普段なかなか会えない相手や多忙な人に対して、時間を割いてもらったことにお礼をいうことがありますよね。ビジネスはもちろん面接や会合といった、相手ありきの場面が当てはまります。
時間を割いてもらったことに対するお礼の言葉として定番のフレーズが、「貴重なお時間をいただきましてありがとうございます」でしょう。
いわゆる定型文の一つになっていることもあり、特に内容について疑問を感じたことがない方もいるのでは。
「貴重なお時間をいただききましてありがとうございます」という定型文について、意味や性質を改めて考えてみましょう。
「貴重なお時間をいただきましてありがとうございます」は正しい敬語表現?
はじめに「貴重なお時間をいただきましてありがとうございます」という文章が、敬語表現として適切であるかを確認しましょう。
一般的に定着しているフレーズにも、実は誤りが潜んでいるというケースは少なくありません。
フレーズを分解して敬語解釈をみてみよう
フレーズ「貴重なお時間をいただきまして」を分解すると、次のようになります。
- 貴重な:形容動詞
- お時間:名詞「時間」の尊敬
- を:助詞
- いただき:動詞「もらう」の謙譲語、連用形
- まし:丁寧の助動詞「ます」の連用
- て:助詞
ポイントは尊敬と謙譲の敬語表現が含まれる2箇所でしょう。順番に解説していきます。
「お時間」にかかる「お」とは、相手の「時間」に対して敬意を表す言い回しです。時間を相手の「財産」とみなすとわかりやすいでしょう。すなわち自分のために、貴重な財産を使ってもらったと考えればOK。
相手が敬意を払うべき対象であるならば、必然的に相手の財産である「時間」に対しても尊敬表現するべきだということですね。
「いただき」とは、もらうの謙譲語である「いただく」の連用形。すなわち、「もらう」という行為をへりくだって表現した言葉です。
相手の財産に対して尊敬を表す「お時間」、相手から時間をもらう行為について謙譲を示す「いただく」と表現しており、相手を敬う姿勢が一貫しています。
「貴重なお時間をいただきまして」というトータルの文章でチェックしても、非常に丁寧な言い回しで問題ありません。
ちなみに、「ありがとうございます」の部分についてはおなじみですよね。お礼の意を伝える、とても丁寧な言葉であることは言うまでもないでしょう。
意味は「時間をもらいありがとう」「時間を捻出してくれてありがとう」
フレーズの分解によって明らかになったように、「貴重なお時間をいただきましてありがとうございます」の大意は「時間をもらいありがとう」もしくは「時間を捻出してくれてありがとう」というものです。
言葉の大意をつかむには、上記のように一旦敬語表現を含まない、ニュートラルな文章にするのが手っ取り早いでしょう。
メールや電話で頻出「貴重なお時間を」の使い方をシーン別に例文でチェック
対面でのコミュニケーションを行わない場合、メールや電話に頼ることになります。
顔を合わせない分、文面に失礼のないように気を遣うもの。相手に敬意を表し、感謝の意も伝えるには「貴重なお時間を」という言い回しが欠かせません。
ビジネスシーンにおける「貴重なお時間を」について、場面ごとの用例を想定してみましょう。
アポイントで使う「貴重なお時間をいただき」
取引先との商談にはアポイントがつきもの。アポイントなしで突然訪問する行為は、時として相手側の都合を無視した失礼な振る舞いだとみなされます。
商談を行う際には事前にアポイントを得て、時間を割いてもらうことに対し「貴重なお時間をいただきまして~」と謝意を伝えるのがマナーといえるでしょう。
謝罪・お詫びで使う「貴重なお時間をいただき」
相手の時間を無駄にしてしまったことを詫びる際にも「貴重なお時間をいただき」という表現は有効です。
例えば電話で商品の在庫確認を受けたとしましょう。電話口では「店頭在庫あり」と回答したものの、実は担当者が別の商品と勘違いしていた場合を想定します。
果たしてどのようなことが起こるでしょうか。電話をかけたお客さんは、目当ての商品を楽しみにお店へやってきますよね。
ところがフタを開けると、電話で在庫確認したはずの商品がないと言われる始末。お客さんとしてはとんだ無駄足になってしまいます。
上記例のように敬意を払うべき相手の時間を、自分の不手際で無駄にしてしまった時には最大限の誠意を見せる言い方で謝罪・お詫びするのが礼儀。
ただ単にミスを詫びるだけでなく「貴重なお時間を無駄にしてしまい、大変申し訳ありなせん」という具合に、相手の財産である時間を浪費させたことにも触れる必要があるでしょう。
面談・打合せ後に使う「貴重なお時間をいただき」
面談や打合わせの後に、クロージングやお別れの挨拶として「貴重なお時間をいただき」と発言する用例もあります。
面談や打合わせの後に「貴重なお時間をいただき」という場合は相手方が時間を割き、面談や打ち合わせをセッティングしてくれたことに対してお礼の意を伝えるニュアンス。すなわち面談や打合せの成果とは別に、そもそも自分のために時間をとってくれたことに対して謝意を伝えるということです。
「貴重なお時間をいただきましてありがとうございます」と定型文をなぞるだけでも、十分に誠意を表すことができるでしょう。
ビジネス必須のお礼や感謝の言葉「貴重なお時間をいただき~」に続く様々なフレーズ
「貴重なお時間を」は、お詫びにもお礼にも使える便利な言葉です。
先の節では感謝の意を表す用例を2つ紹介しました。応用編として、「貴重なお時間をいただき~」に続くお礼や感謝のフレーズをまとめて紹介します。
「貴重なお時間をいただき恐れ入ります」
「貴重なお時間をいただき恐れ入ります」を使うタイミングは、商談や面談などの初めがよいでしょう。
時間をとってもらったことについて恐縮している心情を表すとともに、「せっかく割いていただいた時間を有意義に共有したい」という意志を伝えることにもつながります。
「貴重なお時間をいただき恐縮です」
「貴重なお時間をいただき恐縮です」は「貴重なお時間をいただき恐れ入ります」とほぼ同義である一方、言葉の響きには若干の違いがあります。
接客業における一般的な決まり文句の一つとして、「恐れ入ります」というものが定番ですよね。
「恐縮です」とは言わないことにお気づきでしょうか。
「恐縮」とは、身が縮むほどに恐れ入るという意味。「恐れ入ります」よりも「恐縮です」の方が、より強い畏敬を示す表現なのです。
簡単にいえば、「恐縮です」はやや硬い表現だということですね。厳格な相手や最大限の敬意を表すべき相手に対して「貴重なお時間をいただき恐縮です」という言い方をするのがよいでしょう。
「貴重なお時間をいただき申し訳ありません」
普段会うことがままならず、時間を割いてもらうこと自体が困難な相手と、何かの縁で話し合う可能性も無視できません。メディアで取り上げられるような著名人が代表格でしょう。
秒単位でスケジュールをこなす人の時間をもらうことに対し、申し訳ないという気持ちを抱くもの。
気持ちをストレートに表現すれば、「貴重なお時間をいただき申し訳ありません」という言い回しが浮かんでくるはずです。
注意点として、「申し訳ありません」とは非を認め謝る言葉。必要以上に謝ると、かえって気を悪くする人もいるものです。相手と状況に合わせて言葉遣いを考えるのも大事ですね。
「貴重なお時間を割いていただきありがとうございます」
「貴重なお時間を割いていただきありがとうございます」は、「貴重なお時間をいただきましてありがとうございます」とよく似たフレーズですよね。
違いは「お時間を割いていただき」と「お時間をいただき」という点。実はそれぞれ、動詞の主体が異なります。
「お時間を割いていただき」の場合、時間を割くのは相手の方。一方「お時間をいただき」の場合、時間をもらう(いただく)のは自分の方ということです。
フレーズ全体のメッセージそのものは同質ですが、動作の主体を見失わないように注意する方がよいでしょう。特に定型文を暗記しただけの場合、敬意の対象があやふやになりがちです。
ビジネスで使える打合せやアポイントの言葉「お時間を頂く」の丁寧・敬語表現
「いただく」ではなく「頂く」と表記する場合、「頂戴する」という意味を表します。
「頂戴する」とは動詞「もらう」の謙譲表現ですね。「頂く」を上手に使えば、先述の「お時間を割いていただく」との区別もしやすくなります。
以上の予備知識を踏まえ、「お時間を頂く」の丁寧・敬語表現を考えてみましょう。
「お時間を頂ければと存じます」
「お時間を頂ければと存じます」とは、端的にいえば「時間をもらいたいと思っている」という意味。より丁寧に相手を敬って表現すると、まず相手の財産である「時間」に対しては尊敬の「お時間」と表します。
一方「もらう」と「思う」という、自分の行為についてはへりくだって謙譲表現しているという構成ですね。
「お時間を頂ければ幸いです」
「できれば時間をもらいたい、もしも時間をもらえるなら嬉しい」というニュアンスを丁寧に言い表す時は「お時間を頂ければ幸いです」というフレーズが妥当です。
元々の若干長い文章を簡潔にまとめる意味でも、スマートな敬語表現といえます。
「お時間を頂戴する」
「お時間を頂戴する」は「お時間を頂く」と同義で、相手の時間をもらうという意味の敬語表現です。
「頂く」を発音すると「いただく」であり、耳で聴いただけでは補助動詞の「いただく」なのか、それとも動詞としての「頂く」なのかを判別しづらいもの。
一方「頂戴する」と発音する場合は音の響きで競合する言葉がないため、動詞であることが明快に伝わります。
発音による混乱を避けたい場合は、「お時間を頂く」ではなく「お時間を頂戴する」という言い方を選ぶのも有効でしょう。
「お時間をいただけますでしょうか?」
「お時間をいただけますでしょうか?」という質問形式の言い回しは、相手の都合を慮る気遣いが感じられるため好印象につながります。
質問される側とすればYES・NOを選択できるため、仮に都合が悪い場合は申し出を断ったとしても全く問題ありません。
特にインタビューのように、アポイントなしで突然相手の時間をもらう場合は最大限の配慮が必要です。
相手の意思を確認する必要があり、同意を得ようとする場合には「お時間をいただけますでしょうか?」という問いかけをするのが妥当でしょう。
「できれば」の敬語表現とは?
「できれば」は、はっきりとした主張をせず、他の言葉と組み合わせて使われるため、柔らかい表現で伝わりやすい表現です。そのため、比較的使いやすい言葉です。
今回は、この敬語表現「できれば」の使い方の考え方を詳しく探っていきます。
表現の構造、様々な敬語での使われ方、会話での使い分けなどを見ていきましょう。
敬語表現
敬語とは、丁寧さや敬意を表す言葉やフレーズを指します。日本語では、「可能であれば」が敬語表現になります。
このフレーズは、何かを成し遂げたり、何かを得たりするための要求として使われます。
「できれば、今夜映画を見に行きたいのですが」
この表現は、依頼を丁寧で尊敬に満ちたものにするために使われます。
敬語表現「可能であれば」の使い方
「可能であれば」という敬語表現は、さまざまな場面で使うことができます。
丁寧な言葉遣いで、相手に何かを依頼するときや、より一般的な依頼の一部として使われることが多くなります。
また、より年上の人や高齢の人と話すときにも使うことができます。
「可能であれば、この件についてあなたの助言をお願いしたいのですが」
これは、相手に意見を求める丁寧な表現です。この表現は、丁寧な会話を終えるときにも使えます。
「可能であれば、連絡を取り合いたいのですが」
「貴重なお時間をいただきありがとうございます」をビジネスメールで使用するときの注意点
「貴重なお時間をいただきありがとうございます」は、一種の定型文だと述べました。メールの挨拶文としても定着していますよね。
注意すべき点として、定型文によるお礼のみのメールを送ってはいけないということが挙げられます。
「貴重なお時間をいただきありがとうございます」と書き出す場合はお礼が過去形ではないことから、商談・面談などのアポイントが決まったタイミングと判断できますね。
せっかく相手方にメールを送るのですから、商談や面談の日時に関する念押しと、話し合うべき論点・内容を簡潔にまとめて網羅するとよいでしょう。
ビジネスメールは単なる社交辞令のツールではありません。
互いの時間を有効に使い、双方にとって実のある商談・面談にするための仕込み材料として有効活用するべきですね。
外資や国際企業とのビジネスメールで使う「貴重なお時間を」の英語表現をチェック
時間を自分のために使ってもらうことは感謝すべき行為として、普遍的なもの。
日本語の「貴重なお時間を」と同じニュアンスで、相手に感謝する言い回しは英語にも存在します。一例を紹介しましょう。
・“Thank you for sparing your time for me.”
(時間を割いてくれてありがとう)
・“Thank you for making time for me.”
(時間を作ってくれてありがとう
最後に注意点を1つ。
日本語の「貴重な時間」を直訳して、“precious time”と表現するのは控える方がよいでしょう。
英語圏で“precious time”というと、嫌みや皮肉の意味合いが含まれます。「あなたの時間は、さぞ貴重で~」というニュアンスで伝わってしまうわけですね。
日本語表現では感謝の対象として「相手の時間」に重きを置く一方、英語表現では「相手の行為」に重きを置きます。
厚く感謝の意を伝える場合は、“Thank you very much for taking time for me.”くらいの表現が適切といえるでしょう。