電話応対において、「お電話差し上げる」という言い回しをする場合があります。
文法上は問題のない表現ですが、違和感を覚える・失礼な印象を受けるといった意見も少なくありません。違和感を覚えることには理由があり、マナー上の問題が関係しています。
以上を踏まえ、当記事では「お電話差し上げる」の意味・敬語表現としての妥当性・言い換え表現などを紹介します。ぜひご一読ください。
「お電話差し上げる」のフレーズを理解しよう
「お電話差し上げる」は定型表現の1つであるものの、ひとつの文章として成立しているフレーズです。
フレーズの意味・敬語表現としての位置づけを解説します。
「お電話差し上げる」の意味は?
「お電話差し上げる」とは、目上の相手に対して電話をかける旨の意志を伝える意味合いです。
自分自身が電話をかける場合だけでなく、呼び出し人が不在だった場合に言づてする場合にも使えます。
「お電話差し上げる」を分解してみよう
「お電話差し上げる」は目上の相手とやり取りする状況が前提になるため、敬語表現です。
「お電話差し上げる」のフレーズは、「電話」の美化語「お電話」+「あげる」の謙譲語「差し上げる」で構成されています。
異なる種類の敬語が2つ組み合わさった連続敬語であり、二重敬語には該当しません。
「お電話差し上げる」に違和感を覚える理由は?
「お電話差し上げる」は文法上問題ない表現であることは、先述の通りです。それでも違和感を覚えるのはなぜでしょうか。
理由は動詞「差し上げる」の性質に由来します。というのも、「差し上げる」は「与える」の謙譲語だからです。
「与える・施す」といった言葉は上から下に向けて行う処置を指すものであり、目上の相手に対して使う言葉ではありません。
謙譲表現に置き換えたとしても「与える・施す」の本質に代わりはないため、たとえ悪意はなくとも尊大な印象を与えてしまう場合があります。
以上の理由から、目上の相手に対して電話をかける意志を伝える場合は「差し上げる」ではなく、
別の言い換え表現で対応する方が無難です。
呼び出し人が不在の場合は?
目上の相手から電話があり、呼び出し人が不在だった場合は代理応答する恰好になります。
代理応答時の受け答えの仕方として、「お電話差し上げる」以外の相応しい言い回しを考えましょう。
適切な返答の仕方は?
電話をかけてきた相手方とすると、多くの場合は用件のみ伝えるかコールバックを要請する、もしくは自分から電話し直す旨を述べる形で終わるでしょう。
電話を受けた側としては、責任を持って呼び出し人に言づてする旨を伝える必要があります。
上記を踏まえ、「お電話差し上げる」に代わる言い方としては「お電話させます」「お電話するよう申し伝えます」程度の簡単な敬語表現でOKです。
「お電話差し上げるよう申し伝えます」はNG?
「お電話差し上げる」の代わりに「お電話差し上げるよう申し伝えます」と返答した場合はどうでしょうか。
残念ながら答えはNG。仮に「申し伝える」と語感を整えたとしても、「お電話差し上げる」のフレーズで伝えてしまった尊大な印象は拭えません。
「お電話申し上げる」は誤った表現
「お電話差し上げる」とは別のベクトルで、不適切な敬語表現の例として多いのが「お電話申し上げる」のフレーズです。
「お電話申し上げる」を分解すると「電話する」のような形で、動詞「する」の代わりに「申し上げる」を当てはめていることがわかります。
「申し上げる」は発言を伴う動詞「言う・述べる」の謙譲語であり、「する」の代わりに汎用的な意味で使うことはできません。
以上の理由より、「お電話申し上げる」は誤った表現です。「お電話いたします」「お電話させていただきます」のように、シンプルな表現に言い換えましょう。
「お電話差し上げる」の言い換え表現
「お電話差し上げる」が最適な表現ではないことを踏まえ、適切な言い換え表現を紹介します。
「お電話いたします」
「お電話いたします」は美化語+丁寧語のシンプルに構成された敬語表現です。
尊敬語・謙譲語を伴わない分、誤用のリスクが少なく堅苦しさも少なめ。失礼に当たることもないため、無難に使える表現といえます。
「お電話させていただく」
謙譲表現の「お電話させていただく」は「お電話差し上げる」に近い形で、なおかつ失礼のない言い回しです。
「電話する」「電話をかける」をへりくだって表現するため、目上の相手を立てた形になります。
「お電話するよう申し伝えます」
「お電話するよう申し伝えます」は呼び出し人が不在で、言づてを頼まれた場合に使える応答用のフレーズ。
「伝言します」「言い伝えます」だと乱暴な印象を与えるため、「申し伝えます」と謙譲語で語感を整えているのがポイントです。
言い換え表現「お電話させていただく」は二重敬語?
言い換え表現として紹介したフレーズ「お電話させていただく」について、二重敬語を疑う意見が散見されます。
「お電話させていただく」を分解すると、美化語「お電話」+「する」の謙譲語「させていただく」であることがわかりますね。
「させていただく」は若干字数が多いものの単語であり、謙譲語としても適正です。
構成の面から見ても美化語・謙譲語の組み合わせであり、いずれも1度ずつの使用であるため重複はありません。
以上より、「お電話させていただく」は二重敬語ではありません。安心して使いましょう。
まとめ
「お電話差し上げる」のように、文法上問題のない敬語表現であっても、マナー上適切ではない言葉はいくつか存在します。
ルール・マナーも大事ですが、相手に与える印象に注目するとスムーズに理解できる場合が多いです。柔軟に対応できるようにしておきましょう。