仮定に基づく問いかけの言葉として、「ございましたら」というフレーズがあります。例えば「ご質問などございましたら、お声がけください」などの言い回しが代表的ですよね。
問いかけの内容を仮定するということは、前もって予想し準備することも必要。
「ございましたら」は便利である一方、安易に使うと相手のリアクションに対応できず、ボロを出してしまう可能性もあります。
「ございましたら」は相手ありきのフレーズ。「ございましたら」の意味と使い方を理解し、つまづきなくスムーズなやり取りに活用できるようにしましょう。
「ございましたら」の意味と使い方
「ございましたら」はビジネス寄りの言葉であり、日常会話では常用しません。
誤用を避けるためにも、まずは意味と用法を確認しておきましょう。
「ございましたら」の意味
「ございましたら」とは「もしもあるようでしたら」「仮におありならば」などと同義であり、相手の疑問や意向を汲みとろうとする、問いかけと心遣いを表す言葉です。
「ございましたら」のポイントは、仮定に基づいて相手の意志を読み取ろうとすること。従って「ございましたら」は単純な疑問の投げかけではなく、相手の意向に沿ったアクションを行うための布石でもあるのです。
「ございましたら」は丁寧の敬語表現
「ございましたら」は「ありましたら」「あるならば」という趣旨の問いかけを丁寧に表した敬語です。
「ある」とは「有る」もしくは「在る」という、物や人の所在を示す動詞。「ある」の丁寧語が「ございます」であり、「ございましたら」は「ございます」の連用形+助動詞「たら」という形に当たります。
「ございましたら」は一見すると尊敬語のように思われますが、分類上丁寧語である点を押さえておきましょう。
「ございましたら」の使い方
「ございましたら」は相手に投げかける言葉なので、対人の場面が前提になります。
例えば顧客がお店の中で商品を手に取ったり、陳列コーナーの前で悩んでいたりといった様子が窺える場合は、当該商品に興味があると予測できますよね。
「ございましたら」は状況を踏まえ、相手の意向に沿うための一言として使うべきです。
上記の例であれば「ご質問がございましたらお申し付けください」といったように、顧客の疑問や悩みを解決するべく役立ちたいという姿勢を表すのがポイント。
接客やサービスの一環として、顧客にさりげない一言をかけるのは基本中の基本。
一言かける言葉として「ございましたら」が選ばれることが多いのも、顧客の意向を汲み、課題を解決するのに役立つからという理由によるところが大きいのです。
「ございましたら」は自分にも使える?
「ございましたら」は対人で使う言葉。自分に対して「ございましたら」という発言はできません。
心の内で自問自答する分には構いませんが、それでも自分に対して敬語を使うことは不適切ですよね。
「ございましたら」はあくまで他人ありきの状況で、かつ目上の相手に対して使うフレーズだと覚えておきましょう。
「ございましたら」と組み合わせて使う定番のフレーズ
「ございましたら」の意味、使い方についてはおおよそ掴んでいただけたでしょう。
今度は「ございましたら」につなげて用いられることの多い、定番のフレーズを例文付きで紹介します。
ございましたらご連絡ください
「ございましたらご連絡ください」というフレーズは製品や商品の説明書、もしくはアンケート用紙などに見られることの多い文言です。
話し言葉でも使える表現ですが、どちらかといえば頻繁に顔を合わせてやり取りする関係よりも、少し距離をとった間柄が連想されるでしょう。
例えば商品の故障・不具合などが生じ、品質面での欠陥が疑われるような場合を想定すると「利用上の不都合など、お気づきの点がございましたらご連絡ください」といった文言を記載するのが妥当と考えられます。
会社関係のやり取りであれば、取引先や顧客に対するサービスの一環として行われるクレーム対応やアフターサービスなどが挙げられるでしょう。
例文
品質には万全を期しておりますが、万一不具合などがございましたら、お手数ですがカスタマーセンターまでご連絡ください。
ございましたらお申し付けください
「ございましたらお申し付けください」は、主に接客サービスの分野で使われるフレーズです。「申しつける」とは「言いつける」の謙譲語であり、直接口頭でやり取りする状況が前提。書き言葉には不向きという点も押さえておきましょう。
例文
「何かご不明な点がございましたら、遠慮なくお申し付けください」
ございましたらご教示ください
「ございましたらご教示ください」とは、主に知見やノウハウなどの教えを請う際に使う表現。相手側に知見やノウハウなどがあるようならば、是非伝授して欲しいというお願い・依頼の決まり文句です。
例文
プログラム言語について学びたいと思っています。もし貴セクションに経験やノウハウがございましたら、是非ともご教示ください。
「ございましたら」は質問する時にも便利!
「ございましたら」は問いかけにおける定番のフレーズ。
人に質問する時はもちろん、会話やファーストコンタクトのきっかけとしても役立ちます。
用例を見てみましょう。
質問事項や不明点
接客やサービスにおいて、「ご質問などございましたらお声がけください」や「ご不明な点がございましたらお知らせください」などのフレーズは相手からの質問や発言を促す際に有効です。
発言の内容自体は「何かご質問はございませんか」「ご不明な点はございませんか」とほぼ同義ですよね。
しかし「ございましたら~」という仮定のフレーズが入ることにより、「知らせる」や「声をかける」といった次のアクションをイメージしやすくなる効果が期待できます。
例文
「お探しの品がございましたら、近くにいる担当者にお声がけください」
時間やスケジュール
時間やスケジュールについて、相手との調整や確認が必要な場合にも「ございましたら」は有用。例えば仕事の上でアポイントメントを取り付ける際には、相手の都合を聞く必要がありますよね。
日程を絞り込むための問いかけとして、「ご都合の良い日がございましたら」という聞き方をするのはごく自然な流れでしょう。
特にメールで時間やスケジュール調整のやり取りをする場合は第一希望・第二希望など、複数の候補を挙げるのがおすすめ。
社内外を問わず相手の負担を考え、極力少ないラリーで済ませられるようにするのがビジネスメールのセオリーでもあります。
例文
決算報告と融資額変更の提案を兼ねてご挨拶に伺いたいのですが、ご都合のよい日時がございましたらお知らせ願います。
類似表現との違いをチェック
「ございましたら」は敬語であり、やや固い目の表現。「ございましたら」と似た意味で、トーンの異なる言い回しも存在します。
代表的なフレーズ2つを紹介しましょう。
「ございましたら」と「おありでしたら」の違い
「ございましたら」と同義の言い回しと考えられているフレーズに、「おありでしたら」というものがあります。実は「おありでしたら」は誤った敬語表現です。
先述した通り「ある」の丁寧語は「ございます」であり、「おある」「おありだ」などという敬語は存在しません。従って「おありでしたらという敬語表現は誤りで、いわゆるバイト敬語の誤用例と考えるべきでしょう。
「ある」という状態について「ございます」「ございましたら」という固い言い回しを避けたいのであれば、次の項で紹介する「ありましたら」という表現を選ぶのが妥当です。
ちなみに誤用例として紹介した「おありでしたら」で表現しようとするニュアンスをカバーできるものは、尊敬表現の「お持ちでしたら」というフレーズ。相手が何かを「持っている」という状況と、「相手は目上の立場である」という2点をクリアしていますよね。
「ある」と「持っている」とでは主体が異なり、敬語表現する場合においても敬意の対象が違います。ビジネスマナーの上でも大事な点なので、併せて覚えておきましょう。
「ございましたら」と「ありましたら」の違い
「ございましたら」よりも少しくだけた言い方が「ありましたら」です。「ある」という部分の表現が敬語でなく一般動詞なので、「ございましたら」と比べて堅苦しさが和らぎます。
ちなみに「ありましたら」も、「あれば」「あったら」などと比べれば丁寧な表現。
なぜなら丁寧の助動詞「ます」が利いており、「ある」という一般動詞を丁寧に補助しているからです。
何気ない言い回しにも、実は細かな敬意が計算されている点に目を向けられればしめたもの。敬語表現のコツをマスターできる日も近いはずです。
まとめ
「ございましたら」は話し言葉としても、書き言葉としても使える便利なフレーズ。中でも使われる割合が高く、効果の大きいものは相手に直接問いかける用法です。
例として接客・サービスを繰り返し取り上げたのも、上記の理由によります。
言葉のエッセンスそのものは同じでも、言い方ひとつで相手に与える印象が変わるのが言語の奥深さ。交渉や調整においても表現方法を工夫し、アプローチするのは立派な戦略の一つなのです。
もちろん、むやみに丁寧な敬語を使えばよいというわけではありません。相手との距離感や状況に応じて、適切に表現を使い分けるのが大事ですね。