いわゆる山の手言葉・お嬢様言葉の1つに「ごめんあそばせ」があります。人気漫画「ごめんあそばせ、殿方様」によって耳にした方も少なくないでしょう。
なぜ「あそばせ」というのか、また意味や成り立ちについて知る機会は多くありません。
当記事では「ごめんあそばせ」に関する意味・使い方といった基礎知識を中心に解説します。類語・言い換え表現も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
「ごめんあそばせ」の意味を紹介!
「ごめんあそばせ」は比較的古風な言い回しです。意味・ルーツなど、基礎知識から解説します。
「あそばせ」は山の手言葉!
「ごめんあそばせ」に含まれる「あそばせ」とは、通称「山の手言葉」の1つ。「する」の尊敬表現にあたる補助動詞で、「なさいませ」と同義です。
ちなみに「山の手言葉」とは江戸の旗本・御家人が日常用いた言葉を基盤として、明治時代に成立した言葉遣いです。
元々は近代日本における東京の方言だったものの、標準語の母体としての役割を担いました。
「ごめんあそばせ」はどんな意味?
「ごめんあそばせ」は、元々「御免下さい」を崩したもの。免じてください、すなわち「お許しください」「ご容赦ください」といった意味合いです。
心からのお詫び・反省を表すのではなく、軽く断りを入れる程度のトーンが一般的。
一般的な言い回しでいえば「ごめんなさいませ」「ごめんください」といったフレーズと同義に当たります。
「ごめんあそばせ」は方言なの?
時折話題に挙がるのが、「ごめんあそばせ」は方言にあたるかどうかという点。答えは先述の通り、「あそばせ」のルーツを辿ることによって明かされます。
山の手言葉は標準語のルーツ
山の手言葉は元々、江戸~明治にかけて成熟した東京の方言です。ルーツとして方言であることは確かですが、最終的に標準語を形成する役割を果たしています。
したがって方言・標準語、両方の性質を持っていると考えるのが妥当です。
いわゆるお嬢様言葉・上流階級の言葉とみなされがち
「ごめんあそばせ」に代表される山の手言葉は、現代ではいわゆるお嬢様言葉のイメージが主になっています。というのも、身分によらず男性が使うことは少ないからです。
男性が「ごめんあそばせ」と発言することは決してNGではありませんが、意図せずして家柄や階級などについての興味・関心を集めてしまう可能性があります。
役割語としての側面も
「ごめんあそばせ」を使う人物像はある程度限られている点から、役割語としての側面もあります。
役割語とは、話者の人物像(年齢・性別・職業・階層・性格など)を想起させる特定の語句および言葉遣いのこと。
例えば執事・召使・侍従といった職業・身分であれば、あらゆる相手に対して品のある言葉遣いが求められます。
洋館のホールに立つ執事が、外来の客人に対して「お客様、ごめんあそばせ」と声をかける状況は想像に難くないでしょう。
「ごめんあそばせ」の使い方は?
「ごめんあそばせ」の意味を踏まえ、運用の仕方を紹介します。
どんな時に使うか、他者から声がけされた場合にどのように返すべきかも考えてみましょう。
どんな時に使う?
「ごめんあそばせ」を使う場面は、軽くお詫びをする時です。例えば相手の髪や服にゴミが付いているような場合でも、断りなく相手に直接触れるわけにはいきませんよね。
「ちょっと失礼」に近い感覚で、「ごめんあそばせ」と一言添えれば次のアクションに移りやすくなります。
位置づけとしてはクッション言葉や挨拶言葉に近く、文字通りのお詫びとは少し異なるものと考えるのが妥当です。
「ごめんあそばせ」と言われた場合の返し方は?
「ごめんあそばせ」はお詫びの場合もありますが、先述のように気遣いを表した一言の場合もあります。
お詫びの場合は「構いません」「お気になさらず」と返すのがスマート。気遣いの一言であることがわかった場合は「お気遣いありがとうございます」と返すのが妥当です。
「ごめんあそばせ」の注意点は?
現代では、「ごめんあそばせ」はやや古い言い回しであると先述しました。運用上の注意点をチェックしておきましょう。
嫌味にならないよう気を付ける
「ごめんあそばせ」は、上流階級・身分の高い人物が使うものとの見方が一般的です。場面や状況に相応しくないタイミングで発言すると、嫌味な印象を与えてしまう可能性があります。
特にビジネスシーンでは標準語・敬語を使うのがセオリー。敢えて山の手言葉を使った場合は顕示欲の強い、もしくは押しつけがましい人物とみなされるでしょう。
例外として、相手が進んで山の手言葉を使うような場合は「ごめんあそばせ」と受け答えする方がよいこともあります。
深いお詫び・謝罪には不向き
日常・ビジネスシーンを問わず、お詫び・謝罪が必要な場面において「ごめんあそばせ」と発言するべきではありません。
というのも「ごめんあそばせ」の性質は、「ちょっと失礼」程度のクッション言葉・挨拶言葉に近いからです。
お詫び・謝罪しなければならない場面で仮に「ごめんあそばせ」と発言した場合、まったく反省していないとみなされてしまいます。
お詫び・謝罪すべき場面では、ストレートに「申し訳ありません」「失礼いたいました」と一言告げるのが正解です。
「ごめんあそばせ」の類語・言い換え表現を紹介!
クッション言葉に近い性質であることを踏まえ、「ごめんあそばせ」の類語・言い換え表現を3つピックアップします。
ちょっと失礼
「ごめんあそばせ」は、日常会話における「ちょっと失礼」とほぼ同義です。
出し抜けにアクションすると相手を驚かせてしまったり、失礼を働くことになってしまう場合に一言添える使い方がスマート。
気配り上手な人物が「ごめんあそばせ」と発言した場合は、嫌味な印象も少ないものです。
ごめんください
「ちょっと失礼」よりも少し崩した言い回しで、「ごめんください」も有効です。
近年では少なくなったものの、インターホンのない住居に来訪し、住人に呼びかける際に「ごめんください」というのはしばしば見られる光景でした。
人を呼び止める際のかけ声としても使われることがあります。
ごめんなさいね
「ごめんなさいね」は「ごめんあそばせ」に近い性質の言葉です。ごく軽い詫び言葉であり、上から下に向けてのニュアンスも含んでいます。
現代でも、ある程度身分の高い貴婦人が使うことのフレーズです。
「ごめんあそばせ」の例文3選!
紹介してきた知識を踏まえ、最後に「ごめんあそばせ」を使った文章を考えてみましょう。
例文
「ごめんあそばせ」
「この辺りに有名な洋菓子店があると聞きしました。場所を教えてくださらないかしら?」
「はい、よろしければご案内しますよ」
例文
「あら、背中にゴミが付いてるわね。ごめんあそばせ」
「えっ、本当ですか…恥ずかしい」
「ほら、取れました」
例文
「ごめんあそばせ、お嬢様。傘をお忘れで」
「あら、気が利くわね。ありがと」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
まとめ
「ごめんあそばせ」に代表される山の手言葉は、標準語のルーツになっている言語です。使われにくくなっているとはいえ、歴史的背景を理解しておく必要があります。
予期せぬタイミングで「ごめんあそばせ」と声がけされても身構えず、適切に対応できるようにしておきましょう。