難度高の敬語「賜ります」を徹底解説!「承ります」との違いを理解しよう!

ネット上を中心に「賜ります」の誤用例がしばしば見受けられます。中でも多いのが「承ります」との混同です。

敬語と付き合うには、語句の原型を理解することが大事。単に活用形から遡って「賜る」に戻すだけでも、随分シンプルになるものです。

敬語分類と品詞、そして性質に注目しながら、「賜ります」を分析してみましょう。

この記事の内容

「賜ります」の意味や性質を解説!

「賜ります」の意味について、単語ベースで機械的にチェックするだけでは理解にまで至りません。

語句の意味に加えて、敬語分類や性質まで踏み込む必要があります。順を追って見ていきましょう。

「賜る」の意味は「もらう」と「与える」

「賜ります」はフレーズであり、敬語「賜る」の活用形+補助動詞「ます」で構成されています。最初に単語「賜る」を分析しましょう。

「賜る」の原型は、一般動詞「もらう」と「与える」の2種類に分けられます。「もらう」という意味合いで「賜る」を捉える場合は、自らがへりくだる姿勢を表すため謙譲語です。

一方、「与える」のニュアンスで「賜る」という場合、目上の人物が目下の相手に与える・施す様を客観的に表現することから、尊敬語に該当します。

敬意の対象だけでは敬語分類を判別しづらい場合は、発言者の視点が主観もしくは客観のどちらであるかを見極めるとよいでしょう。

「賜ります」の敬語分類を解説

「賜ります」は複数の敬語分類が組み合わさった、連続敬語という表現技法に基づくフレーズです。

先述の通り「賜る」は敬語分類上、謙譲語と尊敬語の2種類に分けられます。後続の「ます」は丁寧の補助動詞です。

従って「賜る」の敬語分類が謙譲語・尊敬語どちらであっても、補助動詞「ます」の敬語分類は重複しません。

以上より、「賜ります」は異なる敬語分類を組み合わせた連続敬語であり、二重敬語には該当しないのです。

「賜ります」の送り仮名は「賜わります」も許容される

2020年現在、「賜る」の送り仮名を「賜わる」と表記することが認容されています。同様に「賜ります」を「賜わります」と表記するのもOKです。

他の例でいえば「行う」と「行なう」のように、送り仮名の運用にはある程度の許容範囲が存在することも覚えておくとよいでしょう。

「承ります」との違いは?

「賜ります」のフレーズを扱う上で、避けて通れないのが「承ります」との混同。ともに敬語であることからも、ネット上の文章では理解不十分なまま混同・誤用されている事例が散見されます。

「承ります」とはどんな意味の敬語なのか、敬語分類も含めて把握しておきましょう。

「承ります」は「受け容れる」「受ける・聞く」の謙譲語

フレーズ「承ります」は謙譲の動詞「承る」+丁寧の補助動詞「ます」で構成されています。

「承る」は一般動詞「受け容れる」「受ける・聞く」の謙譲語です。熟語「承知」に置き換えれば、よりいっそうわかりやすいでしょう。

誤用が多いのは謙譲語としての「賜ります」

「賜ります」には謙譲語の意味がある、と先述しました。「承ります」と「賜ります」を混同する事例は、主として謙譲語としての用法・文脈が多いのです。

混同の理由として、謙譲語の主体が自分自身であることが挙げられます。「自らがへりくだる」という性質に注目するあまり、語句の意味を正しく理解せずに誤用してしまうというわけです。

「賜ります」と「承ります」とで、音の響きが似ているのも誤用の一因。意味や性質を理解することなく、語句の表面だけを捉えようとすると、やはり取り違えてしまうでしょう。

「賜ります」の使い方と例文

「賜ります」の意味・性質を踏まえ、次は使い方に踏み込んでみましょう。

「賜ります」はビジネス文書などで使われる

「賜ります」は改まった調子のフレーズ。ビジネスなど、対人関係において敬意を表するシーンで使われる場合が多いでしょう。

謙譲語、尊敬語の2パターンがあることを踏まえ、それぞれ例文付きで解説します。

「もらう」の謙譲語としての「賜ります」

「もらう」の謙譲語、すなわち「頂く・頂戴する」の同義語として「賜ります」と表現する用法があります。

「もらう」と聞くと物々交換をイメージしがちですが、協力や助力といった目に見えないものも対象です。

特にビジネス文書の場合、第三者から力添えをもらうという意味合いで「賜りたく」や「賜わりますよう」といった言い回しをする事例が多く見られます。

例文

新型コロナウイルス対策の一環として、店内に間仕切りを設置することにいたしました。皆様にはご不便をおかけしますが、何卒ご理解賜りますよう、お願い申し上げます。


「与える」の尊敬語としての「賜ります」

目上の人物が主体となって、目下の相手に与える・授ける様を「賜わる」と表現します。

おしなべて格式の高い語句であり、目上の相手といっても、自社の上司などの身内に対しては使われません。

尊敬語としてのフレーズ「賜わります」が使われる場面は、ある程度限られます。皇族や顧客など、自分から見て身分の高い人物が主体となるケースを想定するのが妥当でしょう。

例文

皇太子殿下が、ご挨拶を賜わります。


「賜ります」の類語

先述の通り、「賜ります」には敬語分類によって2つの用法があります。謙譲語・尊敬語それぞれの類語をチェックしておきましょう。

謙譲語「賜ります」の類語は「頂きます」

「もらう」の謙譲語としての「賜ります」は、「頂きます」と言い換え可能です。注意点として、「いただきます」ではなく「頂きます」と表記する必要があります。

読みこそ同じであるものの、「いただきます」の表記は補助動詞としての用法に適合します。反対に、「頂きます」と表記するのは動詞としての用法に限られ、補助動詞の場合は適合しません。

「賜ります」を言い換える上での注意点なので、しっかり押さえておきましょう。

「頂戴します」

「目上の相手からもらう」という行為を補助動詞「いただく」と区別するならば、「頂く」よりも「頂戴する」と表記する方がいっそう明確になります。

目上の相手と対話する場合は丁寧に表現する必要があるので、丁寧の補助動詞を付けて「頂戴します」と受け答えしましょう。

名刺交換の場面など、相手から渡されたものを受け取る際に「頂戴します」と一言添えると、スマートで美しい印象を与えることができます。

「授けられます」

尊敬語としての「賜ります」の代わりに使えるのが「授けられます」という表現です。「授与」に関するフレーズと解釈すればわかりやすいでしょう。

例として、大相撲の千秋楽においては優勝力士に対し、天皇陛下が部下を通じてトロフィーを授けるという文化があります(時勢によっては行なわれない場合あり)。

いわゆる「天皇賜杯」であり、レポーターなどが行う状況描写としては「天皇陛下が、優勝杯を賜ります」という表現が当てはまるでしょう。

上記の内容を実際に報道する際、わかりやすさを重視する場合は「天皇陛下が、優勝杯を授けられます」と表現しても問題ありません。

「授けられます」と尊敬表現する場合は、行為の主体が位の高い人物で、目下の相手に何かを授与する場面が当てはまるということですね。

まとめ

「賜ります」は敬語の中でも難しい部類のフレーズ。そもそも「賜る」だけでも2種類の用法がある上に、丁寧の補助動詞「ます」が付くという点で対人の要素が含まれるからです。

現実的にいって、「賜ります」を尊敬語として使う場面は限られるでしょう。位の高い人物が目下の相手にものを渡す様を、第三者として描写・解説する機会というものは多くありません。必然的にレポーターや解説者の役回りに落ち着きます。

ビジネスシーンで多くやり取りされるのは、やはり謙譲語としての「賜ります」。というのも自分がへりくだり、相手を立てる態度を示すのはビジネスにおける基本だからですね。

謙譲語としての「賜ります」は「承ります」と混同されがち。他人の誤用を指摘するにも、単語ベースでの意味を述べるだけでは違いを説明しきれません。主体も同じ、敬語分類も同じ。果たして何が違うかと聞かれたら、性質の違いを説明するしかないのです。

機械的に暗記するだけでは、言葉の性質を理解することができません。「賜わります」は、日本語および敬語表現に対する理解の度合いを試されるフレーズの1つだといえるでしょう。

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