」は、尊敬語+丁寧語で構成されています。分解すると、尊敬の接頭語「ご」+、動詞「遠慮(する)」+丁寧の補助動詞「ください」という内容です。
尊敬語+丁寧語の組み合わせは本来とても丁寧な表現ですが、先述の通り「ください」のトーンにより、ややラフな印象を与えてしまいます。
敬意の度合いを変えるには
「ご遠慮ください」をより丁寧な敬語表現にするには、敬意の度合いを変更させましょう。補助動詞「ください」の部分を少し変えるだけで、多くのバリエーションが生まれます。
ご遠慮くださいませ
補助動詞「ください」を「くださいませ」に変更すれば、「ご遠慮くださいませ」というかしこまった表現になります。敬語の構成も尊敬語+丁寧語で基本部分は変わりません。
注意点は、「くださいませ」は話し言葉であり、書き言葉ではないこと。必然的に、接客以外の場面ではあまり使われません。
ご遠慮くださいますようお願い申し上げます
最大限の敬意を払った言い方をするなら、「ご遠慮くださいますようお願い申し上げます」がよいでしょう。
謙譲語「お願い申し上げます」を組み合わせることにより、尊敬語+丁寧語+謙譲語の連続敬語表現になっています。
注意点としては、あまりに丁寧な言い回しなので堅苦しい印象を与えがちです。大規模な催事を取り仕切るような立場なら問題ありませんが、日常生活の中でここまでかしこまる必要はありません。
代替表現として、「ご遠慮くださいますようお願いいたします」がおすすめです。「お願い申し上げます」の代わりに丁寧表現の「お願いいたします」を使うことで、敬意のバランスが取れた表現になります。
ご遠慮いただきますようお願いいたします
「ください」「くださる」の縛りを外すとすれば、「ご遠慮いただきますようお願いいたします」も有効な表現。補助動詞「~してもらう」の謙譲表現として、「~していただく」を当てはめる要領です。
全体のトーンとしては「ご遠慮くださいますようお願いいたします」と概ね同程度ですが、自分がへりくだることで相手を立てる場合は「ご遠慮いただきますようお願いいたします」の方がよいでしょう。
「ご遠慮ください」の類語・言い換え表現
今度は視点を変えて、「ご遠慮ください」のニュアンスを別の言い方で考えてみましょう。
類語・言い換え表現を3つ紹介します。
「お控えください」
相手の行動を抑止し、諫める言葉として「お控えください」という表現があります。「ご遠慮ください」と比べて、幾分優しい印象を与える表現です。
「ご配慮ください」
「遠慮」には自制の他に、心配する・思いをめぐらすという意味があります。後者の意味合いを踏まえて「ご配慮ください」と伝えることで、「気を遣ってください」というメッセージになります。
すなわち、やんわりと「こちらの迷惑も考えてほしい」と牽制することに。相手を注意する言葉なので、使い方には注意が必要です。
「慎んでください」
自制を促す意味で「慎んでください」という言葉もあります。問題行動を起こした著名人が、反省を兼ねて「謹慎する」としばしば報じられますよね。
「謹慎」に使われているのが、正に「慎む」という行為です。概ね「控える」と同義と考えてよいでしょう。
場面別の例文
基礎知識を踏まえ、場面ごとの例文を紹介します。具体的なシチュエーションに応じた使い方を考えてみましょう。
例文:メルカリ出品の注意書き
中古品につき、多少の傷・汚れがございます。クレーム・返品はご遠慮ください。
例文:店舗・施設の注意書き
ウイルス感染予防のため、密集しての会話・談笑はご遠慮ください。
例文:ノー残業デーの告知
「課長、ノー残業デーのアナウンス文を作りました」
「うーん、『ご遠慮ください』だと言い方がちょっと弱いね!」
「なんでですか?」
「『ご遠慮ください』だと強制力がないからね。あくまで、お願いすることに留まるわけだ。ノー残業デーは経営層の決定事項なんだから、強制力がある」
「よくわかりました。『残業を禁じます』に変更すべきですね」
「ご遠慮ください」の英語表
最後に、「ご遠慮ください」の英語表現を紹介します。
“Please do not”
立て看板の告知・警告に使われることの多い文言です。
例文
“Please do not litter.”
(ごみの投棄はご遠慮ください)
“refrain from ~ing ”
イディオムのひとつで、「~することを控える・制限する」という使い方をします。他者にお願いする場合は、“please”と組み合わせるのが定型パターンです。
例文
“Please refrain from smoking here.”
(周辺での喫煙はご遠慮ください)
まとめ
「ご遠慮ください」を使う機会やタイミングは、何かを管理・運営していく立場にある時です。したがって「ご遠慮ください」と発言する場面では、予め立場・スタンスを決めておく必要があります。
形式上お願いするけれども、実質的に管理・統制していくのか、それとも黙認するのか。強制力を伴わないという点で、「ご遠慮ください」は悩ましい言葉のひとつといえるでしょう。