お詫びやお礼の際、「お手間を取らせてしまい」という一言が挿入されることがしばしばありますよね。
いわゆるクッション言葉の1つであり、仮に「お手間を取らせてしまい」がなくとも文章は成り立つ場合がほとんどです。
なくてもよいのによく使われるとは、裏を返すと「便利で役に立つ」ということ。
なぜ「お手間を取らせてしまい」が重宝するのか、意味や用法を踏まえてチェックしていきましょう。
「お手間を取らせてしまい」の意味
最初に「お手間を取らせてしまい」の意味を確認しましょう。
敬語表現にとらわれず、原型の「手間を取らせる」というニュアンスを把握すればよさそうですね。
時間や労力を割いてもらう
そもそも「手間を取らせる」とは、「時間や労力を割いてもらう」という意味。
言い換えれば自分は動かず、他人にアクションしてもらうということです。
「お手間を取らせてしまい」とは、他人に行動してもらった事実に対して感謝したり、申し訳なく思ったりする気持ちを表したフレーズだということがわかりますね。
「手間をかける」との違い
「手間を取らせる」と似た言葉として「手間をかける」というものが挙げられますが、同義語ではありません。
「手間をかける」は自分自身に対して使うフレーズで、自らが主体となって労力を使い、時間を割くというニュアンスを含みます。
「手間暇をかける」「手塩にかける」などと同じ理屈ですね。
他人に手間を取らせるという意味であれば、「手間をかける」ではなく「手数をかける」というのが適切です。
「お手間を取らせてしまい」の使い方
「お手間を取らせてしまい」の意味を踏まえ、どのような時に使うのかを考えてみましょう。
普段身の回りで聞かれる場面を思い浮かべれば、自然にイメージできるはずです。
お詫び・感謝の気持ちを表す
人に対してお詫びや感謝の気持ちを表す際、「お手間を取らせてしまい」というフレーズから話し始めるのは定番のアプローチ。
クッション言葉であるにもかかわらず効果は高く、「お手間を取らせてしまい」という一言があるだけで相手は気を良くし、見返りを求めることなく話が終わる場合も珍しくないのです。
お願いや頼み事をする場合
相手に対してお願いや頼み事をする目的で、「お手間を取らせてしまい」と切り出すのも有効な手立てです。
前触れなくいきなり用件だけを伝えられると、気分を害する人も少なくないもの。聞く側とすればこちらの都合を考えず、一方的に仕事を押し付けられたような気持ちになるのも無理はありません。
「お手間を取らせてしまい申し訳ないのですが」とクッション言葉を添えて切り出されれば、「これから用事を依頼されるんだな」という気構えができやすいはず。
クッション言葉を上手に使えるかどうかは、人を動かす能力とも高い関係性があります。適切な言葉使いはマネジメント能力に関わる大事な要素でもあるのです。
目上の相手に対する言い方は?
「お手間を取らせてしまい」だけでも丁寧な言い回しですが、目上の相手に対して敬意を表しつつ、お願いやお詫びの意をも伝えるという上級テクニックがあります。
テクニックのポイントは謙譲表現を織り交ぜること。「お手間を取らせてしまい申し訳ないのですが」もしくは「お手間を取らせてしまい、恐縮です」のようなへりくだる姿勢を表す一言があると、受ける側としても悪い気はしないものです。
受ける相手としては「そんなに恐縮しているなら、一肌脱いでやろう」という気にもなるでしょう。
目上の相手に対する敬語表現のポイントは、場面と内容に応じて謙譲表現を正しく使いこなせるか否か。「お手間を取らせてしまい」の場合も例外ではないのです。
「お手間を取らせてしまい」を使ったフレーズ
「お手間を取らせてしまい」と組み合わせて使われるフレーズのうち、代表的なものを2つ紹介します。
先の節で紹介した謙譲表現とも関係するので、しっかり押さえておきましょう。
「お手間を取らせてしまい申し訳ありません」
目上の相手に対し、時間を取らせてしまうことについてお詫びする気持ちを表すには「お手間を取らせてしまい申し訳ありません」の一言が有効です。
非常に丁寧な言い回しなので堅苦しい響きもありますが、例えば重大なミスや手落ちなどの言い訳できない理由により、上司・先輩に尻ぬぐいしてもらう場合などには最大限のお詫びをすべきですよね。
使わずに済むのに越したことはありませんが、目上の相手を頼らなければならないピンチの時には「お手間を取らせてしまい申し訳ありません」のフレーズを言えるようにしておくべきでしょう。
「お手間を取らせてしまい恐縮ですが」
取引先や上司といった、目上の相手に時間や労力を割いてもらうことを恐れ入る・恐縮する旨を伝えるには、「お手間を取らせてしまい恐縮ですが」と述べるのがセオリー。
ミスや手落ちがなければ特に謝罪する必要はない、という考え方には一理あるでしょう。一方で目上の相手を動かし、自分の代わりにアクションしてもらうことについては誠意を伝えたいですよね。
上記のような場合は「申し訳ありません」ではなく、「恐縮ですが」という方が相応しいでしょう。すなわち「お手間を取らせてしまい恐縮ですが」の言い回しを選ぶべきだといえます。
ビジネスで使われる「お手間を取らせてしまい」の例
「お手間を取らせてしまい」が使われる場面の中でも、ビジネスシーンに注目してみましょう。
ビジネスとはいえ、意外とカジュアルに使われている場合もあるものです。
対話における「お手間を取らせてしまい」
先述の通り、「お手間を取らせてしまい」は主にお詫びや感謝の気持ちを表すフレーズ。
とかく重々しくなりがちなイメージの言葉ですが、立ち回りの上手い人はサラッと使いこなすことも珍しくありません。
場面や状況によって、言い方やトーンを変えてみるのも工夫の一つですね。
例文
「先輩、お手間を取らせてしまいすみません!」
「あんまり反省してないでしょ(笑)でもまぁ、いつも仕事を早く片付けてくれるからね。人より働いてる分、多少のミスも出てくるかもな。」
「やった、さっすが先輩!」
メールにおける「お手間を取らせてしまい」
対面や電話での口頭による会話と比べ、メールや手紙といった文面での「お手間を取らせてしまい」はやや硬い目の使い方が必要です。
ドレスコードを弁えつつ、へりくだり過ぎたり恐縮し過ぎたりしないよう、文章全体のトーンをコントロールするのがセンスの見せどころですね。
例文
来月より出勤・退勤については店舗PCを利用し、Webページ上で各自報告する仕様に変更いたします。急なシステム変更により皆様にはお手間を取らせてしまい恐縮ですが、何卒ご了承のほどお願いいたします。
「お手間を取らせてしまい」の言い換え表現
「お手間を取らせてしまい」のニュアンスは、別の言葉で言い換えることも可能です。言い換え表現をする際にはニュアンスと敬意の対象、ともに変化させないよう注意する必要があります。
以上を踏まえ、代表的なフレーズを4つ紹介しましょう。
「お手数をおかけしてしまい」
記事の前半で「手数をかける」というフレーズを紹介しました。
目上の相手に対して「お手間を取らせてしまい」と同じように「手数をかける」を使う場合、「お手数をおかけしてしまい」という表現になります。
敬語表現上、接頭語「お」と動詞「~する」の組み合わせは謙譲語であるというのがポイント。「お借りする」「お受けする」などの謙譲表現と同じ扱いというわけですね。
「お手を煩わせてしまい」
「手間を取らせる」と同義の言葉に「手を煩わせる」というものがありますよね。
手を煩わせる対象が目上の相手である場合、「お手数をおかけしてしまい」と同じニュアンスで表現すると「お手を煩わせてしまい」という言い回しになります。
敬語表現としての「お手を煩わせてしまい」はシンプルな構成で、対象者の「手」を尊敬語の「お手」に入れ替えるのみ。これだけでも立派な尊敬表現になるのです。
「ご面倒をおかけしてしまい」
「ご面倒をおかけしてしまい」の文章構造は類語「お手数をおかけしてしまい」とほぼ同じ。
接頭語「ご」と、と動詞「~する」の組み合わせによる「ご面倒をおかけする」という謙譲表現がポイントです。
「ご足労をおかけしてしまい」
「ご足労をおかけしてしまい」とは目上の相手に対して、自らの足で移動してもらったことをお詫びする、もしくは感謝する気持ちを表すフレーズです。
自分の指定した場所に足を運んでもらうシチュエーションが多く、例えばパーティーや株主総会などの場面が該当します。
「お手間を取らせてしまい」の英語表現
最後に「お手間を取らせてしまい」を英語で言い換えてみましょう。シンプルな2つのイディオムを使えば容易です。
“cause A inconvenience”
“cause A inconvenience”は、「Aさんに不便をかける」という意味のイディオム。日本語の「手間を取らせる」とは少しニュアンスが変わりますが、「面倒をかける」くらいの意味合いだと考えれば理解しやすいでしょう。
例文
“I’m afraid to cause you inconvenience.”
(あなたに面倒をかけてしまうのではないかと、心配しています)
“be sorry to have troubled A”
“be sorry to have troubled A”とは「Aさんに迷惑をかけたことを申し訳なく思う」「Aさんに手数をかけてしまい、すまなく思う」といった意味。
日本語における敬語表現のようなニュアンスが含まれるかどうかは、口調やトーンに左右される場合が多いといえます。従って英文を読むだけでは判別しづらいことも覚えておくとよいでしょう。
例文
“I’m terribly sorry to have troubled her.”
(彼女に迷惑をかけてしまったことを、非常に申し訳なく思っています)