化学変化の1つに「昇華」があります。心理学のほか、ビジネスでも使われる場合がしばしばです。
ビジネスで使われる機会が多くなった分、誤用例も少なくありません。例えば、単純な品質の向上であれば「昇華」ではなく「改善」「改良」といった表現の方が適切です。
「昇華」は「昇華する」のように、動詞形で活用できます。当記事では主にビジネスシーンを想定し、「昇華する」の意味・正しい使い方などを解説します。
類語・例文も紹介しますので、ぜひご一読ください。
「昇華する」の意味を解説!
理科・化学の授業で「昇華」を習う分、「昇華する」の意味を深く考える機会は多くありません。「昇華する」の意味を改めて理解しておきましょう。
「昇華する」の由来は?
「昇華する」の語源・由来は明らかにされていません。
化学・心理学における「昇華」は外国語でも同義の語句があることから、化学・心理学上の当該現象に対し、後付けで「昇華」と名付けたものと考えられます。
化学的な意味での「昇華する」は?
化学において「昇華」とは、固体から気体へと変化すること、もしくは気体から固体に変化することを指します。
一般的には気体⇔固体の変化の過程で、液体の状態を経る場合がほとんどです。
一方、「昇華」の場合は液体の状態をまたいで2段階分先の状態に変化するため、例外的な現象といえます。
動詞形としては「気化する」「融解する」などと同様に、「昇華」が生じる様を指して「昇華する」と表現するのが一般的です。
心理学的な意味での「昇華する」は?
心理学的な意味での「昇華」は、精神的に充足されない心理状態を芸術・スポーツなど異なる方面のエネルギーに転換し、優れた結果につなげることを指します。
簡単にいえば、特定分野の欲求不満を異なる分野のエネルギーに転換し、成果につなげるということです。
注意点として、「昇華」を単なるストレス解消と混同してはいけません。
欲求不満を解消すること自体が本質なのではなく、欲求不満から生まれる負のエネルギーを正のエネルギーに転換することが肝心です。加えて、並ならぬ成果を挙げることも求められます。
「昇華する」は簡単に使われがちであるものの、本来は非常にハードルの高い言葉であることがわかりますね。
ビジネスでの「昇華する」の意味
ビジネスで使われる「昇華する」は、化学変化を思わせるほどの目まぐるしい転換を遂げることを指します。
先述の通り、単なる改善・改良のレベルでは「昇華」に当てはまりません。わかりやすくいえば、短所を克服しつつ長所に転換するイメージが近いでしょう。
車でいえばマイナーチェンジ・バージョンアップではなく、劇的なモデルチェンジを遂げてこそ「昇華」と呼ぶに相応しいです。
「昇華する」と「消化する」の違いを解説!
「昇華」の同音異義語の1つに「消化」があります。状態変化という意味では似ている部分もあるものの、性質は異なるため違いを解説します。
「昇華」と「消化」の意味の違い
「消化」は生理機能の1つで、学術的な位置づけとしては、化学よりも生物学に分類されます。
「消化」の意味は摂取した食物を吸収可能な液体状に変化させ、細胞が利用できる形態にすること。
固形のものを液体状に変化させる点では融解に近い面があるものの、固体⇔気体間を一足飛びに変化させる昇華とは原理・プロセスともに大きく異なります。
ビジネスで「消化」という場合も概ね同じで、スケジュール・段取りなどをこなす・クリアする行為を指します。
両者の違いのポイントとして、規則性の有無が挙げられます。秩序・ルールに沿って整然と進行するのが「消化」であるのに対し、「昇華」は想定外の結果を伴う場合がしばしばです。
「昇華する」と「消化する」の使い分け方
「消化する」の場合は、あくまで自己完結が前提です。対象が食物であるにせよスケジュールであるにせよ、目の前にあるものを順当にこなしていくことで解決します。
一方「昇華する」の場合は、化学変化に相当する劇的なアクションが必要です。
順当な段取りを踏むだけでは実現不可能な、高次元の成果を生み出してこそ「昇華する」の表現に相応しいといえます。
ビジネスにおける「昇華する」の使い方は?
ビジネスシーンで「昇華する」という場合は、より高い次元への変化・大きな転換を表します。
先述の通り、改善・改良のレベルでは既定路線の延長に過ぎないため、「昇華する」の表現には当てはまりません。
例えば、既存の仕組みを新しいシステムに転用し、利用者を劇的に増加させられれば「昇華する」ことに成功したといえるでしょう。
近年の典型例としては、クラウド活用型のサービスが挙げられます。
ネット接続とクラウドサービスを利用し、従来は接点のなかったユーザーを取り込む仕組みを自社サービスに活かせれば劇的な変化です。
すなわち「昇華する」「昇華した」に相応しい成果といえます。
ビジネスにおける「昇華する」の類語・言い換え表現を紹介!
ビジネスにおける「昇華する」の意味・性質を踏まえ、類語・言い換え表現を考えてみましょう。主なものは下記の2フレーズです。
「進化する」
改善・改良と区別して、飛躍的な成長や目覚ま進歩を「進化」と表現します。「進化」の動詞形が「進化する」です。
例えば開発段階の試作品・ソフトウェアなどが製品になれば、「進化する」「進化した」の表現に該当します。
ソフトウェアのバージョンアップにおいても、マイナーチェンジでなくメジャーバージョンアップが行われれば「進化した」と表現して構いません。
ちなみに「進化した」よりも「昇華した」の方が、より大きい変化を印象付けます。
というのも、一般論として企業が変化・進化するのは当然だとみなされているからです。
「開花する」
「開花する」は、培ってきたものが花開くという意味。種子から草木が育って実を結び、やがて花開く様は一種の化学変化にも例えられます。
一方、厳しい見方をすれば「開花」の現象も「進化」と同様に順当な成長の産物であり、一足飛びに成し得たものではありません。
したがって「開花する」は「昇華する」と似通ってはいるものの、本質的には同義ではないといえます。
ビジネスにおける「昇華する」を使った例文3選
最後に、ビジネスシーンで「昇華する」を使った例文を紹介します。
例文
「時間いっぱいです。今のところA案とB案、甲乙付けがたいですね」
「ここはいったん結論を見送り、別の案を練り直しましょう」
「別の案というと?」
「いわゆる弁証法というやつです。A案とB案の単純な折衷案ではなく、さらに高次の案を模索するのです」
「ああなるほど、昇華するってことか。」
「道筋は見えました。後日たたき台をお見せします」
例文
サマリー社と寺田倉庫社が提供するサマリーポケットは、レンタル収納のビジネスモデルを昇華させたサービスだ。倉庫業とクラウドサービスをサブスクリプション化する発想は革新的だったといえる。
まとめ
「昇華する」と表現するに相応しい事象を体験する機会は多くありません。並外れた努力をしたとしても、「進歩」や「改善」のレベルに留まるケースの方が多いものです。
一方でビジネスモデルを生み出したり、業態を変化させたりする人物はいつの世にも必ず存在します。
アイデアを実用レベルに発展させ、さらにはプロジェクトや事業にまで昇華させるのです。「昇華する」は、無限の可能性を秘めた言葉といえるでしょう。