発言によって他者を援助したり、仲を取り持ったりすることを「口添え」といいます。
ニュース報道などで取り沙汰されることの多い「口利き」とよく似ているものの、本質的には異なる内容です。
当記事では「口添え」「口利き」の違いを解説するとともに、「口添え」の意味・使い方・組み合わせフレーズなどを詳しく紹介します。ぜひご一読ください。
「口添え」の意味は?
「口添え」とは、言葉を添えて物事がうまくいくよう取りなすことです。
交渉・話し合いにおいて使われる場合が多く、難航した状況を打開するきっかけになることも珍しくありません。
「助言」とは異なり、人と人との間に立って発言するところがポイント。実際には双方の主張を橋渡ししたり、利害を調整したりといった行動を伴う場合もあります。
「口添え」の使い方を紹介!
「口添え」の意味を踏まえ、どのように使うのかを考えましょう。具体的には自分が主体となって口添えする場合と、第三者に口添えしてもらう場合に分かれます。
自らの発言によって援助する際に使う
自分が主体となって口添えする場合は、第三者の立場を後押しする使い方が該当します。
例えば意見が対立して折り合いが付かない場面で、自分が正しいと思う側の支持を表明すれば「口添え」です。
注意点として、「口添え」とみなされるのは状況を動かす決定的なきっかけを作った場合が一般的。
自分の発言が決定打にならない場合の多くは、あくまで「支持・賛成・同調」に留まります。
有力者に援助してもらう場合に使う
ビジネスや政治において、自分1人では交渉が難航すると予測される場合には、有力者に助けを求めることがしばしばです。
上記のように、有力者の発言を介して仲立ち・仲裁してもらうことを「口添えしてもらう・口添えいただく」などと表現します。
実際に交渉のテーブルには着いていなくとも、有力者が口添えで残した言質によって結論が左右されることは珍しくないのです。
「口添え」と「口利き」の違いは?
「口添え」と取り違えられることが少なくないのが「口利き」です。
特に近年では、メディアが政治上の不正を報じる中で「口利き疑惑」と表現する場面もしばしば。
誤認・誤用を避けるためにも、「口添え」と「口利き」の違いを理解しておきましょう。
「口利き」の意味は「仲裁」「調停」「斡旋」
「口利き」の意味は「仲裁・調停・斡旋」であり、「口添え」よりも踏み込んだ介入のニュアンスを伴います。
「口添え」の場合、基本的には口を出して仲立ちをすることに留まるもの。一方「口利き」の場合は話を取りまとめ、状況を統括するまでの踏み込んだアクションを示します。
「口利き」には不正のイメージも
「口添え」と比べると介入の度合いが強いのは確かであるものの、本来「口利き」の語句そのものに不正の意味はありません。
残念ながら有力政治家による、いわゆる「口利き疑惑」が報じられるようになって以来、「口利き」にはネガティブなイメージが先行するようになってしまいました。
上記の経緯により、現在「口利き」というと、あたかも元締め・ブローカーのような立ち回りをする意味合いで使われることがしばしばです。
「口添え」を使った組み合わせフレーズを紹介!
以下では、「口添え」と組み合わせて使われる主なフレーズを4つ紹介します。
「口添えする」「口を添える」
「口添え」を動詞形で活用する場合は「口添えする」もしくは「口を添える」と表現します。「口添える」とはいわないので注意しましょう。
「口を添える」の場合、あたかも軽く一言付け加えるだけのような意味と誤解される可能性が否定できません。
語句本来の意味を正しく伝えるには、「口添えする」の方がより適切と考えられます。
「~さんのお口添えで」
関係者に対し、予め有力者の言質を得ている旨を知らしめる意味で「~さんのお口添えで」と述べる用例があります。
話し合いの場を例にとると、当該の有力者がには出席していないものの、自身の肩入れする人物を介して影響力を行使する場面が代表的。
より簡単な例でいえば、「~さんのご紹介で」「~さんのお取りなしで」といった使い方と同じです。
「お口添えいただきたく存じます」
目上の有力者に対し、事態を動かすための発言・言質を取り付けたい旨を要請する際には「お口添えいただきたく存じます」と伝えます。
身内ではなく、ある程度距離の遠い相手に対して使う表現です。ビジネスではOB・大株主といった関係の層が想定されます。
「お口添えありがとうございました」
「お口添えありがとうございました」は有力者の口添えが効果を発揮し、事態を動かした場合に使われるお礼の一言です。
一種の定型文になっているため、本当にお礼の気持ちを表したい場合は手土産を持参する方がよいでしょう。
「口添え」の類語・言い換え表現は?
「口添え」の類語・言い換えとして、下記のようなものが挙げられます。
力添え・助力
「力添え・助力」とは第三者による助けのことです。自分では対処できない問題を、第三者の助けによって解決できる場合も珍しくありません。
「口添え」も間接的な「力添え・助力」とみなせるため、類語の関係に当たります。
推薦・推挙
「推薦・推挙」は人材登用・任命といった人事に関する進言・口出しであり、「口添え」の形の1つです。
立場や力の不足によって自分から志願できない場合や、そもそも自分に適性が備わっているかが不明な場合もあるもの。
影響力を持った人物の推薦・推挙によって、自分では実現できない人事になる可能性もあり得ます。
仲介・取り持ち
「仲介・取り持ち」は「口添え」のスタンダードな形です。当事者の間に立って両者の橋渡しをし、利害の調整を図ることをいいます。
教示・教授・指南
「教示・教授・指南」も「口添え」の一種であるものの、位置づけとしてはやや変則的です。
口添えが結果として「教示・教授・指南」になることはあっても、「教示・教授・指南」を積極的に行う行為が必ずしも「口添え」に該当するわけではありません。
例えば技術指導の意味で「指南」という場合、「口添え」とは性質が大きく異なります。
文脈や前後関係によって意味が流動するため、「教示・教授・指南」と「口添え」を同義語として扱うのは避けるようにしましょう。
「口添え」の例文5選!
解説してきた用例を踏まえ、「口添え」を使った例文を紹介します。
例文
人事考課で、私の部下である竹内君に対する査定が課題の1つに挙がっているようだ。どうやら主任に就くには年齢が若すぎ、前例がないらしい。ついては特例として竹内君を昇格させるよう、私が口添えした。
例文
「中村様、A社の採用試験にお口添えいただけませんでしょうか」
「いくらOBでも人事には口出しできないよ…まぁ世間話の中で、見どころのある若者がいた、くらいの発言はできるかもしれんけどね」
「もしも機会がございましたら、ぜひお願いいたします」
例文
「中村様、A社から内定をいただきました。この度はお口添えありがとうございました」
「口添え」の英語表現
最後に、「口添え」の英語表現を紹介します。
“put in a good word for~”
意味:口添えする・取りなす
(例)
“I’ll put in a good word for you.”
(君を取り立てるよう口添えするつもりだ)
“recommendation”
意味:推薦
(例)
“This is my recommendation.”
(これは私のおすすめです)
まとめ
「口添え」の字面だけを一見すると、軽く一言挟むだけに思われます。
実際のところは当該人物の立場や影響力が背景にあり、間接的に政治・運営・人事などに関与する場合が少なくありません。
「口添え」も、使い方次第では「口利き」のネガティブな用法と同じ結果につながります。
言葉遣いを整えるだけでなく、行動も見合ったものにしていく心がけが大事ですね。