「顔を出す」はユニークな日本語です。参加や出席の意味もあれば、挨拶に訪れるという意味もあります。
英語表現にも“show one’s face”というイディオムがありますが、基本的には文字通りの意味。やはり日本語表現ならではの「顔を出す」という用法を理解する必要があるでしょう。
「顔を出す」という表現には場面に応じた注意点もあります。類似表現なども含めて、詳細を確認していきましょう。
「顔を出す」の尊敬語や謙譲語とは?目上の方に伝えたい場合
「顔を出す」は一般用語であり、ビジネスなど公の場面には不向き。
シーンに合わせて適切な表現に言い換える必要があります。
目上の相手に「顔を出す」のニュアンスを伝えるにはどうすればよいでしょうか。
敬語表現も含めて紹介します。
「顔を出す」は正しい敬語・謙譲語ではない
まず押さえておかねばならない点として、「顔を出す」は敬語ではありません。尊敬語でも、謙譲語でもないのです。
比較的近いニュアンスの謙譲語に「お見えになる」というものがあるため、敬語のイメージを引っ張られている人もいらっしゃるかもしれませんね。
「顔を出す」と「お見えになる」は全く無関係であり、区別する必要があります。
特に初対面の方には使用を控えるべき
「顔を出す」は、ある程度馴染みの深い相手に対して使う言葉です。目上の相手、特に初対面の方に使うのは避けましょう。
「顔を出す」は俗語というわけではありませんが、位置づけとしては口語に近いもの。友人同士で「また今度顔を出すよ」というくらいの、ごく軽いやり取りに使われるフレーズだと覚えておくべきです。
「顔を出す」の直接的な敬語はない!ビジネスシーンでは他の表現に置き換えが必要
「顔を出す」は独特の言い回しで、ピッタリと当てはまる敬語表現が存在しません。
ビジネスシーンで「顔を出す」のニュアンスを表したい場合は、別の言葉に言い換える必要があります。
相手に「顔を出す」ことをお願い・依頼したい時の適切な表現方法を例文でチェック
ビジネスシーンで「顔を出す」ことをお願いしたい相手といえば、同じ職場の人物ではありませんよね。
普段は顔を合わせず、なかなか会えないから「顔を出す」という表現になるわけです。
対象として顧客や取引先、他事業所の社員などをイメージしながら、「顔を出す」を丁寧にお願いする言い回しを考えてみましょう。
「お越しください」
顔を出してください、とは「来てください」という意味ですよね。
「来てください」を尊敬表現にすると「お越しください」という言い方になります。
「いらしてください」
滞在するという意味で「居る」という表現があります。居るの尊敬語が「いらっしゃる」です。
顔を出し、滞在してほしいという意味で「いらっしゃってください」という尊敬表現も可能です。
現実には「いらっしゃってください」という言い方はほとんどされておらず、少し変化させた「いらしてください」という言い回しが定着しています。もちろん敬語表現としても問題ありません。
「お立ち寄りください」
場所に立ち寄る、という意味の敬語表現で「お立ち寄りください」も有効な言い回しです。
「お越しください」と並んでよく使われる表現で、外来のお客さんを見送る言葉として人気があります。
「足をお運びください」
来る・訪れるというニュアンスを遠回しに表現した、日本語らしいフレーズが「足を運ぶ」。
足を動かし、移動してやってくるという意味が込められています。より丁寧な言い回しが「足をお運びください」というわけですね。
自分が「顔を出す」時の適切な表現方法を例文でチェック
今度は第三者ではなく、自分が「顔を出す」際に用いるべき言い方を考えてみましょう。
自分が主体になるということは、「顔を出す」をへりくだった形で表現しなければなりません。「顔を出す」のニュアンスを謙譲表現すると、果たしてどのような言い回しになるのでしょうか。
「伺わせていただきます」「お伺いしたく存じます」
訪問する・訪ねるというニュアンスを謙譲表現すると、「伺う」という言葉になります。
会話文としては「伺います」でも構いませんが「伺わせていただきます」「お伺いしたく存じます」のように、自分の意向を謙譲表現で付け加える表現が一般的といえます。
「お邪魔させていただきます」
訪問する・訪ねる行為を、「お邪魔する」と表すのも丁寧な言い方です。
「お邪魔する」だけでは丁寧語に留まるため、自分がへりくだって行う意味を込めて「させていただきます」という謙譲表現を組み合わせるとよいでしょう。
「お邪魔する」と「させていただきます」を合わせて、「お邪魔させていただきます」というフレーズの完成です。
よりシンプルな言い方としては「お邪魔いたします」というものもありますが、丁寧語+丁寧語の組み合わせなので謙譲表現は含まれません。フレーズごとの性質の違いを把握しておくとよいでしょう。
どうしても「顔」という表現を使いたいなら?
「顔を出す」が使えなくとも、「顔」を使った敬語表現はないものでしょうか。
「顔」にこだわるならば、次の2つの言い回しが有効です。
「お顔をお見せください」
目上の相手に対して「顔を出してください」はNGですが、「お顔をお見せください」であれば問題ありません。
「顔」と「見せる」にそれぞれ尊敬語が付いており、シンプルながらも効果的な敬語表現といえます。
例えば、飲食店で愛想のいい年配主人がお客さんを見送る際に「またお出ましください」と声をかける場合がありますよね。
イメージとしてはよく似たニュアンスで、特にへりくだるわけでもなくさっぱりした印象を得られます。シンプルで親しみやすい言い回しといえるでしょう。
「お顔を拝見しに伺います」
自分が相手先に出向く際の、もう少し格式ばった言い回しとしては「お顔を拝見しに伺います」というものがあります。
例えば時代劇などで、「御方様のご尊顔を拝見するべく~」といった台詞が聞かれますよね。
ニュアンスとしては同じで、相手の顔にこだわった尊敬表現としては最上級であり、やや芝居がかった言い回しです。
よほど別格の相手でもない限り「お顔を拝見しに伺います」を積極的に使う必要はありませんが、相手の「顔」を軸とした敬語表現の1つとして覚えておくとよいでしょう。
ビジネスやメールで使える「顔を出す」の英語表現とは?
日本語における「顔を出す」と同じニュアンスを、英語で表現してみましょう。
「顔を出す」が持つ、複数の意味用法に対応して紹介します。
・say hello:挨拶する
“I will say hello to her.”
(彼女に会って挨拶するつもりだ)
・attend:出席する
“I am supposed to attend the meeting.”
(会合に出席する予定だ)
・visit:訪問する
“She often visits her grandfather.”
(彼女はたびたび祖父の元を訪れる)
辞書で引いてみた慣用句「顔を出す」の意味を解説
「顔を出す」は、いわゆる慣用句に分類されます。ユニークな語句であるがゆえに、単語ひとつで言い換えるのは困難。
そこで「顔を出す」の意味を、辞書に基づき文章ベースで解説していきます。
隠れていたものが現れる
「顔を出す」には「隠れていたものが現れる」という意味があります。
英語でいえば”appear”に相当し、姿を現すということですね。「お日様が顔を出す」のように、状況を客観的に描写する際に使われる言い回しです。
会合や集会などに出席する
「会合や集会などに出席する」という意味でも「顔を出す」は使われます。
注意点として、会合や集会を取り仕切るような責任ある立場の人は「顔を出す」という表現をしないもの。「会合や集会などに顔を出す」という言い方をするということは、当事者や中心人物ではないとも読み取れます。
すなわち「顔を出す」は、会合や集会を運営する側からすれば日和見的な言葉です。身内同士では積極的に使わない方がよいでしょう。
人の家を訪ねる
人の家を訪ねることを「顔を出す」と表現する場合があります。「訪問し、顔を合わせて挨拶する」といった意味合いと同義です。
ビジネスシーンとは異なり、友人など距離の近い相手に対してプライベートで「顔を出す」という言い方をする分には失礼には当たりません。
「顔を出す」と「顔を見せる」はどう違う?意味と使い分け方
「顔を見せる」の類語に「顔を見せる」というものがあります。
「顔を見せる」とは近しい関係であるものの、普段なかなか会えない相手に対して主に使う言葉。すなわち自分の顔を見ることによって喜んでもらえる、という関係性が前提となるわけですね。
例えば遠方に住む親戚を思い浮かべればわかりやすいはず。普段は会えないけれども、きっと自分の顔を見たいと思っていることでしょう。
自分の顔を見たいと思ってくれている相手に対し、会って顔を見せることが「顔を見せる」という意味なのです。
他人の現況などを話題にする際に使用?「顔を出す」の反対語を解説
「顔を出す」には反対語もあります。「顔を出さない」でも意味は通じますが、元々ある複数の意味に合わせた反対語を解説しましょう。
「姿をくらます」
「現れる」という意味の反対語として、「姿をくらます」が挙げられます。
「顔をくらます」という言い回しはありませんので、顔を見せずに隠れるという意味から「姿をくらます」という表現が当てはまるでしょう。
「欠席する」
集会や会合に顔を出さないということは、「欠席する」と言い換えられます。
例えば同窓会や飲み会といった席で、他人の現況を話題にする時「あいつは最近顔を出さないな」などといった言い回しは定番ですよね。
顔を出さないということは、「欠席する」もしくは「欠席している」ということです。