「わからいでか」のフレーズを単体で見聞きしても、いまひとつピンとこないかもしれません。範囲を広げて「やらいでか」「いかいでか」などの似た言い回しならば、ご存知なのではないでしょうか。
使われる機会こそ少なくなっているものの、「~いでか」「~でか」という言い回しは確かに存在します。
「わからいでか」の意味や使い方がわかれば、時代劇や方言などもいっそう楽しめること請け合い。日本語文化における魅力の一端に迫りましょう。
「わからいでか」の意味と語源
「わからいでか」の意味を直感的に理解すること自体は難しくありませんが、文法的にはやや複雑な構造です。
ポイントは「~いでか」「~でか」の言い回し。果たしてどんな意味なのでしょうか。語源と併せて紹介します。
「わからいでか」の語源は?
「わからいでか」は、元々近畿地方発祥の古語だといわれています。江戸っ子が使うイメージもありますが、時系列としては近畿地方が先。
江戸など近畿以外の地域には交易や人の移住に伴い、時間をかけて浸透していったものと考えられます。
「~いでか」「~でか」は反語表現
「~いでか」「~でか」は、反語の意味を表します。現代語でいえば「~だろうか(そんなはずはない)」という意味。すなわちニュアンスそのものは「~だ」という肯定の表現とイコールです。
文法に基づいて「~いでか」「~でか」を分解すると、下記の構成要素であることがわかります。
- 否定の接続助詞「~いで」もしくは「~で」
- 反語の終助詞「か」
両者を組み合わせれば、反語のフレーズ「~いでか」「~でか」になるというわけですね。
「わからいでか」の意味は?
上記を踏まえ、「わからいでか」を分解すると動詞「わかる」+接続詞「いで」+助詞「か」で成り立っていることがわかります。
すなわち「わからいでか」とは、「わからないはずはない」「わかるに決まっている」という反語のニュアンスを表しているのです。
「わからいでか」の使い方
「わからいでか」を使うポイントとしては、意味そのものよりも反語による語気の強さが挙げられます。
反語表現の特徴は、言葉の持つ元々の意味合いを強調すること。すなわち、敢えてひと捻り加えた表現をするわけです。
具体的な使い方と効果を見ていきましょう。
相手に抗議したいとき
「わからいでか」の言い回しを選ぶケースとしては相手に反発もしくは抗議する用例が挙げられます。
「どうしてわからないんだ」といらだちを示したり、反対に「簡単すぎるよ」といった皮肉っぽい態度を表したりする際に有効です。
笑いをとるために使う
皮肉のニュアンスをさらに強調する表現として、「わからいでか」という発言することにより「あれ、わからないのかい」と嘲るニュアンスを表すこともできます。
喜劇調のおどけるようなトーンで「わからいでか」と発言する場合は、笑いをとるための使い方である場合が多いでしょう。
相手の発言を遮る場合
「わからいでか」のニュアンスは一通りではありません。相手から不要な話や説明がなされる場合、発言を遮る意図で「わからいでか」という使い方もあります。
すなわち「察しなさい」という意味合いで、言外に「言われなくてもわかっているさ」というニュアンスが含まれるのです。
「わからいでか」の派生語
「わからいでか」の基礎知識を踏まえ、派生語にも触れておきましょう。
「わからいでかい」
比較的現代語に近い言い回しとして、「わからいでかい」というフレーズもあります。
要すれば「わからないのかい」という意味合いで、語尾が相手に対する疑問形ということもあり、定型語としても使いやすいフレーズです。
「わからいでもない」
「わからいでもない」とは現代語の「わからないでもない」と同義の言い回し。いわゆる二重否定の表現技法で、結論として「ある程度わかる」という意味を表します。
同じ二重否定でも、「わからいでもない」を選んだ場合は「ない」を2回繰り返さずに済むので、見方によってはスマートな言い回しともいえるかもしれません。
「わからいでか」を使う主な地域
「わからいでか」には地域的な傾向が見られ、必ずしも全国的に使われているわけではありません。「わからいでか」を使う割合の多い、主な地域を紹介します。
近畿・関西地方
「わからいでか」は大阪弁、との意見もありますが、近畿地方の古語というのが有力な説。
従って大阪弁もしくは関西弁とは断定できませんし、必ずしも方言だとは限りません。関西在住の方でも、「わからいでか」を聞いたり使ったりした経験がないというケースはしばしばです。
「わからいでか」を使う割合は年配層、特に男性が多いとされています。
東京の下町
現代でも東京の下町で「わからいでか」が使われる例があります。いわゆる江戸っ子が発する言葉で、「何を言ってやがるんだ」を略したフレーズ「てやんでぇ」などと同列の扱いというわけです。
「わからいでか」が近畿地方発祥の古語だというのは、先述の通り。一方で江戸っ子が使いだした略語が由来、という説も根強く残っています。
せっかちで気風の良い言葉を好む江戸っ子が何かの拍子に「わからいでか」と言い出したと考えると、あながち的外れな説ともいえないですね。
「わからいでか」を使った例文3選
基礎知識を踏まえ、「わからいでか」を文章形式で運用してみましょう。
「『わからいでか』って、どんな意味かわかる?」
「うーん、わからないなぁ。『わからないでか』じゃないの?」
「いや、ちょっと古い言葉で『わからいでか』という言い回しがあるんだよ。正解は『わからないわけがあるか』という意味さ」
「もう、ややこしいなぁ。つまり反語なのか」
「そういうこと!ちゃんとわかってるじゃないの」
「わからいでか!ってね。ふむ、勉強になったよ」
「漫画で『わからないでか』ってセリフがあったんだけど、変じゃない?」
「おっ、いいね。どの辺が変だと思う?」
「『知らいでか』とか『やらいでか』あたりの言い回しと同じ理屈だと思うから…『わからいでか』が正解かな」
「ご名答!結局自己解決したね」
「この数式難しい!」
「わからいでか!諦めずにやってみなさい」
「でもー」
「やれやれ、今度はやらいでかだな。まずはね、自分で解けるところと、解けないところを区別するんだ。自分でも解けそうな箇所はあるでしょ?」
「うん、確かに…ええと、カッコの中の計算は優先して済ませるんだよね」
「よし、そうだ。そうやって順番に片付けてみなさい」
「あれ、なんか解けそうだ…できた!」
「それみたことか」
「本当だ、わからいでか&やらいでかだね。ありがとう!」
「~いでか」を使った言葉を紹介!
語尾が「~いでか」のフレーズはいくつかあり、中には「わからいでか」よりも浸透している語句も。代表的なものを紹介します。
「やらいでか」
「やらいでか」とは「やらないわけがあるか」「やらずにおれるか」といった意味合い。反語表現であることを踏まえ、実行への強い意思を表す言葉です。
語感が良いので現代語としても比較的使われやすく、特にゲームや演劇などにおいてはしばしば登場する言い回しといえるでしょう。
「知らいでか」
「知らいでか」とは「知らないわけがない」「もちろん知っている」というニュアンス。「わからいでか」と比べると知見の有無に直接関わるため、発言者自身の抗議や反発を表す意味合いが強調される言い回しです。
「行かいでか」
「行かいでか」とは、「行かないわけがない」「もちろん行く」という意味。人の行動・アクションに関わることから、「やらいでか」と同程度に使われることが多い言い回しです。
まとめ
「わからいでか」を正しく理解しないまま使うと、意味の通じない言葉になってしまいます。元々が変則的な言い回しである分、聞く側としても誤用されるとニュアンスを汲み取るのが困難です。
文法的な構造がわからなくとも、パターンや理屈を把握できれば自ずと意味も掴めるもの。類語や例文で紹介したように、「やらいでか」や「行かいでか」など同系統のフレーズと対比させるのも有効でしょう。
「わからいでか」は古語としてスタートしていますが、現代語としても十分に通用する言葉です。突然使われてもスムーズに対応できるよう、当記事をお役立てください。