「時下ますます」の意味と使い方を解説!日本語文化の機微を表すフレーズをマスター!

文書における書き出しの挨拶は、日本文化の一つというべきもの。中でも「時下ますます」はポピュラーな一節です。

「時下ますます」はよく使われる一方でどのようなシーンに相応しく、またどんなシーンだと不適切かといった基準についてはわかりづらいもの。

シーン別の用法、用例などをピックアップしながら、正しい知識を身につけましょう。

この記事の内容

時候の挨拶として使われる「時下ますます」の意味や読み方

「時下ますます」は、主に時候の挨拶として使われる定型文の一つ。

まずは「時下ますます」を分解し、キーワードに注目しながら意味を理解しましょう。

「時下」とは「この頃」「現在」の意味

「時下」は「この頃」や「現在」を指します。「時下ますます」という場合は、「この頃ますます」という切り出し方をしているのです。

「ますます」はプラスな意味を表す?漢字で「益々」と書く

「ますます」を漢字で表すと「益々」。益々とは「前より発展し、進歩する」という意味の副詞です。

「益々」のユニークな特徴として、比較・強調を表す副詞「より」「いっそう」などと比べ、文字そのものに肯定的なプラスの意味が含まれます。

従って「益々」が使われる背景としては、「前より発展し、進歩する」という発展・進展の文脈が必要です。

現代において漢字で「益々」と表記する用例は稀で、「ますます」が一般的。

表記は異なっても意味や性質は漢字の「益々」と同じで、プラスのニュアンスを伴う副詞であることを覚えておきましょう。

具体的な例としては、「ますます盛ん」のような表記になるということですね。

「時下ますます」は手紙やビジネス文書などの時候の挨拶として使用

「時下ますます」は手紙やビジネス文書など、文章の媒体で使われる場合がほとんど。

先述のとおり、書き出しに時候の挨拶として定型的に盛り込む用法が一般的です。

ビジネスシーンであるか否かを問わず日本の風習・マナーとして、文章媒体においていきなり本題から入るのは好ましくありません。

なぜなら送り主が、まるで自分の用件を一方的に済ませようとしている印象を与えてしまうからです。

内容が一方的で、相手に対する気配りが希薄な文章は下品とみなされるわけですね。

「時下ますます」の正しい使い方

「時下ますます」をどのように使うか、方法論の話題に移りましょう。

「時下ますます」のフレーズが好まれるには相応の理由があります。

季節に関係なく使える万能な時候の挨拶

書き出しの一文には、季節に関する話題を入れるのも定番の挨拶ですよね。

「時下ますます」の場合は季節を問わず、いつでも使うことができるのがメリットです。

「時下ますます」は時候の挨拶でありながら、具体的な四季の特徴に触れる必要がありません。

執筆のタイミングによって季節に相応しい話題や挨拶文を用意しなく済むということであり、手軽でシンプルに扱える点が魅力といえるでしょう。

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「時下ますます」は冒頭で使用

「時下ますます」は文章の冒頭で使用するのがセオリー。相手の健康や活躍を願い、気にかけている心中を表現する意味があります。

自己完結できる日記とは異なり、文書やメールは相手あってのもの。

まずは相手の立場や状況に思いを馳せることが大事というわけです。

手紙を書く際「拝啓」や「謹啓」といった頭語と組み合わせる

手紙を書く際には「拝啓」や「謹啓」といった頭語を置き、続けて「時下ますます」という流れにするのがよいでしょう。

「拝啓」や「謹啓」と「時下ますます」をセットにすることにより、文章全体に引き締まった印象を与える効果があります。

手紙はメール以上にバランスが要求される文章媒体。書き出しから結びまでが一つの作品として捉えられるのです。

一見すると回りくどいとはいえ、頭語と書き出しの組み合わせを軽視せず、むしろ有効活用する方向に発想を切り替えるとよいでしょう。

ビジネスシーン必須「時下ますます」に続くフレーズを例文でチェック

ビジネスシーンにおいて、「時下ますます」という定型文が有用であることはおわかりいただけたでしょう。

続いて、「時下ますます」につなげて用いるフレーズも紹介します。

冒頭の挨拶がきれいにまとまると、本題に入りやすくなるもの。特に対外折衝の多い経営者層にとっては必須のテクニックなので、是非マスターしましょう。

相手の健康や幸せを気遣う「時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます」

ビジネスレターや案内状など個人宛の文書を送る際、相手の健康や幸せを気遣うポピュラーな定型文として「時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます」というものがあります。

「清祥」は挨拶用の語句で、相手が健康で幸せに暮らしていることを喜ぶ決まり文句の1つです。

「清祥」は人の心身に関する気配りを表すため、対象が個人に限られます。

取引先の企業や組織に対する気配りの挨拶については「清栄」や、後述する「隆盛」などが挙げられるでしょう。

結婚式などのスピーチで使う「時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」

「時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」は、結婚式など祝賀の場面におけるスピーチで使われる機会が多い決まり文句です。

「健勝」とは心身が健やかであること。健康とほぼ同義ですが、より格調高い言い回しであるほか「勝」という文字が入ることにより、めでたいニュアンスが強調されます。

「健勝」が祝賀会など晴れの場面で使われることが多いのも、やはりめでたい言葉だからです。

祝いの会に集まった参加者の健勝をよろこぶ場合には、喜ぶではなく「慶ぶ」と表現するべき。新年の挨拶文を思い出せばわかりやすいでしょう。

「謹んで新年のお慶びを申し上げます」というのが定番ですよね。

結婚式などの祝いの機会は、いわゆる「慶事」に当たります。「健勝」「お慶び」という格式ばった言葉が選ばれるのは、ごく自然な成り行きといえるでしょう。

個人よりも企業や組織に対して使う「時下ますますご隆盛のこととお喜び申し上げます」

個人ではなく、企業や組織に対する挨拶文には「時下ますますご隆盛のこととお喜び申し上げます」が相応しいでしょう。

文書に限らずビジネスメールにおいても同様です。

「隆盛」とは、栄えて盛んな様。「清栄」と同義であり、繁栄していて勢いのある様を表します。

個人の場合には「清祥」が適切。一方企業や組織において、個人の「清祥」に相当するのが「隆盛」や「清栄」です。

理由は簡単で、企業の場合は利益を上げ、潤ってこそ事業を存続できるからですね。

企業にとっては商売が繁盛していることこそ、個人における健康と同じ状態といえるのです。

組織や団体の場合も、理屈は同じ。事業や活動が人々から支持されなければ存在意義を失い、資金も集まらず存続できなくなってしまいます。

なぜ個人と企業とで表現を変える必要があるのか、上記のとおり理由をしっかりおさえておきましょう。

企業に対して大きな喜びを伝えたいとき「時下ますますご清栄の段と大慶に存じます」

企業に対して大きな喜びを伝えたいときは「時下ますますご清栄の段と大慶に存じます」と、いっそう喜びを強調した言い回しを選びます。

ポイントは「大慶に存じます」の部分。「非常にめでたい」という意味を表しつつ、謙譲語で相手を立てる要領です。

相手先に対し、最大限の喜びと敬意を表す言い方といえるでしょう。

式典の挨拶などで使う「時下ますますご清祥の由拝察いたします」

式典の挨拶などでは「時下ますますご清祥の由拝察いたします」という言い回しも使われます。
「ご清祥」については先述のとおりですね。

「由」(よし)とは、事情や様子のこと。理由という用法もありますが、前後の文脈と「清祥」というキーワードから判断すると、事情や様子を当てはめる方が適切でしょう。

「拝察」とは、推察の謙譲表現に相当します。「謹んでお察しする」といった意味合いで、ちょうど「拝見」と同じロジックですね。

拝見の使い方と同様、もしも「拝察させていただきます」と発言すると二重敬語になってしまいます。「拝察」につなげる敬語表現は丁寧語の「いたします」が妥当でしょう。

「時下ますますご清祥の由拝察いたします」とは、「相手がますます健康で、幸せに過ごしている様子を察している」というニュアンスを極めて丁寧に表現した定型文なのです。

手紙を書くときの注意点を大まかな順序で解説

「時下ますます」を使う前提で手紙を書く場合、大まかな順序が決まります。

というのも「時下ますます」を最初の書き出しに採用すれば、自ずと丁寧なトーンで手紙全体を構成する流れが生まれるからです。

「時下ますます」からの流れは次のとおりになります。

挨拶文

「時下ますます~」

日頃の取引や付き合いのお礼

「平素はご愛顧いただき~」
「日頃ご高配を賜り~」
など

本題、用件

「さて、来る6月10日より当社のサービス~がスタートします 」
「この度、新商品を発表する運びとなりました」
など

結びの挨拶

「末筆ながら~」
「末筆ではございますが~」
「時節柄くれぐれもご自愛くださいませ」
「ご多幸をお祈り申し上げます」
など

以上のとおり「時下ますます」と書き出すことで、手紙全体のトーンがおおよそ決まることがおわかりいただけますね。

状況に応じて使い分ける「時下ますます」の類語をチェック

「時下ますます」と似たトーンで使えるフレーズは、他にもいくつかあります。代表的なものを紹介しましょう。

現在の状況などを報告「目下~」

現在の状況などを報告する際には「目下(もっか)~」という言い回しが有効です。

「目下」とは目の前・さしあたりという意味。現在進行形で、どのように進捗しているかを相手に伝える際に使う表現というわけですね。

「貴社ますます」

「貴社ますます」とは、相手側の会社に対して使う定型文。

「貴社におかれましてはますます~」というフレーズと同義ですが、より短縮されており回りくどさがありません。

先述のとおり「ますます」とは、ポジティブなニュアンスを含んだ発展・進展の副詞。

「貴社ますます」と書き出すことにより、相手企業がますます発展していることを称えたり、いっそうの発展を願ったりする内容の文章につなげやすくなります。

「時下いよいよ」

「時下いよいよ」は「時下ますます」とよく似た言い回しです。

「ますます」との違いとして、「いよいよ」には目的地や到達点などの地点に迫っていくニュアンスが多く含まれます。

「いよいよ」には「ついに」「やっと」などの強調を表す副詞とも共通点があり、主として比較を表す「ますます」と同じ性質とは言い切れません。

細かく見れば上記のような違いはあるものの、挨拶文における実際の用法としては、「時下いよいよ」と「時下ますます」は概ね同じ扱いといえるでしょう。

「時下」の言い換え表現「時候の慣用句」を1月から12月まで紹介

挨拶文に使われる時候の慣用句の中から、代表的なものをピックアップします。1月から12月まで1つずつ列挙しましょう。

1月

「新春の候」
「寒さの厳しい毎日が続いておりますが」

2月

「余寒の候」
「立春とは名ばかりで、まだまだ寒さが続きますが」

3月

「春暖の候」
「日増しに春めいてまいりました」

4月

「仲春の候」
「葉桜の季節となりました」

5月

「惜春の候」
「すがすがしい初夏の季節となり」

6月

「吹く風も夏めいて」
「暑気日毎に厳しさを増す今日この頃」

7月

「大暑の候」
「海や山の恋しい季節となりました」

8月

「残暑の候」
「立秋とは名ばかりの暑さですが」

9月

「新秋の候」
「こおろぎの声が聞こえる今日この頃」

10月

「夜長の候」
「日ごとに秋の深まりを覚えるこの頃」

11月

「向寒の候」
「朝夕は冷気が身にしむ候となりました」

12月

「師走の候」
「歳の暮れも押し迫りましたが」

上記はほんの一例です。時候の挨拶は先人の機微がふんだんに含まれた、日本人の感性を象徴する文化の一つ。

興味を抱いた方には是非、時候の挨拶についての探求をお勧めします。

冒頭で使う「時下ますます」に対して同じ意味合いで使える結びの言葉

冒頭に「時下ますます」を配置するのと同様に、結びの部分に定型文を置く手法もあります。

代表的な結びの言葉と、使い方を簡単に解説しましょう。

「時節柄~」「季節柄~」は季節に関係なく使用できる結びの言葉

もっともポピュラーな結びの言葉は、「時節柄~」「季節柄~」の2つ。

季節に関係なく使用でき、時期を選ばない点で重宝されています。

例として「時節柄ご自愛ください」などが一般的

「時節柄~」「季節柄~」につなげるフレーズとしては例えば「ご自愛ください」といったものが一般的。

「時節柄ご自愛ください」で、簡潔な締めの一文が完成します。

もしも季節に合わせる言い回しを考えるならば「次第に暑さが増すこの頃、お体にはお気をつけください」「寒さが厳しいためご自愛ください」など、季節の特徴に合わせたつなげ方をすればよいでしょう。

日本独自の表現?「時下ますます」の英語フレーズをチェック

先述のとおり、「時下ますます」といった時候の挨拶は、日本文化の機微というべきものですよね。

時候の挨拶はユニークな文化に相違ありませんが、相手に対する気遣い・配慮を表す挨拶は英語表現にも存在します。

例文

・“I hope you are well.”
(ご健勝を願っています)

・“I hope all is well.”
(ご清栄をお祈りしています)

英語表現の場合は持って回った言い方をせず、ごくシンプルです。「願う・期待する」の動詞部分については、“wish”よりも“hope”の方が適切だという点に注意しましょう。

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