労わり、休息を促すフレーズに「養生してください」というものがあります。類似表現の休んでください・ゆっくりしてくださいといったフレーズと比べ、少し堅い言い回しですよね。
あまり使われることのない「養生してください」という言葉の意味、使うべき場面を確認してみましょう。英語表現も併せて紹介します。
「養生してください」の意味は?
そもそも「養生」という語句自体、馴染みのない方も多いでしょう。初見であっても、語句を構成する漢字から何となくニュアンスを連想できそうですよね。
「養生してください」のポイントは、やはり単語「養生」にあります。果たしてどんな意味なのでしょうか。
単語「養生」の意味
「養生」(ようじょう)には、主に2つの意味があります。
①生活に留意して健康の増進を図ること
②工事や引っ越しなどにおける、破損防止の手当
引っ越しやレイアウト変更などの際、業者を頼った経験のある方は②の用法に馴染みがあるかもしれません。緩衝材や養生テープなどを利用し、破損予防作業を施すことは正に「養生」の行為です。
一方、人に対する労わりの言葉として使われる「養生」には、①の意味が当てはまります。すなわち単に休むだけでなく、「心身ともにケアして整える」という意味が含まれるわけですね。
フレーズ「養生してください」の意味
上記を踏まえ、人に対して投げかけられるフレーズ「養生してください」の趣旨は「心身ともに労わり、大事にしてください」といった意味。
「心身ともに労わり、大事にしてください」を一言一句並べると、何とも仰々しいメッセージになってしまいますよね。まるで別離の言葉です。
一方「養生してください」と一言にまとめれば、同じニュアンスを簡潔かつソフトに伝えられるでしょう。
フレーズや決まり文句の存在意義は、冗長になりがちなニュアンスを簡潔に伝えることにあるのです。
「養生してください」の使い方をチェック!
「養生してください」の意味を踏まえ、具体的な運用を考えてみましょう。注意点などもあるかもしれません。
「養生してください」の使い方
「養生してください」は相手を慮り、労わる言葉。例えば激務が続いていたり、病や不調を押して出勤していたりといった同僚に対して「養生してください」の一言は大変有効です。
注意すべき点として、「養生してください」は敬語表現ではありません。「~してください」という補助動詞は一見丁寧ですが敬語ではなく、また相手を促しアクションさせようとするニュアンスを含みます。
以上の理由から、「養生してください」と声がけしてよい対象は、同格もしくは近い距離感の相手に限られるのです。
上司に使ってもOK?
一般論として、上司に対し「~してください」という物言いはNGですよね。理由は上述の通りで、相手を動かし、使役するニュアンスがあるからです。
当然、上司に対して「養生してください」と発言することはできません。いかに相手を労わる気持ちがあっても、マナーとして目上の相手に「養生してください」と声がけしてはいけないのです。
「養生してください」を敬語表現にしてみよう
目上の相手を労わり、休んでほしいと伝えたい場合は「養生してください」ではなく、敬語表現にすればOK。言い回しとしては「ご養生なさいませ」が無難です。
敬語表現でなくとも失礼のない言い方をすればよい、という場合は「どうぞご自愛を」「ご無理をなさいませんよう」などの、丁寧なフレーズを使うとよいでしょう。
ビジネスシーンで「養生してください」を使うには?
日常生活ではともかく、心身ともに負荷のかかるビジネスシーンでは「養生してください」を使う機会が少なくありません。
ビジネスのコミュニケーション手段として、メールと電話は欠かせないですよね。メールおよび電話を介して「養生してください」を使う場面を想定してみましょう。
メールにおける「養生してください」の使い方
手紙では、文面の最後に相手の置かれている状況を慮り、労わりや気配りの一言を添え書きするのがセオリーですよね。
具体的には本文の結びに「ご自愛ください」や「お体を大事に」などの決まり文句を添える要領です。
ビジネスメールにおいても理屈は同じ。手紙の添え書きと同様に「養生してください」と付記することで、相手に対する文面としてのまとまりが生まれます。
電話における「養生してください」の使い方
電話における「養生してください」は、手紙やメールなど文章の媒体と比べて少し軽いタッチで使われます。
メールと同様に通話の最後に挨拶の言葉として発言してもよいのですが、話の中で相手の多忙ぶりや体の負担などが窺われるタイミングで、「養生してください」と一言添えれば効果てきめん。
電話は文章と異なり、相手との掛け合いで行うもの。相手を労わり励ますべきタイミングを察し、状況に相応しい一言をかけるのがポイントといえるでしょう。
「養生してください」を使った例文3選!
「養生してください」の意味や使い方を踏まえ、簡単な例文を作ってみましょう。
例文
「今日で3日連続の残業だ!一向に終わらねー!」
「先輩、無理せず養生してください」
「いや、だって僕が抱えてる案件を君にやらせたら、無理難題でパワハラになっちゃうじゃないの」
「そう言われると心苦しいですね…早く成長します!」
「おっ、その心意気や良し。まあ、来年には君にも色々任せるよ!」
例文
「高木さん、咳をしてるようだけど」
「あっ店長、お疲れさまです」
「さてはみんなに内緒で、体調不良を押してるんじゃない?」
「さ、さすがお見通しですね…仰る通りです」
「やっぱりね。さあ今日はもうあがって、養生してください!」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
例文
「ゴホッ、ゴホ。あーツラい!」
「部長、風邪ですか?養生してください」
「本当は上司に、『~してください』って言っちゃいけないんだぞ!ゲホゴホ」
「わかってますよ。でも、部長はフランクだからいいかなって!」
「ブホッ!病人をからかうんじゃない、まったくもう!」
「養生してください」の類語を紹介!
「養生してください」の代わりに使える、主な類語を5つ紹介します。少しずつトーンが異なるので、場面に合わせて適切なものを選びましょう。
お大事に
「お大事に」は手短に済ませられる挨拶として定番の一言。特に医療機関にかかった場合、退出の際にかけられる挨拶言葉は十中八九「お大事に」でしょう。
敬語表現でもないものの丁寧な印象を与えられるため、短さと相まって重宝するフレーズといえます。
ご自愛ください
「ご自愛ください」は「自分の心身を大事にしてください」という意味の決まり文句。元々は手紙における結びの言葉だったもので、今では電話やメールなどでも同様に使われています。
語尾が「~ください」という点では「養生してください」と同系統ですが、前半に「ご自愛」という尊敬語が入っているのがポイント。立場によらず、広範囲の相手に使える表現です。
無理をなさいませんよう
「無理をなさいませんよう」はとても丁寧な敬語表現。というのも尊敬の補助動詞「なさいます(なさいません)」を採り入れているからで、もちろん目上の相手に使っても失礼に当たりません。
ご静養ください
類語の中でもとりわけ「養生」に近い語句が「静養」です。「静養」とは心身を静かに休め、英気を養うこと。
意外なことに、「静養してください」という言い回しは一般的ではありません。従って「養生してください」と全く同じ使い方はできないので、「ご静養ください」という言い方をする場合が多いでしょう。
ちなみにフレーズ「ご静養ください」が表す敬意の度合いは、先述の「ご自愛ください」と同等程度とお考えいただいて構いません。
お労わりください
「ご自愛ください」とほぼ同義のフレーズで、「お労りください」というものもあります。
「労わる(いたわる)」とは他人に対して行うものと思われがちですが、自分自身を労わる行動があってもおかしくはありません。「自愛」という言葉が存在することからも明らかですね。
以上を踏まえ自らを労わり、ケアするよう促すのが「お労わりください」という言葉の趣旨。今ひとつ発音しづらいこともあり、実際には使用機会の少ないフレーズといえるでしょう。
「養生してください」を英語で表現してみよう
紹介してきた通り、「養生してください」のニュアンスはごくシンプル。相手を労わる言葉はどの言語にもあるものです。
「養生してください」を英語で表現する場合、どのような言い回しになるのでしょうか。
“Take your time to recover.”
「養生してください」の言外にあるニュアンスを、具体的に表現した言い回しが“Take your time to recover.”というフレーズです。
直訳すると「体の回復を図るため、時間を使うべきだ」という意味。説明不要なほどに明快な表現ですね。
“Take care of yourself.”
映画などでよく聞く見送りの挨拶に“Take care.”という一言がありますよね。「気を付けて」「体に気を付けなさい」などの意味を表すフレーズです。
“Take care.”の派生形が“Take care of yourself.”で、対象が自分自身に限定されるため、「自分を大事に」「ご自愛を」といった意味が当てはまります。
“Get some rest.”
「休憩をお取りください」「休みなさい」という、ごくストレートな言い回しが“Get some rest.”です。
“rest”は不可算名詞なので、複数形にしてはいけません。形容詞“some”の和訳としては数を表す「いくつかの」よりも、「多少の」「ちょっと」くらいのニュアンスが妥当でしょう。
まとめ
「養生してください」と発言するべき対象、使うべき場面は学校教育で学ぶようなものではありません。
場の空気を読み取り、相手の状況を察するセンスも必要。すなわち、対人コミュニケーションを実践しながら感覚を身につけていくプロセスが肝心なのです。
「養生してください」と声がけするタイミングは多くないでしょう。だからこそピンポイントで使えるよう、意味用法を理解しておくべきですね。