目上の相手を迎える際に声がけする定番フレーズの1つとして、「お越しいただき」が挙げられます。
「お越しいただきありがとうございます」「遠路はるばるお越しいただき」など、馴染みのある言い回しも多いでしょう。
一方で、「お越しいただきますよう」「お越しいただきたく」のように依頼・相談の使い方をする場合もしばしばです。
以上を踏まえ、当記事では「お越しいただき」の意味・敬語分類・使い方を解説するほか、組み合わせて使うことの多いフレーズも紹介します。
「お越しいただき」の意味・敬語分類を解説!
「お越しいただき」は慣用表現として定型化しており、意味や敬語分類について考える機会は多くありません。改めて意味・敬語分類を確認しましょう。
「お越しいただき」の意味は「目上の相手に足を運んでもらって」
「お越しいただき」は敬語表現「お越しいただく」の活用形です。
前提として目上の相手に足を運んでもらった状況があるため、お礼の言葉につなげる場合が一般的。
明確なお礼の言葉を付けなくとも、例えば「お越しいただきまして」のように一言添えるだけで簡単な感謝のニュアンスを伝えられます。
「お越しいただき」は尊敬+謙譲の敬語表現
「お越しいただき」を敬語分類別に分解すると、尊敬の動詞「お越し(お越しになる)」+謙譲の補助動詞「いただく」の組み合わせです。
すなわち目上の相手が訪れた様を尊敬表現するとともに、謙譲語でへりくだった姿勢を表します。
「お越しいただき」の使い方
「お越しいただき」の意味を踏まえ、どのように運用するのかをチェックしましょう。
主な使い方としては目上の相手に対するお礼と、依頼・相談の2つがあります。
お礼の用法
「お越しいただき」をお礼の意味で使う場面として、催し物における挨拶のほか、招待した相手に対して挨拶する場合などが代表的です。
いずれの場合も、目上の相手にわざわざ足を運んでもらったことを感謝する意味を表します。
依頼・相談の用法
「お越しいただき」を依頼・相談の用件で使う場合はお礼の用法とは異なり、補助動詞と組み合わせて自身の希望を伝えるニュアンスを加える必要があります。
具体的には「お越しいただきますよう」「お越しいただきたく」のような形で、相手にお願いするトーンに整えるのがポイントです。
「お越しいただき」と組み合わせることの多いフレーズを紹介!
基礎知識を踏まえ、「お越しいただき」と組み合わせて使うフレーズをピックアップします。お礼の場合と依頼・相談の場合、それぞれご確認ください。
お礼の場合
お礼の場合の主な組み合わせフレーズは、下記の4つです。
お越しいただきありがとうございます
お礼の用法で最もスタンダードなフレーズが、「お越しいただきありがとうございます」です。
「お越しいただき」でへりくだった姿勢を表すとともに感謝の気持ちを明確に伝えるため、非常に丁寧な印象を与えます。
足元の悪いところお越しいただき
「足元の悪いところお越しいただき」は、主に雨天時・降雪時に来訪を受けた場合のお礼言葉です。
雨や雪によって路面状況が悪い中、それでも来てもらったことに対して感謝の気持ちを表す意味があります。
ご多忙のところお越しいただき
「ご多忙のところお越しいただき」は、多忙な人物に足を運んでもらった場面で使うフレーズです。
スケジュールの都合がつきにくい中、わざわざ時間を割いて来てもらったことを感謝する気持ちが含まれます。
遠路お越しいただき
距離が遠い・道のりが長いといった前提がある場合には、感謝と慰労を込めて「遠路お越しいただき」と一言添えるのが一般的です。
より簡単な言い換え表現としては「はるばるお越しいただき」があります。
お願い・依頼の場合
続いて、お願い・依頼の場合に使う組み合わせフレーズを紹介します。
お越しいただきますようお願いいたします
「お越しいただきますようお願いいたします」は、目上の相手に向けて直接来訪を促す表現です。
招待と比べて、より直接的な誘いのニュアンスが強い表現といえます。
お越しいただきたく存じます
「お越しいただきたく存じます」は、「お越しいただきますようお願いいたします」よりも少し控えめなトーンの表現です。
あくまで自身の希望を伝える言葉であり、お願いのニュアンスは強くありません。相手にイニシアチブを多めに残す効果もあります。
「お越しいただきまして」と「お越しくださいまして」の違いは?
「お越しいただきまして」と似たフレーズに「お越しくださいまして」があります。両者の違いを確認しましょう。
「お越しくださる」「お越しくださり」は尊敬語
「お越しくださいまして」は、尊敬の動詞「お越し(お越しになる)」+尊敬の補助動詞「くださる」+丁寧の補助動詞「まして」で構成されたフレーズです。
ちなみに「お越しくださる」は厳密には尊敬表現の二重敬語に該当するものの、実際には容認されています。「お越し」を名詞として捉えれば問題ないとの解釈もあるようです。
「お越しいただき」と「お越しくださり」はどちらが丁寧?
謙譲表現「お越しいただき」と尊敬表現「お越しくださり」のどちらが丁寧かを考えると、「お越しくださり」の方が敬意の度合いは上と考えられます。
というのも、敬語表現上では目上の人物から目下の相手に対して与える行動の方が尊いものとみなされているからです。
例えば尊敬語「賜る」と謙譲語「頂く」では、状況としては同じでも敬意の度合いが異なります。「賜る」と表現する方が丁寧だとみなされているのは周知の通りです。
同様に「お越しいただきまして」と「お越しくださいまして」の関係においても、尊敬表現としての性質の強い「お越しくださいまして」の方が丁寧とみなされます。
「お越しいただき」の類語・言い換え表現は?
「お越しいただき」の類語・言い換え表現としては、下記の3つが代表的です。
ご足労いただき
「ご足労いただき」とは、目上の相手にわざわざ足を運んでもらったことを表すフレーズです。
多くの場合はお礼の気持ちと、相手をいたわる意味で使われます。
おいでいただき
「おいでいただき」は「お越しいただき」よりも少し平易な言い回しです。
ビジネスシーンよりも日常会話で使われることが多く、目上の相手に向けて親しみを込めて声がけする使い方もあります。
足を運んでくださり
「足を運んでくださり」は「ご足労いただき」と同義のフレーズです。
違いとしては敬語分類が異なり、「足を運んでくださり」は尊敬表現のため敬意の度合いが上とみなされます。
「お越しいただき」を使った例文3選!
紹介した知識を踏まえ、実際に「お越しいただき」を使った例文を考えてみましょう。
例文
本日は足元の悪いところお越しいただき、まことにありがとうございます。
例文
来月20日に品評会を開催する予定です。ご多忙のところ恐縮ですが、是非お越しいただきたく存じます。
例文
部長、会議で出席者の意見が噛み合わず、事態が紛糾しております。お手を煩わせて申し訳ありませんが、お越しいただきますようお願いいたします。
「お越しいただき」の英語表現
最後に「お越しいただき」の英語表現を2つ紹介します。
・“Thank you for all the way.”
(はるばるお越しくださりありがとうございます)
“Thank you for coming.”
(来てくれてありがとう)
まとめ
「お越しいただき」にはお礼と依頼・相談の2つの意味・用法があります。いずれも目上の相手に対する敬語であり、敬意をもって使うことが大事です。
オン・オフのいずれにも役立つフレーズなので、是非上手に活用してください。