「嬉しく思う」という表現がありますよね。嬉しく思う気持ちを相手に伝える場合は、差し障りのないように「嬉しく思います」と言うのが一般的でしょう。
「嬉しく存じます」は、嬉しく思う気持ちを目上の相手に伝える時に使うフレーズです。大事な点は上記に尽きるのですが、ビジネスでの使い方や類語については馴染みのない方もいるのでは。
大事なタイミングで「嬉しく存じます」を的確に使いこなせれば、話の格調も高まるというもの。是非マスターし、使いこなせるようにしていきましょう。
「嬉しく存じます」の意味・構造を解説!
フレーズ「嬉しく存じます」の意味自体は決して難しくありません。
むしろ大事なのは敬語表現としての構造を把握したり、使う意義を正しく理解したりといった本質の部分です。以上を踏まえ、まずは敬語表現に注目して分析していきましょう。
「嬉しく思います」の敬語表現
「嬉しく存じます」は、「嬉しく思います」の敬語表現。前半部「嬉しく」は共通なので、ポイントは後半部「存じます」にあるということですね。
「存じます」については次の項で解説します。
「思う」の謙譲語「存じます」
「存じます」は「思う」の謙譲語。「思う」といっても思考や考察ではなく、所感や感動といった心情を伴うニュアンスが該当します。日本語の難しいところですね。
謙譲語を使う必要があるのは、目上の相手にへりくだった姿勢を表す場合。従って「存じます」と発言する行為には、目上の相手に自分の所感や感動を伝える意味合いがあるのです。
「嬉しく存じ上げます」は誤り
「嬉しく存じ上げます」という表現は正しくありません。「存じ上げる」は、「知っている」という知見・見聞の意を表す謙譲語です。
一般動詞に戻してみると一目瞭然で、そもそも「嬉しく知っています」という表現は存在しませんよね。「嬉しく思います」の謙譲表現は、やはり「嬉しく存じます」以外あり得ません。
ちなみに「嬉しいです」も誤った表現です。敬語表現を外してみると「嬉しいだ」「嬉しいである」といった、本来存在しない言い回しがベースになっていることが窺えます。
いずれも滅多にない誤用例であるものの、間違いを見つけた際にはどの点がどのようにおかしいのかを理解し、説明できるようにしておくとよいでしょう。
「嬉しく存じます」の使い方は?
「嬉しく存じます」は謙譲表現だと先述しました。目上の相手に対するフレーズということで、使用するシーンは自ずと絞られます。
「嬉しく存じます」の意味や性質を踏まえた上で、使うべき場面・タイミングなどをチェックしてみましょう。
自分もしくは身内の吉事や喜びごと
自分や身内の周囲で起きためでたいことについて喜ぶ様を、目上の相手に説明する際にはへりくだって伝えるべき。
いかに喜ばしいことでも、目上の相手に対して感情そのままに「嬉しい」「嬉しく思います」と伝えてはいけません。やはり相手との上下関係を踏み越えることなく、敬意を適切に表する必要があります。
他者の吉事や喜びごとを、自分も喜んでいる様
上司や取引先など、自分と関わりのある目上の相手にめでたい出来事があった場合には、自分も喜んでいる旨を伝えるべき。
目上の人物が対象であることがわかっているので、平常通りにへりくだった姿勢で喜びの意を伝えれば問題ありません。
「嬉しく存じます」の類語を紹介
「嬉しく存じます」は丁寧な謙譲語ですが、よりいっそう格調高い言い回しもあります。
改まった場面で使うのに相応しいフレーズを2つ紹介しましょう。
光栄に存じます
名誉や誉れに思う様を「光栄」と表現します。目上の相手に対して、光栄に思う様をへりくだって伝える際には「光栄に存じます」という言い方をするのが妥当です。
ちなみに「光栄に」という活用形が適用されるのは、形容動詞「光栄だ」が原型だから。
「嬉しい」「嬉しく」が形容詞であるのに対し、「光栄だ」「光栄に」という形容動詞が使われているという点で、文法的には少し難度の高いフレーズといえるでしょう。
幸甚に存じます
「光栄」よりもさらに難しい言葉で「幸甚」という熟語があります。文字通り「はなはだ幸せ」という意味で、最大級の喜びを表します。
「幸甚に存じます」というフレーズは、目上の相手に対して「これ以上なく幸せな思いである」という旨を伝える表現。
言う側にとっても、言われる側にとっても敷居の高い言葉なので、よほどのことでない限り敢えて使う必要はありません。
要すれば人生の転機に関わるような、大きな吉事に触れた時こそ「幸甚に存じます」と発言するに相応しいでしょう。
ビジネスで「嬉しく存じます」を使うには?例文付きで解説!
ビジネスシーンでは「嬉しく存じます」をそのまま使ってよい場面と、少し表現を変えた方がよい場面とに分けられます。
直属の上司など、目上でも距離の近い間柄であれば「嬉しく存じます」と伝えても問題ないでしょう。一方で役員層や顧客、取引先などといったやや距離の遠い関係の相手に対しては、もう少し堅い表現を選ぶのが適切です。
先の節で紹介した類語も参考にしながら、「嬉しく存じます」を使った例文をいくつか考えてみましょう。
大変嬉しく存じます
「嬉しく存じます」だけだとやや軽い、という場合は一言加えて「大変嬉しく存じます」と表現するとよいでしょう。
「大変」とは「ひとかたならず」「非常に」といった意味合いの副詞。たかが副詞と侮るなかれ、後続の語句やフレーズのトーンを引き締める効果があります。
以上を踏まえ「大変嬉しく存じます」は、やや距離の遠い相手に対して使う分にも問題のない表現といえるでしょう。
光栄に存じます
類語・言い換え表現の節で紹介したフレーズ「光栄に存じます」は、顧客や取引先といった距離の遠い相手に対して使うのに相応しい表現です。
顧客や取引先との関係が特別なものである、ということを伝える意味でも、平易な言葉は避けるべき。
「光栄」という表現を選ぶ行為は、自分にとって特別な存在であることを相手にアピールする意味も含まれるのです。
感謝いたします
直属の上司や先輩など、目上であっても近い距離の相手に対しては「嬉しく存じます」だとやや堅苦しい印象を与えてしまいます。
代替表現として、丁寧語の「感謝いたします」で問題ない場合がほとんどです。
敬語表現の運用上、敬意の度合いが強すぎるとかえって相手に気を遣わせてしまう場合があることも覚えておきましょう。
「嬉しく存じます」を英語で表現しよう
言語文化の違いにより、敬語表現をそのまま英語に変換することはできません。特に謙譲語のニュアンスは困難です。
上記を踏まえ、英語表現の中から「嬉しく存じます」に近い言い回しを考えてみましょう。
“I’m glad to hear that~”
英語教材でも紹介されるイディオム“I’m glad to hear that~”は「~と聞いて、嬉しく思います」という意味合い。
自分自身の出来事ではなく、他者の話を聞いて嬉しく思う気持ちを表現する言い回しですね。
例文
“I’m glad to hear that he got married.”
(彼が結婚したと聞き、嬉しく思います)
“Thanks for saying that~”
相手の発言に感謝の意を表す際には“Thanks for saying that~”と表現します。「~と言ってくれてありがとう」という意味合いで、第三者ではなく、直接話をする相手に対してかける言葉です。
例文
“Thanks for saying that I am innocent.”
(私の身が潔白だと言ってくれて、嬉しく思います)
“feel happy about~”
“feel happy about~”で、「~について嬉しく思う」という意味を表します。ほぼ直訳で意味をつかめることもあり、日本人にも親しみやすいフレーズといえるでしょう。
例文
“I feel happy about comeback of Shohei Ohtani.”
(大谷翔平選手の復帰を嬉しく思います)
まとめ
日常生活において「嬉しく思います」ということはあっても、謙譲表現で「嬉しく存じます」と発言することは多くないもの。一方ビジネスシーンにおいては、比較的使われることの多い表現です。
ビジネスで特に気を付けなければならないのが上下関係。すなわち、敬語表現を適切に使えるか否かというのは死活問題といえます。
紹介してきたように、いかに丁寧な言い回しといえども「嬉しく存じます」一本で乗り切ることはできません。なぜなら目上の相手というのも様々であり、関係の成熟度や距離感によって表現を変える必要があるからです。
当記事を通じて「嬉しく存じます」の使い方、および関連知識のブラッシュアップに役立ててみてください。