知見の有無について問いかける際、「ご存知ですか」というフレーズは定番ですよね。
近年では「ご存知ですか 〇〇」や「〇〇をご存知ですか」といったタイトルのサイトや、印刷物も多く見られるようになっています。裁判所配信の動画「ご存知ですか 家事調停」の影響もありそうです。
「ご存知ですか」はいつ何時、誰に対して使ってもよいというものではありません。「ご存知ですか」の意味、言葉の性質などを把握し、適切に使えるようにしましょう。
「ご存知ですか」の意味をチェック!
まず前提として、「ご存知ですか」は敬語表現であることを押さえておく必要があります。言葉の意味だけでなく、性質も把握することが大事ですね。
敬語「ご存知」とは
フレーズ全体を分解するとわかるのですが、「ご存知ですか」は意外と複雑な構造になっています。
まず「ご存知」というのは名詞「存知」に、尊敬の接頭辞「ご」がついたものです。意味は「内容を把握している・承知している」という趣旨ですね。
問題はここからで、目上の相手が内容を承知しているという有様について「ご存知だ」「ご存知である」のように、形容動詞として扱う場合があります。
形容動詞の用法を踏まえ、次の項でフレーズ「ご存知ですか」について考えてみましょう。
「ご存知ですか」の意味は?
「ご存知ですか」とは、目上の相手に対して知見の有無を尋ねる言い回しです。
フレーズ「ご存知だ」「ご存知である」は、形容動詞だと先述しました。形容動詞の用法をベースに、疑問形にするとどうなるでしょうか。
特に相手の立場を意識しなければ、「ご存知か」「ご存知ならば」といった表現になるはずです。
後は敬語表現としての体裁を整え、目上の相手に向けて発言できるフレーズにすればよいということですね。次の節で詳しく解説しましょう。
敬語表現「ご存知ですか」を解説
「ご存知ですか」が敬語表現であることは周知の通り。より詳しく理解するためには、敬語の分類に注目する必要があります。
形容動詞「ご存知だ」についての基礎知識を踏まえ、今度は補助動詞にも目を向けてみましょう。
「ご存知ですか」は尊敬表現
「ご存知ですか」は目上の相手に対して問いかける言い回し。直接声をかける分、失礼のない言い回しを選ぶ必要があります。
「相手が知っているか否か」が論点になるので、主体が相手であることは確定ですね。目上の相手が主体である以上、必然的に謙譲表現・丁寧表現は除外されます。
以上より「ご存知ですか」の敬語分類は、尊敬表現であるということがおわかりいただけるでしょう。
「知っていますか」は「知っている」の丁寧語で疑問形
目上の相手に対する問いかけならば「知っていますか」で間に合うんじゃないか、とお考えかもしれません。
上記の指摘はあながち間違いともいえず、相手が近い関係の先輩や、もしくはアルバイトでの勤務形態であれば確かに問題ないでしょう。
敬語分類の話に戻ると、「知っていますか」は一般形容動詞「知っている」に丁寧の補助動詞「ます」、最後に疑問の助詞「か」を付けたもの。
敬語分類上、「知っていますか」はあくまで丁寧語なのです。
「知っていますか」と「ご存知ですか」の違いは?
「知っていますか」と「ご存知ですか」の一番大きな違いは、敬意の度合いです。
ビジネスシーンなど相手の立場を重んじる場面にお
いて、丁寧語だけを使った応対はNG。また相手が主体となる文脈では、謙譲語を使うわけにはいきません。
必然的に尊敬語を使うことになり、表現としては「ご存知ですか」に落ち着くというわけです。
「ご存知ですか」に対する返答は?
「ご存知ですか」に対する返答の仕方には注意点があります。目上の相手とのやり取りにおける基本を思い出せば、難なく対応できるでしょう。
「ご存知です」の返答はNG
「ご存知ですか」と尋ねられた場合、「ご存知です」とは答えませんよね。多くの方が直感的に判断できるでしょう。
改めて考えてみましょう、どうして「ご存知です」と返事してはいけないのでしょうか。ポイントは敬語を使った問いかけに対する、受け答えの仕方にあります。
先述の通り、「ご存知」は尊敬語です。尊敬語を伴う発言の対象は自分以外に限られるため、自分自身に対して尊敬表現することはあり得ません。
上記の理由から、たとえ自分の方が上の立場という状況であっても、自分自身に敬意を向けた敬語表現をすることはNGなのです。
敬語に対する受け答えについて、経験と感覚で理解している方は多いはず。改めて理論武装しておくとよいでしょう。
「ご存知ですか」と聞かれたら
人から「ご存知ですか」と投げかけられた場合、一般論としてはへりくだった受け答えをするのがベスト。すなわち謙譲表現で返答するのが望ましいといえます。
具体的には「存じております」「承知しております」、否定の場合は「存じません」「存じ上げません」などように、あくまで相手を立てた丁寧なトーンで返答するのがよいでしょう。
ちなみに「ご存知ですか」と聞いてきた相手に対し、丁寧語で「知っています」と返答した場合は、「自分の方が上の立場である」と主張することになります。すなわち敢えて謙譲表現を避けた、と判断されるのです。
敬語の使い方ひとつで人の印象は大きく変わるため、不用意な発言には要注意ですね。
「ご存知ですか」の使い方を例文でチェック!
「ご存知ですか」の意味と敬語表現を踏まえ、実際に使う場面を想定した例文を作ってみましょう。
例文
「課長、IoTってご存知ですか?」
「もちろん、Internet of Thingsの略でしょ」
「さすがですね!でも、Internet of Thingsって何ですか?」
「そりゃ君、あらゆる物がインターネットに接続され…って、上司にクイズを出すんじゃないよ!(笑)」
「すみません、つい!」
「何だい、『つい』って。やれやれ」
例文
「ご存知ですか、36協定」
「突然何を言い出すんだい」
「店長、私に残業させ過ぎですよ!」
「そりゃ、優秀な人に仕事は集まるからねぇ」
「一理ありますけど、私が抜けた時のシナリオも考えてもらわないと」
「うーん、痛いところを突いてくるねぇ…わかった、ちょっと仕事の割り振りを考えてみるよ」
「お願いしますよ、私だってあくまでバイトなんですから」
例文
「御社のブランド名、パートさんが発案されたそうですね!」
「よくご存知で!ありがとうございます」
「実は当社のブランド名も、よく似た由来があるんですよ。ご存知ですか?」
「はい、存じておりますよ。アルバイトから店長に昇進した、気鋭のスタッフによるアイデアだそうですね!」
「ありがとうございます、仰せの通りです。今や当社の看板商品ですよ!」
「ともに、スタッフに恵まれておりますねぇ!」
「ご存知ですか」の類語・言い換え表現を紹介
「ご存知ですか」には類語や言い換えの表現があります。敬語表現に注意し、特にニュアンスが近いものを選出してみましょう。
お聞き及びでしょうか
既に情報をキャッチしているか、という意味合いで「耳に入っていますか」という言い回しがありますよね。敬語表現としては丁寧語に当たるため、そのままでは目上の相手に使えません。
より丁寧に言い換えて、「お聞き及びでしょうか」という表現にすればOK。尊敬表現であり、「ご存知ですか」とほぼ同義のニュアンスを表せます。
ご承知済みでしょうか
上の例と同じく、目上の相手に対して情報を関知しているか否か尋ねる際には、「ご承知済みでしょうか」という言い方も可能です。
注意点として「ご承知済みでしょうか」の場合は、単に「見聞きしたことがあるかどうか」よりも踏み込んだ質問に当たります。すなわち「内容について把握しているか」という度合いの質問であるといえるでしょう。
「ご存知ですか」を英語で表現してみよう
「ご存知ですか」を、シンプルな英語表現に置き換えてみましょう。
“Do you know about~?”
“Do you know about~?”で、「ご存知でしょうか」もしくは「知っていますか」という意味を表せます。
日本語のように敬意の有無は語句によって区別できないので、トーンや口調によって敬意の度合いをコントロールするのがポイントです。
“Have you ever heard of~?”
“Have you ever ~?”のイディオムで「今までに~?」という、過去に関する質問を表します。
イディオムを応用して、“Have you ever heard of~?”は「~について聞いたことがありますか?」もしくは「~をご存知ですか?」という意味を表します。
イディオムの使い方さえつかめば、ほぼ直訳できる英語フレーズですね。
「ご存知ですか」を韓国語で表現してみよう
最後に「ご存知ですか」を韓国語に訳してみましょう。
さして難しくなく、ご存知のフレーズもあるかもしれません。
- 아세요?(アセヨ)
- 아십니까?(アシンミカ)