大勢の人が集まる場面で、司会者や進行役から紹介を受けた際には「ご紹介に預かりました」と一言添えるのが一般的ですよね。
実のところ「ご紹介に預かりました」は、正確な表現ではありません。
当記事では誤用の多い「ご紹介に預かりました」に注目し、意味・使い方・注意点などを網羅します。
正しい表現「ご紹介に与りました」との比較・解説も行います。
「ご紹介に預かりました」は誤字!正しい表記は?
話し言葉だとわかりにくいのですが、「ご紹介に預かりました」は誤った表現。適切に表記すると「ご紹介に与りました」です。
「与りました」の部分に馴染みのない方は多いはず。というのも、現代語として動詞「与る」はほとんど使われていないからです。
そのため、「ご紹介に与りました」だけを捉えて誤字と指摘されてもピンとこないもの。実際には「ご紹介に預かりました」でも許容される場合がしばしばです。
「ご紹介に預かりました」と「ご紹介に与りました」の違いは?
「ご紹介に預かりました」と「ご紹介に与りました」は混同されやすい、と先述しました。それぞれの意味や性質を理解し、違いを明確にしておきましょう。
「ご紹介に預かりました」が正しくない理由は?
「ご紹介に預かりました」のフレーズで問題なのは、「預かりました」の動詞部分である「預かる」です。
「預かる」の字を当てはめがちな理由は、ただ単に「与る」と発音が同じだから。語句の性質は全く異なります。
「預かる」とは、物品や人の身柄などを引き受けること。「紹介に預かる」という表現は存在しません。
文法の上でも、原則として「預かる」の前に「に」の助詞を配置することは不適切。「預かる」のであれば「~を預かる」のパターンが妥当です。
「に」の助詞を配置するのであれば、「~に預ける」の表現でなければ正しくありません。
「ご紹介に与りました」の意味を解説!
「ご紹介に与りました」の意味だけでなく、性質まで理解すれば「ご紹介に預かりました」との違いを把握できます。
「ご紹介に与りました」の意味は?
「ご紹介に与りました」のフレーズにおけるポイントは、後半部の「与りました」に尽きます。
「与りました」の動詞部分「与る」とは、「関与する。「人からの評価・志を受ける」という意味です。
例えば、「お褒めにあずかる」のフレーズは有名ですね。平仮名表記が一般的ですが、元々は「お褒めに与る」が原型。すなわち「人からの好意的な評価に与る」というニュアンスです。
「紹介にあずかる」も同様で、紹介者による好意的な心遣い・志を受けるという意味。
以上より、「ご紹介に与りました」には紹介者からのバトンタッチ・心遣いに感謝する意味が含まれているのです。
「ご紹介に与りました」の使い方
「ご紹介に与りました」の使う機会は、主に大勢の人に向けて話す場面が前提。
司会者・幹事といった役回りの人物から、紹介を受けつつ話題のバトンを渡された時に使うのが一般的です。
自己紹介は時として押しつけがましく聞こえるもの。司会者・幹事が紹介の道筋を付けることで、話し手とすれば自己紹介しやすくなります。
上記の脈絡を踏まえ、司会者・幹事のリードに感謝しつつ話を切り出すには「ご紹介に与りました」と一言添えるのが妥当です。
「ご紹介に預かりました」と「ご紹介に与りました」の違い
先述の通り、「ご紹介に預かりました」という表現は元々意味を持たない言葉です。
「ご紹介に預かりました」の存在理由は「ご紹介に与りました」と発音が同じで、誤用されやすいからに過ぎません。
「ご紹介に預かりました」と「ご紹介に与りました」の違いは、動詞「与る」が持つ性質の有無によるもの。すなわち、紹介者からの好意的な心遣い・志を受けたか否かがポイントです。
例えば、スピーチのためのマイクを渡された・預かったといった物質的な受け渡しは「ご紹介に預かりました」とは無関係。
表層的には紹介者からバトンを預けられた恰好になるものの、あくまで結果として物を預かっただけ。必ずしも「好意的な心遣いを受けた」とは限りません。
したがって「ご紹介に預かりました」は、適切な表現ではないといえます。
「ご紹介に預かりました」の使い方と注意点を解説!
「ご紹介に預かりました」は誤字だと理解した上で、本来の「ご紹介に与りました」の意味で使うようにしましょう。具体的な使い方と注意点を解説します。
クッション言葉を挟むとスマート
せっかく紹介を受けても、すぐに自己紹介やスピーチを始めることにためらいを感じる場合は、クッション言葉として「僭越ながら」と一言添えるのがおすすめです。
本来「ご紹介に与りました」そのものもクッション言葉といえるのですが、喜び勇んで自己紹介に進もうとしている・前に出たがっているといった姿勢を疑われる可能性も。
「僭越ながら」「恐縮ですが」のようなクッション言葉で前置きすることで、流れに従って自己紹介に移行している姿勢を表しやすくなります。
社内や身内からの紹介であれば省略する
「ご紹介に与りました」は紹介者の好意に敬意を表す、もしくは顔を立てる意味合いを含む言葉。紹介者が身内であれば、省略しても失礼に当たりません。
紹介者・話し手だけでなく、そもそも聴衆・聴き手を含む全体が身内同士の場合は、儀礼的なやり取りを省略してもOKです。
文章の場合は「ご紹介に与りました」で統一する
話し言葉の場合は特に問題になりませんが、文書・メールといった文章媒体の中で「ご紹介に預かりました」と記述すると、誤字だと看破されてしまいます。
文章の中で他者から紹介を受けた旨を述べる際には、誤字に気を付けつつ「ご紹介に与りました」と表記しましょう。
また第三者が「ご紹介に預かりました」と記述している場合は、「ご紹介に与りました」の意味合いで解釈するのがポイント。
第三者に対する誤字の指摘は、相手の立場・プライドなどを傷つけてしまう可能性があるため必ずしも得策とはいえません。
一方で、外部に対する連絡手段の中で誤字が見つかり、会社としての損失が発生しそうな場合は無視するわけにもいかないもの。
誤字修正・訂正の必要がある場合は、上司と相談しながら慎重に判断するようにしましょう。
「ご紹介に預かりました」をビジネスメールで使うには?
ビジネスシーンで第三者からの紹介を受け、メールの中で「ご紹介に預かりました」と述べる場面を考えてみましょう。
「与りました」「あずかりました」に置き換える
メールは文章媒体なので、先述の通り誤字を避ける必要があります。書き出しには「ご紹介に預かりました」ではなく、「ご紹介に与りました」と表記するようにしましょう。
実際のところ「ご紹介に与りました」と記述する人はあまり多くないため、「ご紹介にあずかりました」と平仮名表記するのも有効です。
紹介者との関係・縁を説明する
誤字回避以外のポイントとしては、紹介者の名前を挙げて敬意を表するとともに、紹介者との関係や縁についても触れるとスマートです。
メールの読み手とすれば、たとえ紹介のプロセスがあったとしても、同僚・上司の知り合いからのメールには距離を感じてしまうもの。
「ご紹介に与りました」の後に当該の同僚・上司との縁を説明することで、読み手との距離感を縮めたり、共通の話題を持つことができたりします。
「ご紹介に預かりました」の英語表現を紹介
最後に「ご紹介に預かりました」の英語表現を3つピックアップします。
“I’m ~, who was introduced now.”
・“I’m Kobayakawa, who was introduced now.”
(今しがた紹介していただいた、小早川です)
“Thank you for the introduction.”
(ご紹介いただき、ありがとうございます)
まとめ
「言葉は生き物」といわれる通り、本来誤りとされていた表現が次第に浸透し、やがて主流の表現として定着してしまうケースはしばしばあるもの。
「ご紹介に預かりました」もある程度許容されるようになってきており、過渡期に差しかかっていると見ることもできます。
使い方をめぐって他人との摩擦・波風を立てないようにするには、「ご紹介にあずかりました」と平仮名表記するのも1つの手。正誤の問題だけに捉われることなく、上手に対応していくようにしましょう。