リスクヘッジは様々な場面で使われるカタカナ語です。元々は金融業界の用語でしたが、今では日常生活でやり取りされる言葉になっていますよね。
自己責任で生きるのが当然となった現代において、身を守る意味でもリスクとの付き合い方はますます大事になりつつあります。
リスクヘッジの意味や用法を理解し、公私ともに役立てていきましょう。
リスクヘッジの意味とは?
最初にリスクヘッジの意味を確認しましょう。
由来についても紹介していきます。
リスクを予測して備えること
リスクヘッジとは、リスクを予測して備えることです。
危機の回避や予防を目的としたリスクマネジメントとは少し意味合いが異なり、リスクヘッジの場合は危機や問題が発生することを前提として議論がスタートします。
言い換えれば問題を未然に防ぐのではなく、「問題は必ず起こるもの」と考えるのです。リスクヘッジの根底には、確定要素として避けられないリスクがある状況で、最善の行動戦略を立てようという思想があります。
リスクヘッジという言葉を理解するには、リスクの捉え方そのものを押さえることが肝心といえるでしょう。
リスクヘッジは金融取引で使われるビジネス用語
リスクヘッジは元々金融取引で使われていた用語で、「垣根を作って危険に備える」という意味を表します。
「垣根」と表現する理由は、例えば先物取引であれば取引先を1つに限定するのでなく複数に分け、分散投資を行うといった意味合いを表すことによるものです。
投資先の銘柄がそれぞれ独立していれば、仮に1つの取引で損失を被ったとしても他の銘柄には影響がありませんよね。正に垣根で仕切られた状況といえるのです。
資産運用を例にリスクヘッジを解説
資産運用においてハイリスク・ハイリターンを追求し続ける戦略は継続性が低いので、ある程度リスクを分散させるべきというのが一般的なセオリーです。
仮に全資金を株式Aに投入したとして、株式Aの株価が大幅下落し損失を被ったとしましょう。当該損失を取り戻すためには、株式Aの値上がりを待つのみになってしまいますよね。いかにも消極的な戦術です。
一方、株式Aの他に株式B、株式Cを購入し、資金投入も均等に行うケースを想定するとどうでしょうか。
もし株式Aの下落幅が先の例と同じだったとしても、株式Aに対する資金の投入量は自己資金全体の1/3で済んでいますよね。すなわち株式Aにおける当該損失も、金額ベースではぐっと少なく済むというわけです。
リスクヘッジの目的で購入した株式Bと株式Cは、株式Aの損失による影響を受けることなく独自の運用を継続できます。
また株式Bと株式Cで利益を得られれば、株式Aにおける損失をカバーできる可能性も生まれるでしょう。
金融取引におけるリスクヘッジの要諦は、資産運用において一意の損失が生じたとしても、全体としては運用主体にとって致命的な打撃とならないよう備えることに尽きるのです。
リスクヘッジの観点とは?考え方を分野別にみていこう
金融取引におけるリスクヘッジは、資産運用における要領の一種としてご理解いただけたでしょう。
金融取引以外の分野においてもリスクヘッジは使われています。
果たしてどのような概念なのか、観点に注目しながら見ていきましょう。
投資に関するリスクヘッジとは?
投資に関するリスクヘッジは、基本的に資産運用におけるリスクヘッジと同じと考えて構いません。
資産運用の一例として先物や株式を取り上げましたが、そもそも資産とは投資の結果として得られるものです。
従って投資信託や長期保険、マンション投資に代表されるような不動産投資なども対象に含まれます。
投資と資産の関係性を踏まえた上で考えるべきポイントとしては、資産運用の方向性を定めた上で投資に踏み切ることが挙げられるでしょう。
長期保有を目的とするのか、それとも短期決戦で売り抜けることを目的として一時的に買い上げるのか。一口に投資といってもアプローチは何通りもあるのです。
投資におけるリスクヘッジを考えると、まずは自分の資金とノウハウ、生活スタイルに適した投資方法をピックアップするべきです。
次に各投資方法について期間や利回りといった運用方法や長所・短所を見極め、特徴の異なる複数の投資方法を選択してリスクを分散させるとよいでしょう。
仕事に関するリスクヘッジとは?
仕事に関するリスクヘッジとは、悪い事態が起こることを想定して予め備えておくという意味です。
簡単な事例としては、会社であれば各組織に部長や部門長といった「長」のつく責任者がいますよね。
仮の例として、部長に全ての権限が集中している組織を想定しましょう。部長が病気でやむを得ず欠勤しまった場合、承認や決裁といった重要な判断機能がストップすることになってしまいますよね。
多くの組織では上記のようなケースを想定して、責任者をもう一人置くのがセオリーでしょう。
部長代理、副部長、課長など呼称は様々ですが、一番大事なポイントは権限を持った責任者がもう一人いるということです。
サブの責任者を置く形態は、組織運営におけるリスクヘッジの典型例といえます。
日常生活におけるリスクヘッジとは?
日常生活におけるリスクヘッジも多種多様で、簡単なレベルであれば既に多くの方が実行しているでしょう。
例えば、外出時に折りたたみ傘をバッグに入れておくのも立派なリスクヘッジです。
いわゆる危機回避の対応策としてはそもそも外出しないという方法もありますが、リスクヘッジの場合は雨に見舞われるリスクを考慮しつつ、雨に対応できる備えを持って外出するという点がポイントといえます。
また就職や転職活動において、本命の会社や業界とは別に待遇や知名度を基準で応募するケースもあるでしょう。
例えば元々IT業界志望だった人物が、ITの知見を活かして商社のシステム部門で活躍しているといった事例は枚挙に暇がありません。
すなわち志望業界をITに限定してしまうのはリスクであると判断した場合、他の業界にも手を広げるのは有効な善後策であり、一種のリスクヘッジというわけです。
保険はリスクヘッジの方法の1つ?
保険はリスクヘッジの手立てに含まれるとみなしてよいものでしょうか。答えはイエスです。
保険の典型例は火災保険でしょう。火災にもいくつかの種類があり、近隣の住宅が火元となって我が家が延焼してしまうという恐いケースもあり得ます。
仮に延焼を引き起こした火元が隣家で、我が家が一方的に害を被った場合であっても隣家に対して損害賠償は請求できません(失火責任法による)。
原則として、火災による被害は自分で賄うことになるわけです。もしも火災保険に加入していない場合は全損失を被ってしまいます。
わかりやすいので火災保険を例に挙げましたが、事故や災害に対する保険と補償の理屈はいずれも似たりよったりです。
リスクヘッジの方法として、保険は非常に有用な備えといえるでしょう。
リスクヘッジの正しい使い方を例文でチェック
応用編として、リスクヘッジを文章中で運用する場面を考えてみましょう。
リスクヘッジが甘い
リスクヘッジが甘いとはリスク発生の見積もりや、リスクに対する準備・防衛策などが不十分である様をいいます。
リスクの発生可能性や特徴を看破することも必要ですし、発見したリスクに対する備えもまた大事です。
リスクに対する見積もりと備え、両方揃ってクリアできていない限りは依然として「リスクヘッジが甘い」というロジックですね。
リスクヘッジを図る
リスクヘッジを図るとはリスクを分散させたり、避けられないリスクに対する防衛策を立てたりすることです。
主としてリスクが確定要素になっており、対応方法を取りはからう場面で使う機会が多い表現といえるでしょう。
リスクヘッジ目的
リスクヘッジ目的とは、リスクを分散させたり低減させたりする目的という意味です。
文章表現としては「リスクヘッジ目的で分散取引を行う」のように、リスクヘッジ目的で何かを行う・するという言い回しをする用法が多く見られます。
リスクヘッジ能力
リスクヘッジ能力とは最適なリスクヘッジを実行する能力のことです。リスクヘッジにも様々な種類や方法があることはおわかりいただけたでしょう。
場面に応じて最適なリスクヘッジ方法を選択できる力がリスクヘッジ能力です。様々なリスクヘッジの方法といっても、現実的には資金力や生活環境などの制約があるため、実行できる選択肢は限られます。
また情報も十分とは限らないので、先を読むセンスや判断力も必要です。リスクヘッジ能力の一番大事なポイントは「限られた条件の元で、最適なリスクヘッジ方法を実行できる能力」であるといえるでしょう。
リスクヘッジの類語や同義語とは?
リスクヘッジに類語や同義語はあるのでしょうか。チェックしてみましょう。
リスクテイク
リスクテイクは進んでリスクを負うという意味で、敢えて安全策ではなくリスキーな選択をするということです。
簡単にいえばハイリスク・ハイリターンを狙う考え方に近いといえるでしょう。
リスクマネジメント
リスクマネジメントはリスクヘッジとよく似た意味のフレーズで、危険回避のための管理手法を指します。
リスクヘッジの場合は大前提として危機が訪れ、なおかつ避けがたい状況を想定してシミュレーションを行いますよね。いずれ遭遇するであろうリスクに対して防衛策をとる、というアプローチです。
一方リスクマネジメントの場合は、起こりうるリスクを想定して、最初から回避行動を取ることを前提にシミュレーションします。すなわち想定リスクを回避、もしくはリスクに遭遇することのない行動選択をとるのです。
リスクヘッジとリスクマネジメントは姉妹関係のようなフレーズなので混同されがちですが、リスクに対する姿勢が異なる点に注意すれば十分判別できるでしょう。
FXにおけるリスクヘッジとは?ポジションとの関係性を簡単解説
近年、投資法の1つとしてFXが急速に広まっていますよね。FXにもリスクヘッジの概念が存在します。
そもそもFXとは“Foreign Exchange”の略で、外国為替取引のことです。名称の通り為替レートの影響を受けるのが特徴で、為替リスクがあるのはもちろんのこと、リスクヘッジの方法も一通りではありません。
FXにおけるリスクヘッジの例としては、両建てのポジションを持つという方法が典型的です。
FX取引で注文を出して約定した内容は「建玉」と呼ばれ、建玉を作ることを「ポジションを建てる」もしくは「ポジションを持つ」と表現します。
両建てとは同じ通貨のペアで、買いと売り両方のポジションを持つ運用方法のことです。例えば為替レートが日本円ベースで3円値下がりした場合、両建てのポジションを持っているなら買いポジションでは3円分の損失が出る一方、売りポジションでは3円の利益が発生することになるというわけです。
リスクヘッジのポイントとしては、両建てのポジションを持っていればどちらか一方の為替で損失を出しても相殺しやすいというのが大きなメリットですね。
ちなみに両建てのデメリットとして、利益が出た方のポジションを約定させるタイミングをうまく狙わないと儲けが出にくいというデメリットもあります。
リスクヘッジの英語「risk hedge」の意味とは?
最後に、リスクヘッジのルーツである英語“risk hedge”について簡単に説明します。
“risk hedge”とはリスクを分散させるという意味で、英語圏でも元々は金融取引の分野における専門用語でした。
金融業界からビジネスシーン全般に、やがて一般生活に浸透していったという流れは日本と全く同じです。
リスクヘッジは発音、用法ともに英語とほとんど同じで、いわば普遍的なフレーズといえます。リスクヘッジの概念は現代人の叡智の一つです。是非有効に活用していきましょう。