OKの意を表す敬語表現の1つに「了承いたしました」というフレーズがあります。一見スマートな丁寧語に見えるものの、実は上の立場から下の立場に向けて発せられる言葉です。
当記事では「了承いたしました」の持つ意味・性質・ニュアンスなどを詳しく解説します。類語との比較や例文・英語表現を参考に、エッセンスをつかんでください。
「了承いたしました」の意味を解説!
最初に、「了承いたしました」の意味を押さえましょう。「了承」の持つ意味・性質を確認することでフレーズのポイントに迫ります。
「了承」の意味は?
「了承いたしました」は、動詞「了承する」+丁寧の補助動詞「いたしました」で構成されるフレーズです。
「了承する」「了承」とは、申し出・提案などに対してOKを出す意味。類語の「承諾」「承認」に近く、自分から積極的にアプローチする姿勢ではありません。あくまで受け身の姿勢が前提になります。
上から下に向けての発言
「了承いたしました」は丁寧な言い回しですが、本質的には相手との上下関係が内在しています。
丁寧の補助動詞が付いていても、上の立場から下の立場に向けての発言であることには変わりません。
したがって、目下の人物が目上の相手に対して「了承いたしました」と発言することはNGです。詳しくは後述します。
「了承いたしました」「了承致しました」表記はどちらが正しい?
文書・メールなどにおける書き言葉で、「了承いたしました」の代わりに「了承致しました」と表記する例が散見されますよね。
結論から述べると「了承致しました」はNGで、「了承いたしました」と表記する必要があります。
根拠としては文部科学省の指針が挙げられ、補助動詞としての「いたします」「いたしました」は平仮名表記が原則です。
「致します」「致しました」の表記は動詞の用法に限られますが、やや古めかしい言い回しのため使われる機会はわずかに限られます。
「了承いたしました」の使い方は?
基本的な意味・ニュアンスを踏まえ、「了承いたしました」の使い方を紹介します。
ポイントは相手との上下関係。意味の節で解説した内容を理解しておけば、運用も決して難しくありません。
使ってよい対象は限られる
「了承いたしました」を使ってよい相手は、基本的に目下の相手のみです。
例えば「承知いたしました」の代わりに、「了解いたしました」という若者言葉があります。
ブロークンな言葉遣いではあるものの、「指示に従う」という点で目上の相手に対する敬意は伝わるため、あまり問題にされることはありません。
一方「了承いたしました」は、そもそも相手との上下関係を無視した発言であるためNGです。
敬語表現としての言葉遣いは問題なくとも、「了承」に含まれるニュアンスを理解していない点で失礼とみなされます。
上司や目上の相手に使える?
上司や目上の相手に対して「了承いたしました」を使うことはできません。というのも「了承」という言葉自体がNGワードだからです。
上司・顧客・取引先といった目上の人物が、目下の相手に対してわざわざへりくだって了承を取り付ける状況はあり得ません。
上下関係に注意すべき表現の中には距離感が近ければ使ってもいい、といった言葉も存在します。
「了承いたしました」の場合、目上の相手に対しては距離感を問わず使用不可ということですね。
「了承いたしました」と類語との違いを解説!
「了承いたしました」の類語と、「了承いたしました」がどのように違うのかを解説します。代表的なものは下記3つです。
「了承いたしました」と「了解いたしました」の違いは?
「了解いたしました」は「承知いたしました」のブロークンな表現です。本来の敬語表現としては正しくありませんが、実際にはある程度許容されています。
ただし、ビジネスシーンで使っていいかといえばかなりシビアです。距離感のごく近い間柄であればギリギリセーフですが、顧客・取引先といった距離のある相手に対しては失礼に当たります。
「了承いたしました」と「承知いたしました」の違いは?
「承知いたしました」は目上の相手から出された指示・命令などに対し、従う意志を表した言葉です。
「了承いたしました」が上からものを言う性質を含むのに対し、「承知いたしました」はあくまで下の立場から目上の相手に従う性質を内包します。
上下関係を尊重し、目上の相手を立てるには一番妥当な表現といえます。
「了承いたしました」と「かしこまりました」との違いは?
「かしこまりました」は、主に接客・サービスで使われる表現です。顧客からのオーダー・注文・問い合わせなどに対し、「用命を承る」という意味で使われます。
「承知いたしました」としばしば同一視されますが、より接客に適したフレーズだと理解するとよいでしょう。
「了承いたしました」の類語・言い換え表現をシーン別に紹介!
先述の通り、「了承いたしました」は目上の相手に使ってはいけません。相手やシーンごとに合わせて使うべき類語・言い換え表現を紹介します。
上司
上司は指揮・命令系統上、従うべき対象。上司からの指示・命令に対し「了承いたしました」と返答してはいけません。セオリー通り「承知いたしました」と返すのが正解です。
お客様
ある程度の取引実績・付き合いのある「取引先」とは区別して、不特定多数の顧客を便宜的に「お客様」とみなします。
「お客様」と接するのは接客・サービスの場面が主。オーダー・注文・質問・相談などの用命に対する答え方としては「かしこまりました」が一番スマートです。
「承知いたしました」でも概ね問題ありませんが、質問や相談といった用件に対する答え方としては少し不自然な面があります。
取引先
取引先とはある程度踏み込んだ話・やり取りを交わすため、話の内容次第で返答の仕方を変える必要があります。
例えば契約を交わす場合は、双方の合意が必要です。仮に対等な契約内容であっても「かしこまりました」と受け答えすると、不自然にへりくだる姿勢を表すことになってしまいます。
「承知いたしました」「同意いたします」「賛成です」などのように、同じYESの方向であっても、状況に応じてニュアンスを変えながら対応することが大事です。
「了承いたしました」の例文3選!
「了承いたしました」を実際に使って、文章を3つ考えてみましょう。
例文
「部長、来週の金曜に休みを頂戴したいのですが…」
「おや、珍しいですね。心配はしていませんが、ノルマは前倒しで達成できますね?」
「はい、約束いたします」
「よろしいですよ、了承いたしました」
例文
「高橋君、この仕事は君に託した!」
「了承いたしました、お任せください」
「なんと、どの辺りですか?」
「『了承』は、部下の立場では使っちゃいけない言葉だ。『承認』『承諾』などと同列と考えればいいね」
例文
「本部オペレーターです」
「C地区本郷店の佐々木です。8月31日の販売スタッフに欠員発生、応援を申請します」
「了承いたしました。近隣の店舗から応援要員を向かわせます」
「了承いたしました」の英語表現
最後に「了承いたしました」の英語表現を紹介します。日本語表現ほど上下関係に気を遣う必要がなく、シンプルです。
・“accepted”(承諾しました)
例:“I accepted the suggestion.”
(提案を承諾いたしました)
・“approved”(承認しました)
例:“I approved her vacation request already.”
(彼女の休暇申請は既に承認済みです)
まとめ
「了承いたしました」は使いどころが難しい言葉。承認・決裁の権限を与えられた立場でなければ、積極的には使わない方が無難です。
承認・決裁を行う立場の場合は、誤って謙譲表現を使わないように要注意。必要もなくへりくだると、上下関係が不自然になってしまう場合があります。