思わしくない内容の印象を和らげる、いわゆるクッション言葉として「不便をおかけしますが」は外せないフレーズの一つでしょう。
他人と接しながら仕事をする立場にある人にとって、「不便をおかけしますが」は必須の言い回しです。
意味や用法だけでなく、使うべき場面や英語表現なども併せて身につけましょう。
「ご不便をおかけしますが」の意味とは?日本語として正しい?
「ご不便をおかけしますが」は、いくつかの要素で構成されたフレーズ。まずは「不便をかける」という動詞を理解する必要があるでしょう。
「不便をかける」ことを前提として、相手にことわりを入れる言い回しだと考えれば決して難解ではありません。
「不便をかける」は正しい日本語表現
そもそも「不便をかける」という表現は、日本語として正しいのでしょうか。答えはイエスで、迷惑をかける・苦労をかけるなどと同様に、適正な日本語として昔から存在する言い回しです。
上述の疑問や違和感の原因は「かける」という語句にあるのではないでしょうか。次の項で「かける」についても解説します。
「不便をかける」の「かける」の意味
「かける」には本質的にネガティブなニュアンスが含まれています。特に抽象的なものが対象の場合は顕著で、「不便をかける」のほか「迷惑をかける」や「苦労をかける」、「面倒をかける」などの例を見れば明らかですね。
他人に対して「かける」という言葉を使う場合は、おしなべて好ましくない影響を及ぼすものと考えればよいでしょう。
「不便をかける」は「好ましくないことを及ぼす」ということ
「不便をかける」とは、ごく簡単にいえば「好ましくないことを及ぼす」ということです。他人に対して「かける」という言葉を使う場合は、ネガティブな意味であると述べました。
「不便」は「便利」の反対語。従って「不便をかける」という言い方は成立しても、「便利をかける」という表現は存在しないのです。
以上を踏まえて「不便をかける」の意味を表すと、相手に対して「全く便利ではない、便利から程遠い状況をもたらす」ということですね。
「ご不便をおかけする」も正しい敬語
決まり文句「ご不便をおかけしますが」が敬語表現として正しいかどうかを判別するためには、まず「ご不便をおかけする」という言い回しを分析する必要があります。
「ご不便」は「不便」の敬語。「ご不便」とは相手にとっての不便なので、「不便」に尊敬の接頭語「ご」を付けたものだと解釈できるはずです。
問題は後半の「おかけする」で、敬語の分類上何に当てはまるかわかりづらいですよね。
フレーズ「ご不便をおかけする」における「おかけする」は、謙譲の敬語表現。「お借りする」「お受けする」などの例でも明らかなように、動詞の主体が自分である前提で「お~する」という場合は謙譲語に当たります。
以上を踏まえると、「ご不便をおかけする」および「ご不便をおかけしますが」ともに、敬語として正しい表現であることがわかりますね。
「ご不便をおかけしますが」は、どんな時に使うの?
日常生活やビジネスシーンにおいて、フレーズ「ご不便をおかけしますが」を見たり聞いたりするのはどんな時でしょうか。
ある程度場面が限られていることに気づくはずです。
予備知識を踏まえた上で、「不便をおかけしますが」を使うべき状況を考えてみましょう。
使うべき場面やタイミング
「ご不便をおかけしますが」というべき場面やタイミングは、他人に不便をかけることが避けられない状況にある時です。
社会人のマナーとして、他人に不利益を与えることは極力避けなければなりません。
万一不利益を与えてしまうことが判明した場合は対象者に影響を説明し、被害や不便に伴う混乱を最小限に抑える必要があるでしょう。
「ご不便をおかけしますが」の扱いについても、同じ理屈が当てはまるというわけです。
ちなみに不便をかける対象が明らかで、相手に直接連絡できる場合はメールもしくは電話を使って連絡し、状況を説明するべき。
特に緊急性の高い内容であれば、迷わず電話連絡するのがスマートでしょう。
不手際などに対するお詫びや謝罪
「不便をおかけしますが」は、お詫びや謝罪の言葉と組み合わせる用例が主でしょう。
お詫びや謝罪の言葉を単発で投げかけるよりも、やはり「不便をおかけしますが」と前置きする方が好印象につながります。
ポイントとして、逆説の助詞「が」で言葉を結ぶ点に注目すべき。仮に「ご不便をおかけします」のみだと、ただ謝意を伝える内容で終わりますよね。
一方「ご不便をおかけしますが」という場合は、続けて「何卒ご了承願います」「ご理解のほどお願いします」などのように、追加でお願いの意志を伝える文章につなぎやすくなります。
「ご不便をおかけしますが」とは、単なる謝罪表現に留まらないということですね。
不便をかける理由も明記するのがマナー
「ご不便をおかけしますが」とことわる際、不便が生じている理由や経緯についても明記する方がよいでしょう。
無理からぬ理由がある場合は人々も納得してくれるはず。天変地異などは典型例で、時として避けがたいトラブルも起こってしまうものです。
ちなみに、不便をかける理由や経緯については簡潔にまとめるのが大事。説明が冗長な場合は言い訳がましい印象を与え、かえって逆効果になってしまいます。
「ご不便をおかけしますが」を組み合わせたフレーズを紹介!
基礎知識を踏まえ、「ご不便をおかけしますが」を文章に組み込んで運用してみましょう。
ご不便をおかけしますがご容赦くださいませ
不便をかけることをことわり、許しを請う言い回しが「ご不便をおかけしますがご容赦くださいませ」というフレーズです。
「容赦」とは許す・受容するという意味。「ご不便をおかけしますがご容赦くださいませ」とは、簡単にいえば「不便をかけることを許してほしい」というニュアンスを丁寧に表現したものというわけですね。
ご不便をおかけしますがご了承のほどお願い申し上げます
許しを請うのでなく、不便をかけてしまうことを理解してほしいと訴える言い回しが「ご不便をおかけしますがご了承のほどお願い申し上げます」というフレーズ。
「ご容赦くださいませ」はどちらかといえば話し言葉のニュアンスが強く、特に書面に記す際には不向きな表現です。
一方「ご了承のほどお願い申し上げます」の場合は話し言葉・書き言葉いずれにも使えますし、「申し上げる」という謙譲表現を用いることでいっそうかしこまった印象を与えます。
上記を踏まえ、企業など社会的な立場のある主体が対外的に告知するような場合には、「ご不便をおかけしますがご了承のほどお願い申し上げます」という表現を選ぶことが多いといえるでしょう。
「ご不便をおかけしますが」を使ったシーン別の例文4選
先述の通り「ご不便をおかけしますが」を使う機会は、お詫びの場面だけとは限りません。
「ご不便をおかけしますが」を使って、場面別に例文を考えてみましょう。
不便についてお詫びする場面の例文
日常生活の中で「ご不便をおかけしますが」というフレーズに触れるとすれば、お店の営業時間や営業日の変更が一番多いのではないでしょうか。特に臨時休業などは代表的で、予告なく休みと知らされた時はショックですよね。相手のショックを和らげる意味でも、やはり一言おことわりするのがマナーといえます。
例文
コロナウイルス感染防止の一環として、営業時間を短縮しております。ご不便をおかけしますが、何卒ご了承のほどお願い申し上げます。
不便について説明し理解を求める場面の例文
お店での買い物のほかにも、Webサービスのメンテナンスや道路工事などに遭遇することがあるでしょう。
メンテナンスや工事の主体が不便について説明し、理解を求める場合にも「ご不便をおかけしますが」は有効です。
例文
毎週日曜日4:00am~7:00amの間、システムメンテナンスのためサービスをご利用いただけません。ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
不便が解消された旨を説明する場面
既に不便が解消された状況であっても、不便が生じた事実、もしくは経緯や理由を説明しなければならない場合があるものです。
例えば工場で停電が生じ、生産ラインが半日ストップしたという状況を想定しましょう。
仮にラインのストップ期間が半日のみで翌日からの操業は問題なかったとしても、ストップしていた時間帯に生産する予定だった製品には当然遅延が生じています。
納期の遅れによって迷惑を被る取引先には、やはり状況説明とお詫びが必要でしょう。
問題の発生と顛末の報告、さらに再発防止への取り組みまで網羅すれば好印象を得られるはずです。
例文
去る5月12日、当社工場にて停電が発生しました。当日中に復旧したものの、生産ラインの一時停止に伴って製品の納入に遅延が生じております。弊社の不手際でご不便をおかけしており大変恐縮ですが、納品まで今しばらくお待ちいただけますようお願い申し上げます。
不便をかけることをお詫びしつつ、何かを依頼する場面
不便をかけることについてお詫びするとともに、状況や理由の説明をしつつ、併せて何かをお願いするのも有効な手立てです。
例えば不便が生じている理由が人手や物資の不足によるものであれば、お詫びと併せて人々に協力を仰ぐという方法も考えられるでしょう。
例文
コロナウイルスの影響により、当院ではマスクが不足しています。患者の皆様をはじめ関係各位にはご不便をおかけしますが、もしも手元にマスクの余剰がございましたらご提供いただけますようお願い申し上げます。
「ご不便」の類語、言い換え表現とは?
相手ありきの状況で不都合をもたらすものは、「ご不便」以外にもあるはずですよね。
「ご不便」の類語や言い換え表現についても把握しておきましょう。
ご迷惑
便利・不便の概念に当てはまらなくとも、相手に不利益を与える内容であれば「迷惑」に該当します。
迷惑について相手に話したり説明したりする場合は、相手にとっての迷惑であることに鑑みて「ご迷惑」という尊敬表現をするべきです。
お手数
物事が円滑に進まず、必要以上の作業や行程を要する様を「手数がかかる」といいますよね。
「手数」とはいわゆる作業や行程のことで、「手数がかかる」の場合は本来不要な手数が生じているという意味も含まれます。
ちまみに対象が相手の場合は「手数をかける」であり、より丁寧に表現する場合は「お手数をおかけする」が妥当です。
「ご不便」と同様、「お手数」という場合は相手ありきの状況であり、なおかつ相手にとって好ましくない行動をとらせるニュアンスがあるという点に注意が必要でしょう。
ご面倒
手数と似た言葉として「面倒」も挙げられます。
「面倒」とは積極的に取り組みたくないような物事や事象のこと。
相手に面倒をかけてしまう場合の言い方として、「ご不便をおかけしますが」と同様に「ご面倒をおかけしますが」という表現も一般的です。
差し支え
「差し支え」とは「支障」や「問題」のこと。
物事がスムーズに進むことを妨げるものを指し、簡単にいえば「つっかえるもの」です。
紹介してきた類語とは異なり「差し支え」は「~をかける」という使い方ができませんが、物事が正常に進まない様を表すという意味では「不便」や「ご不便」と同じといえるでしょう。
「ご不便をおかけしますが」を英語で表現してみよう
最後に「ご不便をおかけしますが」を英語に翻訳してみましょう。
英訳で大事なのは一言一句正確に変換するのではなく、ニュアンスを的確に伝えること。
類語や言い換え表現を参考にしながら訳すのがポイントです。
「ご不便」は英語でいうと”inconvenience”
「ご不便」に当たる英単語は”inconvenience”(不便)で、“convenience”の対義語です。
“convenience”とは「便利」「利便性」という意味。コンビニ(コンビニエンスストア)の語源であることからもおわかりですね。
単語のレベルでは特に敬語か否かを気にする必要はなく、「不便」をストレートに”inconvenience”と訳せばOKです。
お詫びの定型表現は”Apologize for any inconvenience.”
誰かに不便をかけるかどでお詫びする際には、”Apologize for any inconvenience.”という定型表現があります。
便利・不便という概念が共通であるように、不便をかけることをお詫びするという文化は英語圏でも根付いているのです。
お詫びの後にお礼の言葉で結ぶとスマート
英語表現では不便をかけることをお詫びし、最後にお礼の言葉を添えるのがスマート。
例えば ”Thank you for your understanding.””Thank you for your cooperation..”などが代表的な結び方です。
以上の基礎知識を踏まえ、簡単な英訳文を作ると下記の通りになります。
”We apologize for any inconvenience this may cause. Thank you for your cooperation..”
(ご不便をおかけしますが、ご理解のほどお願いいたします)
便利・不便の概念と、他人に不便をかけることに対するお詫びの意識は文明の度合いとも関係があります。
英語圏であっても、不便に関する考え方は日本語圏と同じといえるでしょう。