「真摯に受け止める」というフレーズについて、ネガティブなイメージをお持ちではありませんか。
考えられる理由としては、人や組織が批判や叱責を受けた際、対するリアクションとして「真摯に受け止める」という姿勢を打ち出すことが多いからでしょう。
実のところ「真摯に受け止める」の本質は、必ずしもお詫びや謝罪といったネガティブな内容ばかりではありません。
例えば新しい責務、職務に対するポジティブな姿勢や意気込みを表す際に「真摯に受け止める」という言い方をしてもよいのです。
既存のイメージにとらわれずに、今いちど「真摯に受け止める」についての知識を整理してみましょう。
「真摯に受け止める」の意味とは?
「真摯に受け止める」とは、「真面目かつひたむきに受け止める」という意味です。
フレーズ後半の「受け止める」については説明不要でしょう。問題は前半の形容動詞「真摯に」の部分に尽きます。従って、「真摯」という単語を把握できればクリアですね。
「真摯」とは、「真面目でひたむき」という意味の語句。「真」は嘘や偽りがなく、真っ当な様を表します。一方、「摯」はまこと・まじめという意味。似た意味を持つ二語を組み合わせて「真摯」という言葉が生まれたのです。
以上を踏まえると「真摯に受け止める」には、特にお詫びや謝罪と直結するニュアンスが含まれないこともおわかりいただけるでしょう。
「真摯に受け止める」の使い方は?
「真摯に受け止める」は、果たしてどのように使うべきなのでしょうか。
多くのケースで使われるお詫びや謝罪のほか、着任挨拶のような場面でも「真摯に受け止める」と発言する使い方があります。具体的な用例を見ていきましょう。
新たな責務を担い、意気込みを語る場合
昇進や転勤・転属など新しいポジションに就いたり、新天地で働き始めたりする時は心機一転のタイミング。
人事異動により役職や所属の変更がなされ、着任挨拶や所信表明をする機会は少なからずあるものです。
上記のような場面で「真摯に受け止める」という言い方をすれば、新たな責務を担うに当たり前向きな姿勢を打ち出すことになります。
仮に同じ部署で昇進・昇格した場合でも、スタッフの顔ぶれが同じであっても昇進前とは全く違った立ち回りが必要です。自他ともに心を入れ替えるつもりで、前向きなメッセージを伝えるのは大事なアクションといえるでしょう。
お詫びや謝罪の気持ちを示す場合
ミスや不祥事の責めを負い、お詫び・謝罪の気持ちを表す時にも「真摯に受け止める」という言い方をします。
ミスや不祥事の責めを負うとはすなわち、自分にとって不都合で思わしくない事案であっても目を背けることなく、他人に責任を転嫁せず真剣に向き合うという意味合い。
人は元々、楽な方に流れるもの。ミスや不祥事といった恥や苦痛を伴う出来事からは、できるだけ逃れたいと考えるのが自然です。
一方、生きていく上でミスや失敗は付きものですし、仕事の上でも他人に迷惑をかけてしまうことは誰にもあるでしょう。
不都合な出来事に遭遇した時には大きく2つの対応法があります。1つは問題に対し、当事者として真摯に向き合おうとするというもの。もう1つはあくまで第三者的な立場で、面倒ごとには関わらないようにするというスタンスです。
当事者として問題に関わる場合は苦痛や恥を伴う代わりに、またとない経験と反省の機会を得ることができます。
ネガティブな場面で「真摯に受け止める」と発言するケースでも、ただ社交辞令的にお詫びや謝罪の気持ちを表すだけでは勿体ないでしょう。失敗や不祥事を反省し、自分自身の成長につなげるためにも、文字通り「真摯に受け止める」姿勢が大事なのです。
「真摯に受け止める」の注意点を解説
「真摯に受け止める」の基本的な意味用法はおわかりいただけたでしょう。続いて注意点についてもみていきます。
責務に対する意気込みを語る場合
昇進や転勤・転属によって新しいポジションに就き、挨拶や所信表明をする際には「真摯に受け止める」と発言する場合があるでしょう。
新しい責務に対して「真摯に受け止める」という場合は、自分がどのような責務を負い、どのように立ち回るべき役割であるのかを把握する必要があります。
言い換えると「頑張ります」といったような漠然とした精神論で語るのではなく、当該ポストの組織における位置づけや役目を正しく理解する必要があるということです。
「真摯に受け止める」のフレーズは、意気込みだけを表すのではありません。発言者の責務に対する意識や、仕事の取り組み方を表すものと考えてよいでしょう。
ミスに対してお詫びや謝罪をする場合
ミスに対するお詫びや謝罪の気持ちを「真摯に受け止める」と表現する場合は、ミスの事実に対して誠実に向き合う必要があります。
具体的には原因の分析と対策の打ち出しが必要で、同じミスが再発しないように手立てを講じることが肝心です。
責務に対する意気込みを語る場合と同様、ただ単に
決まり文句として「真摯に受け止める」と発言するだけでは不十分。
ミスに対するお詫びや謝罪として「真摯に受け止める」と発言する場合、どのように施策しアクションしていくのかという具体論、および具体策をセットで提示するようにしましょう。
「真摯に受け止める」を使った例文を紹介!
紹介してきた「真摯に受け止める」の意味と使い方を踏まえ、具体的な例文を考えてみましょう。
謝罪と反省の意思を示す場合
例文
「本多君、ベアリングの発注ミスがあったぞ!発注時に入力の桁数を間違ったんだろう」
「本当ですが、申し訳ありません!」
「君らしくないミスを…。対策を考えるように」
「それでは、目視による自己チェックでは不十分なので、異常値に反応するアラートを設定しようと思います」
「ほう、できそうかね?」
「はい、システム面をちょっといじってみます。自己チェックを強化するだけでは、会社の運用を強化ことにはつながりません。失敗を真摯に受け止めるならば、会社の仕組み自体を整備するように取り組むべきです」
意気込みを語る場合
例文
「今日から課長に就任する森田です。管理職の重みを真摯に受け止め、きっちり部署をまとめていきます!」
「昇格おめでとうございます。でも、昨日まで親しみやすい先輩だったのに、ちょっと距離ができちゃったなー」
「真摯に受け止める」の言い換え表現を紹介!
「真摯に受け止める」はフレーズなので、単語レベルの類語はありません。よく似たニュアンスの言い回しを考えてみましょう。
誠実に取り組む
物事に対して真面目に向き合い、誠意を持って臨むという意味で「誠実に取り組む」という表現があります。
「真摯に受け止める」という場合、必ずしも当事者がアクションまで踏み込むとは限りません。一方「誠実に取り組む」という場合、アクションまで行うという言質が含まれます。「受け止める」と「取り組む」という、両者の動詞部分に注目すれば明らかですね。
交渉や折衝においては言質が重要になってくるため、上述のような細かい言い回しにも気を配る必要があるのです。
厳粛に受け止める
「厳粛に受け止める」は「真摯に受け止める」に近いニュアンスを表すフレーズです。
「厳粛」とは厳かで真剣な様。従って「厳粛に受け止める」も、「厳しく真剣に受け止める」という意味を表します。
「厳粛」という語感に引っ張られるため、「真摯に受け止める」というよりもやや厳しく堅い印象を受けるかもしれません。
不退転の決意で臨む
「不退転の決意で臨む」とは一歩も引いたり退いたりすることのない、強い決意で臨むという意味です。
「不退転」とは元々仏教用語で、菩薩が仏道修行の道筋を後戻りしない様のこと。転じて修行における菩薩の気構えを表す語句となり、今ではくじけることのない強い信念を指す言葉として定着しています。
現代、特にビジネスシーンにおいて「不退転の決意で臨む」という場合は責務を全うする心構えを表明することが多く、いわば「一所懸命に取り組む」に近いニュアンスといえるでしょう。
「真摯に受け止める」の英語表現は?
「真摯に受け止める」を英語で言い表すと“take~seriously”というイディオムが当てはまります。
“seriously”は、ほぼ日本語化されている「シリアス」(serious)の副詞形で「真剣に」という意味です。従って“take~seriously”は「~を真剣に捉える」「~を深刻なものとみなす」といったニュアンスを表します。
例文
・“Taro took the matter seriously.”
(太郎は当該問題を真剣に捉えた)
・“I don’t think that Jack takes it seriously.”
(ジャックが真面目に考えるとは思えない)
まとめ
「真摯に受け止める」の本質は、ひたむきで真剣に臨むこと。お詫びや謝罪の用途で使われることが多いにせよ、本来の意味からすれば二義的な使い方なのです。
「真摯に受け止める」とは本来、ニュートラルな性質を持つフレーズであることを覚えておきましょう。