リーダーシップをとるような立場の人物に対して「気丈に振る舞う」という言い方をすることがありますよね。
「振る舞う」の文字通り、リーダシップをとるならば人に与える印象を優先しなければならないケースもしばしばでしょう。
たとえ本心や本音では違う感情を持っていても、実際に行うアクションは公人としての振る舞いが優先されるもの。社会人であれば当然ですが、リーダーシップをとる立場の場合は尚更ですよね。
「気丈」と「振る舞う」とは親和性が高いのです。「気丈に振る舞う」にまつわる意味用法、類語・反対語などをチェックしていきましょう。
「気丈」の意味や読み方を簡単解説「気丈に振る舞う」とは?
「気丈に振る舞う」というフレーズは、「気丈」「振る舞う」という2つのキーワードで構成されています。
特に使う頻度の少ない「気丈」については、正確に理解しておく必要があるでしょう。
「気丈」の読み方は「きたけ」or「きじょう」?
「気丈」は「きじょう」と読みます。「丈」は「丈夫」「大丈夫」にも使われていますよね。
意味については後述しますが、類推される通り比較的シンプルな言葉といえます。
「気丈」の意味「気丈な人」とはどんな人?
「気」とは「気持ち」「心」のこと。「丈夫」「大丈夫」からも類推できるように、「丈」はしっかりしている・芯が強いという様を表します。
「気」と「丈」を組み合わせた「気丈」は、気持ちがしっかりしている・心が強いという意味なのです。
「気丈な人」は、「気持ちのしっかりした人」「ハートの強い人」という意味を表します。現代風にいえば「メンタルの強い人」くらいの意味合いですね。
「気丈」の使い方は慣用句「気丈に振る舞う」が一般的
熟語「気丈」を単独で使う用例は多くはありません。
むしろ「気丈に振る舞う」というフレーズ、慣用句の1つとして用いるのが一般的。現代において「気丈」は、やや古めかしい言葉とみなされています。
「気丈に振る舞う」ってどんなこと?
「気丈に振る舞う」とは精神的な弱さや、付け入る隙といった弱点を見せることなく強い姿勢を示すこと。
ともすれば挫けてしまいそうな苦しい状況でも揺らぐことなく、毅然とした態度で行動する様が当てはまるでしょう。
「気丈に振る舞う」のような「気丈」を用いたフレーズを例文でチェック
「気丈」と組み合わせたフレーズは「気丈に振る舞う」の他にも存在します。
例文形式で5つ紹介しましょう。
「気丈だ」
「気丈だ」とは、対象人物の性格が気丈であることを評する様。
「気丈である」と同義といえます。
例文
年次が一番若いという理由で、彼は夜勤の担当を進んで引き受けている。気丈で責任感もあり、見どころのある人材だ。
「気丈にも」
「気丈にも」とは、敢えて苦労や負担を伴う行動をとること。
苦痛や困難が予測され、一般的に敬遠されるような役割を請け負うケースが当てはまります。
「気丈にも~する」のような文章が代表的でしょう。
例文
人の尻ぬぐいは誰もが避けたいもの。ところが私の先輩は気丈にも、他人が犯したミスの穴埋めを文句一つ言わず引き受ける。こういう人がストレスフルな人間関係を和らげ、周囲からも評価されて出世していくのだろう。
「気丈そう」
「気丈そう」とは形容表現の1つで、「気丈であることが窺える」という意味。
形容動詞に副詞「そう」を付けることで、形容詞と同じ働きを表します。
表現法としては「勝気そう」などと同系統といえるでしょう。
例文
服装や立ち居振る舞いから、彼女は気丈そうと判断されがちだ。
「気丈さ」
「気丈さ」とは、「気丈であること」という意味。
もう少し崩した形であれば「気丈っぷり」と同義といえます。
例文
面倒ごとを一手に引き受ける彼女の気丈さには恐れ入る。内心では辛い気持ちもあるだろう、我々がサポートせねば。
「気丈さに欠ける」
「気丈さに欠ける」とは気丈さが不足している、すなわちメンタルが不十分であるということ。
相手に対する否定的な評価なので使い方には要注意です。
例文
彼は厄介ごとを嫌い、責任を負う役回りからとことん逃げている。ピンチの時に頼りにならないので、気丈さに欠けると言わざるを得ない。
自分には使わない?シーン別「気丈」を使う時の注意点
会話の中で「気丈」を使う際には、注意点も。
心や精神に関する語句なので、扱い方もデリケートであるべきですね。
注意点1:褒め言葉のニュアンスが強い「気丈」という言葉は相手に向けて使うこと
自分に対して「気丈」という発言はNG。というのも基本的に「気丈」は褒め言葉であり、自分に対して使うと自画自賛することになってしまうからです。
「気丈」は相手に向けて使う言葉なのだと覚えておきましょう。
注意点2:本当に辛い思いをしているかもしれない相手を追い詰めてしまう可能性がある
「気丈に振る舞う」という表現があるように、気丈に見えるのは表面上で、実際のところ当人は辛い思いをしているケースも考えられます。
もちろん辛さを全く意に介していない場合もありますが、第三者が相手の本心を見抜くことは至難でしょう。
もし当人が悲しみや辛い思いを隠して気丈に振る舞っている場合、人から「気丈だ」などと評されたらどのように思うでしょうか。追いつめられた気持ちになるのも無理はないですよね。
「気丈」は褒め言葉であるものの、相手の状況・精神状態によっては必ずしもプラスに作用しない場合があるのです。扱いには注意が必要といえるでしょう。
葬儀などツライ気持ちになっている人に「気丈に振る舞う」は厳禁
注意点2を踏まえ、葬儀などデリケートな出来事の当事者に対して「気丈に振る舞う」「気丈に振る舞っている」などといった発言をしてはいけません。
特に葬儀の場合、身内を亡くしたショックは計り知れないものです。一見気丈な様子でも、当事者の内情としては辛い気持ちを堪えている場合が多々あるもの。
不用意な言葉遣いで相手を傷つけてしまわないよう、十分に注意しましょう。
会社で部下に激励のつもりで「気丈さに欠ける」と言うとパワハラを疑われるかも
仕事にミスや失敗はつきもの。仮にミスや失敗ではなくとも、改善のために自己反省する場合もあるでしょう。
このような時、なかなか明るく気丈には振る舞えないものです。
職場で部下が落ち込んでいたり、表情が沈んでいたりという場合に、相手を激励するつもりで「気丈さに欠ける」と言葉をかけるのは考えもの。具体的な言い方としては「どうした、暗い顔をして。気丈さに欠けるぞ!」といったイメージですね。
声をかけた上司としては「落ち込むな、元気を出せ!」と発破をかけたつもりでしょう。
一方声をかけられた部下の立場としては、「無理にでも元気を出せ」「気丈に振る舞え」と圧力をかけられたように感じるかもしれません。
心理的な圧力、圧迫はパワハラと受け取られる可能性があります。善意としての励ましが、むしろ悪意あるパワハラだとみなされるおそれがあるのです。
昔と比べると従業員の帰属意識、労働に対するスタンスも大きく変化しています。上司からの好意や厚意は、時として悪意だと捉えられてしまう可能性があるのです。
「気丈さに欠ける」を激励の言葉として使うのは、避ける方がよいといえそうですね。
「気丈」の類語や言い換え表現の意味を簡易チェック
「気丈」には類語や言い換え表現もあります。
比較的シンプルなものばかりなので、軽くチェックしてみましょう。
気丈夫
「気丈夫」とは「心強い」ということ。
「気丈」と同じ意味でも使えますが、第三者に対して「頼りになる」と評する意味もあります。
強靭
「強靭(きょうじん)」とは、強くて粘りがあること。
強度が高い上に、柔軟であるという意味を表します。
「気丈」とは異なり、人の心以外のものを指す場合もあるので文脈に注意しましょう。
芯が強い
「芯が強い」とは、外見に反して内実がしっかりしていること。
主として精神面を指すため、「芯が強い」というだけで人物を評することになります。
我慢強い
「我慢強い」とはよく辛抱し、耐えること。苦難を耐え忍ぶ強さを持った様を表します。
打たれ強い
「打たれ強い」は「我慢強い」よりも直接的で、打たれることへの耐性があり、いわば「ダメージに強い」「タフ」といった意味合いです。
気を保つ
「気を保つ」は紹介してきた形容表現のフレーズ群とは少し異なり、動詞として扱われる熟語です。
「正気を保つ」と似た意味で、正常な心を保つということ。
言い換えれば取り乱すことなく、冷静であるというニュアンスですね。
「気丈」の意味と反対語・対義語となる言葉とは?
類語に続いて、「気丈」の反対語・対義語も見ていきましょう。
脆弱
「脆弱(ぜいじゃく)」とは、もろくて弱いという意味。
精神面に限定されるわけではないので、前後関係に注意が必要です。
ひ弱
「ひ弱」とは、いかにも弱々しいさまを表します。
主として対象の身体を評する言い回しであり、対象も人間に限られません。
気弱
「気弱」とは文字通り、気が弱いこと。
ちょうど「気丈」の正反対に当たる語句といえます。
よくある勘違い「居丈高」 を「気丈高」と間違えないように!
精神状態を表す熟語として「居丈高(いたけだか)」というものもあります。「気丈」と同様に「丈」という文字が入るため、「気丈高」などと誤認される事例も少なくありません。
「居丈高」とは高圧的・威圧的な態度であること。現代風にいえば「上から目線」であるという意味で、自分を大きく見せて上から相手を見下す場面を浮かべれば、文字のイメージと合致するでしょう。
ちなみに「気丈高」という熟語・語句は存在しません。「気丈」を、「居丈高」や「気丈高」などと書き間違えないようにしましょう。
デキるビジネスマンに共通すること!気丈な人の特徴とは?
デキるビジネスマンは、往々にして「気丈な人」であるもの。
精神の強い人こそ、仕事もできるのです。
気丈な人の特徴を把握すれば、デキるビジネスマンに近づけるでしょう。
物怖じしない態度
気丈であるとは、精神的に揺るがないということでもあります。揺るがぬ精神、すなわち物怖じしない態度や強いメンタルがポイントです。
注意が必要なのは、決して「居丈高」になってはいけないということ。物怖じしない態度と、居丈高であることはイコールではありません。
すなわち自分を大きく見せたり虚勢を張ったりするのでなく、物怖じせず言うべきことを正当に主張し、正義感を持って為すべきことをしっかり為すというシンプルな姿勢が肝心なのです。
ネガティブ思考にならない
気丈な人はネガティブ思考に陥ることがありません。もちろんリスクは想定するのですが、「失敗するに違いない」ではなく「成功するにはどうするか」というポジティブな発想でアプローチしていくのです。
デキるビジネスマンは単なる楽観主義ではありません。
失敗しないように様々な方法で手を施しつつ、気丈に成功への道筋を描いているわけですね。
強い精神力ですぐに立ち直る
デキるビジネスマンも人間です。時としてミスを犯すことはあるでしょう。
デキるビジネスマンは起こってしまった出来事や過去を編集することは不可能だと考え、思考を切り替えるのもスピーディー。すなわち失敗してもくよくよと悔やむことなく、素早く立ち直れる気丈さがあるのです。
ミスにめげず、すぐに立ち直ることも立派な対処法の1つといえるでしょう。
リーダーシップの資質
物怖じすることなくポジティブ思考で、失敗してもすぐに立ち直れる人には天性のリーダーシップが備わっています。
上述した要素が多少欠けていても、リーダーの役目を全うしている人は沢山いるもの。いわんやリーダーシップの資質を持った人が、リーダーになれないわけがありません。
リーダーシップの資質として、気丈であることがいかに大事かおわかりいただけたでしょう。
「気丈」は「tough(タフ)」?「気丈に振る舞う」の英語表現を例文付きで紹介
最後に「気丈に振る舞う」の英語表現を紹介します。実のところ、英語では日本語の「気丈」にピッタリ当てはまる単語がありません。
「勇敢」「豪胆」などのように、「気丈」のニュアンスの一部に当たる単語が主といえます。
「気丈に振る舞う」に近い英文をピックアップしましょう。
例文
・He behaves stout hearted.
(彼は豪胆に振る舞っている)
・She is a tough woman who will recover.
(彼女は自分で立ち直り、気丈に振る舞える女性だ)